泡沫の蒼空を舞う天使機関《エンジェル・エンジン》

八神きみどり

序幕

序幕

 その瞬間、死に絶えゆく少女たちは何を考え、何を思っただろう。



 排煙混じる黄色く淀んだ空気の早朝、一人の少女は手を伸ばす。


 半壊した豪奢な建築物の中、一人の少女は目を閉じる。


 変わり果てた居心地良い父の仕事場の中、一人の少女は言葉を仰ぐ。



 少女たちは、助からないことを理解していた。


 自分の命の無意味さを考えた。大人にもなれず死ぬ現状を嘆いた。


 その瞬間、世界一不幸であることを自覚した。思考はやはり無意味だと判り、考えるのをやめた。



 少女たちの死は確定した。


 そして、全ての事象は予め確約される。


 人間は生まれた瞬間から死へ向かう。それはどう足掻いても逃れられず、後は早いか遅いかの違いだ。形在る物はいずれ壊れる。

 それは例えば、世界であっても同じはずだ。



 死に絶えゆく少女たちは助かりたいと願い、助からない現状を呪う。


 その堂々巡りの果てに辿り着く、願いも呪いも無意味である事実。



 諦めは、薄れゆく意識を手放す。願いも呪いも叶わないのだとしたら、それは祈りでしかない。祈りは誰にも届かない。なぜなら、祈ることで何かが変わるのなら、人間はとっくの昔に死から解き放たれている。



 ――だが、その理を破り、願いや呪いを聞き入れてくれる存在がいたとしたら。



「ねぇ、あなたはまだ、どうしようもなく生きていたいはずでしょう?」



 少女たちは、不躾なその声に耳を傾ける。


 判り切ったその言葉は、せっかく諦めた生への執着を蘇らせる。


 少女は手を伸ばし、少女は目を開き、少女は言葉を仰ぐ。



 そこに立つ存在へと願う。


 どうしようもなく、死にたくはないのだと。



「そう。なら助けてあげる。そうして私の“妹”になりなさいな」



 その存在が手を伸ばし、視界を埋め、言葉をもたらす。

 確約された死が、生へと転ずる。




 その瞬間、少女たちは何をも考えず、何をも思わない。

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