第8話 包囲網からの脱出
突然玄関の鉄の扉が勢いよく開くと、その向こう側には機動隊員がずらりと並んでいる。
突入してきたのだ。外のアレは時間稼ぎで、最初から交渉するつもりはなかったのだろう。
豊島よりも早くそれに対応できたのはユウだった。
拳銃を構えると、次々と引き金を引いた。狙いはまともに定まっておらず、盾で防がれている。時間稼ぎぐらいにならなっただろうか。
「嘘!私の拳銃?」
自分の拳銃がユウに抜き取られてしまったかと思った豊島は、脇のホルスターを確認する。
「やっぱり違う。私のじゃなかった。どうして悪魔が拳銃を持っているの?」
その豊島の疑問がユウに聞こえたのか、ユウが答えた。
「オレに攻撃して来たやつらから奪った。この武器はなかなか興味深い」
二人の警察官と豊島が撃ちあった際、倒れた刑事の拳銃をユウはこっそり抜き取って自分のものにしていたのだ。
バンバン撃つものだから拳銃の弾はすぐに尽きてしまった。ユウは不思議そうに拳銃の銃口を覗き込んでいる。
まだ完全には拳銃の仕組みを理解していなかったようだ。
さらに踏み込んでくる機動隊員を豊島が拳銃で牽制しようとする前に、ユウが今度は変形させた自分の腕で攻撃を仕掛ける。
ハンマーみたいに固く握った拳がジュラルミンの盾を思いっきり殴ってへこませる。その衝撃で隊員たちは後ろにふっ飛んだ。
豊島はその変形する腕を見て、やはり人間ではないのだと再認識していた。
隊員たちの間をぬって少し毛色の違う制服を着た隊員が飛び出してきた。彼はユウに向かって銃を構えると、躊躇いなく銃弾を浴びせかける。
その男は豊島が配属された部隊の男であった。豊島はまだ彼の名前すら覚えていない。
今度は腕を盾の形に変形させて銃撃に耐えるユウ。その奥の部屋には豊島と礼がいる。
「私です。今日配属された豊島藍です!この悪魔さんは敵ではありません!!ただちに攻撃を止めてください」
豊島は同僚に向かって呼びかけてみたが返事はない、やはり支配されているようだ。
アサルトライフルの弾が切れたのか、銃撃が止んだ。
ユウは次の攻撃が来る前に勝負を決めようと腕の形を攻撃的に変形させる。
そんなユウたちに向けて、男が何かを放り投げて自分も部屋の外へ下がった。
「閃光弾!」
豊島はその正体に気づくと礼をかばうようにして伏せながら目を閉じた。音と閃光が部屋を包む。
それがどういう武器なのかの知識が全く無かったユウはまともにくらってしまった。
一時的に使えなくなってしまったので、腕に代わりの目を複数作りだした。キョロキョロと周囲の情報を探る黒い目がそれを発見した。
光が無くなるのとほぼ同時に、窓の外ではロケットランチャーを構えた小柄な若い女が、引き金を引いてそれを部屋の中に向かって発射した。
ユウは学習する。何度も同じ手は食わない。
その行為が自分たちへ向けての攻撃だと予想して行動する。
ここは攻撃に移るべきだと。
腕を盾の形に変えて砲弾を受けるのではなく、礼を抱えてこの部屋から抜け出すことにした。
礼を探すと豊島の下敷きになっている。引き剥がすよりもそのまま二人を抱えた方がわずかに速いと判断して、二人をまとめてつかんで窓の方へ走り出す。砲弾が炸裂する寸前に外へ飛び出した。
砲弾は単なる爆弾ではなく、細かい針のような矢が弾けて四方八方に刺さった。当然部屋の中はめちゃくちゃになっている。
ユウが二人を抱えて地面へと着地した時、その衝撃を上手い具合に殺せた。
ユウの背中には鉄製の矢が刺さっていたけれど、ユウは平然としている。
もう持っている必要も無いので、豊島だけを地面に落とすと彼女は間抜けな声を出した。
豊島にとっては信じられない様な出来事であった。しばらくぼーっとして周囲の様子をうかがっている。
その間ユウは攻撃してきた警官隊と交戦中だ。
豊島が後ろを振り返って、自分の部屋がある方を見上げた。窓ガラスは飛び散って、お気に入りだったカーテンは見るも無残なボロ布と化している。
ユウの方を見ると、自動車をひっくり返しているユウを背後からバズーカ砲で攻撃しようとしている小柄で若い女がいた。彼女も豊島の同僚であるが、先ほどの男同様名前は知らない。
彼女も操られているだけだとわかっているけれど、このままにしておくと心の収まりが付きそうにない。
正義のヒーローの必殺技といえば飛び蹴りである。
助走をつけて無防備なバズーカ女の背中に全身全霊の恨みを込めた飛び蹴りをくらわしてやった。
背中に足型がくっきりとついている。悪の怪人みたく爆散はしなかったけど、前のめりにぶっ倒れている。
「吹っ飛ばされたカーテンの恨みだ、や~い、ざまあみろ!」
一歩間違えばバズーカ砲が暴発しかねない危険な行為だとわかるはずなのに、あまりもの状況変化について行けずに置いてかれ、冷静さを失った豊島藍は止まらなかった。
ユウが礼を連れて包囲網から抜け出そうとしている。このまま独りとり残されると、この惨状すべてを自分一人の責任にされてしまいかねない。逮捕で済めばいい方だろう。
「置いてかないで。待って~!」
現場の混乱に紛れてユウたちを追いかけて逃げた。
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