第5話 ゼルネア


「んじゃあ、こいつどうするか」

「大きいモンスターはナイフとかで解体して部位だけ持っていくのですが、すいません。今日はナイフを持ってきていなくて」

「護身用としても持っといた方がいいんじゃないの?」

「湖周辺ではあまりモンスターを見かけないんですよ。だから大丈夫かと思って...」


どこか危機感の足りていないメリナに二人は苦笑する。


「わかった。じゃー俺が運ぼう。」

「「え?」」

「よっっこいしょっ!!」


気合いの入った掛け声とともにジャイアントボアが持ち上がる。


「ほんと意味がわからないわ。アリさんなの?」

「お前絶対ケンカ売ってきてるだろ!!まあ、アリさんは?自分より大きいものも軽々と運ぶ働き者だから?トーマよりか仕事できるんだろうな~」

「うーわ!人が気にしてることをよくも!良いもーん。魔法使えるようになれば試し打ちで的にしてやる!」


絵文字のように頬をぷっくりと膨らませ黒髪の美少女は怒ってみせる。


「あのぉ、本当に申し訳無いのですが、足を挫いたのが痛みまして、もう少し休ませてもらえませんか?」

「だったら私がおんぶしてあげるよ」

「ええ!?いや大丈夫です!少し休ませていただければ、」

「もうね、そろそろ町に行きたいのよ!この新しい世界へのワクワクでどうにかなりそうだから、早く乗って!」

「わ、わかりました!ありがとうございます...」


メリナはその勢いに思わず了承し、トーマの背中にしがみつく。


「よし。ん?むむむ?女子おなごよ貴様なかなかのを持っているではないか!ずるいなこのやろう!」

「なにを言うんですか!」


トーマの背中に押し当てられた胸はその大きさを如実に表していた。


(ほほう、やはりなかなかの大きさだとは思っていたが、俺が背負えばよかったな。くそ)


その様子を見て、わりと真剣に悔しがるハルトに気づく者はいなかった。


「そんじゃ行こうぜ。」


大きな猪を担いだハルトの声で三人は歩き始めた。

...1人は背負われているが。





森を抜けた一行は遠目に塀が見えるのを確認。


「見えてきましたね。あれが私たちのギルドのある町、ゼルネアです!」

「町ってことはどっかの国に所属してたり?」

「そうですね。エランド王国に属しています。詳しいことはギルドに着いたらお話しします。結構大きい町なんですよ?美味しいお店も多いし、兵士の皆さんも優しいし...ってあぁ!」

「どうかしたの!?」

「まずいことを忘れていました!」

「...もしかして、門番みたいなのがいるのか?」

「そ、そうです。衛兵さんがいます。身分証明が必要なので、えぇと、そのぉ、」

「うーん。まあ、そればっかりはどーにかするしかないか」


面倒くさいがしょうがない。大きな猪を担ぎながら町の入り口に近づき、


「お、おい!ちょ、止まれ!まて!そんなでかいの...って、えぇ!?でか!?そいつを降ろしてくれ!」


スゴい勢いで若い衛兵の男に声をかけられた。


(こいつ、うるさいな。やっぱ結構な大物だったか)


そう思いながらハルトはジャイアントボアを降ろす。


「こんなでかいのを一人で...君はスゴい力なんだな。」


(あんたのテンションの方がスゴい気がするけどな)


「あのぉ、衛兵さーん...」

「ん?あぁ君か。無事キノコは見つかったのか?」

「えぇ、おかげさまで。」


いつのまにか背中から降りているメリナがそう返す。


「この二人はこの町では見ない顔だが、君と関係あるのかな?」


そしてメリナが二人について説明する。






「...本当か?そんなことがあるのか?まあ、見たことない服を着ているし、嘘をついてるようにも感じないな。君らも犯罪とかした訳じゃないんだな?」


衛兵が鋭い目付きで二人を見つめる


「「してない。」」


「そうか、なら信じてみよう。荒唐無稽だが君らからは好ましい雰囲気を感じる。」

「あぁ、ありがとう。あんた大物になるぜ。」

「はは、そうだといいな。では、町に着いたらどこかで証明書を作るんだぞ?丁度今日は私しかいないから、本来必要なお金は免除しよう。...貧乏なんだろ?」


最後だけ小声で気前の良いことを言う。


「まじか!それは助かる!スタートから借金なんて嫌だしな!」

「ありがとう~おにーさん!」

「はぁ~、良かった!ほんと~に助かります!ありがとうございます!!」

「そこまで感謝されると気分が良いもんだな。それじゃ、君らの町がどんなだったか知らないが、異世界初の町、ゼルネアへようこそ!」


そして三人はゼルネアへと足を踏み入れる。


「...最後のは私が言おうとしていたのですが...」

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