operation.7 マナナーン・マクリール
――それで、その顔が出来たってわけか!!
少年の笑い声が脳内に
あのあと、正気を取り戻したコナミの意識に俺は思いっきり
忘れられず、データーから消去することができないと言ったほうが正しいのかもしれない。今の俺は、メロウと同じホログラムの姿で現実世界にいるのだから。
そっと俺は顔をあげ、声の主を見つめた。俺の目の前には巨大な球体がある。液体が満たされたその球体の中に、1人の少年が浮いていた。
細い体を無数のコードで
成長する俺と違い、いつ見てもこの人は少年の姿のままだ。
――にしてもさ、その姿で来ることはなかったんじゃないの? 兄弟。君が人間じゃないって、奴らにばれちゃうよ……。
――分かってるよ、兄さん。でも……
――コナミちゃんが、お前の手を放してくれないんだろ?
彼が笑いかけてくる。脳内に意地の悪い彼の言葉が響いて、俺は彼から顔を
心なしか、顔が熱い。
現実世界の俺は、テラリウム内にある医療施設でコナミに付き
俺は自分の『意識』を情報としてこの場所に飛ばしている。正確に言えば、このホログラムの姿が、俺の本当の姿と言った方が正しい。
――それよりミサキ、調子の方はどうだい?
兄さんが俺に話しかけてくる。俺は、球体の中にいる彼をじっと見つめていた。
彼は
天才科学者であった漣博士の一人息子であり、博士の
ネットの意識の1つ、原型マナナーン・マクリールこそ彼そのものなのだから。
かつて、人類がAIに選択権をゆだねることに苦悩を感じていた博士は、息子の一言から悪夢のような
――僕がAIたちの代わりになることは出来ないの?
みさきが放ったその一言がすべての始まりだった。その言葉をヒントに、彼は実の息子を機械に
ネットの海を
そして、人類のほとんどがその事実をしらない。
人類は自分たちより優れたAIによって、平和なこの世界が保たれていると信じているのだ。
実際、彼らを支配しているのは、同じ人間だというのに。
――また浮かない顔してるね、兄弟。そんなに、僕のことが嫌い?
兄さんの言葉に、俺は我に返っていた。兄さんの蒼い眼が、責めるように俺に向けられている。
――何で兄さんは、俺なんて造ったの?
――前も言ったでしょ。面白そうだからだよ。実際、ミサキを観察するのはとても面白いし、興味深い。
俺の言葉に、兄さんは笑ってみせる。その笑顔は、どこか
俺は兄さんによって造られたAIだ。
父さん、漣博士は自身の息子に自由に動くことができる体を与えた。だが、彼の息子はその体に自分で制作した別の人格を植えつけた。
それが俺、『オペレーションシステムMISAKI』だ。
俺は兄さんの情報をもとに造られ、兄さんと記憶を共有する存在でもある。
もっとも、俺のスペックはそんなに高くない。兄さんが
なにせ、彼はこの世界のカミサマなのだから。
――ミサキは、僕に夢をくれる。だから、僕にとってミサキは大切な人なんだよ。そんなこと言わないでよ。
――でも……。
メロウの笑顔が脳裏を過る。
メロウは漣博士が兄さんのために作ったオペレーションAIだ。
そのメロウのプログラムを兄さんは書き換えた。自分ではなく、俺に好意を持つAIにするために。
俺がインストールされている体も、もとは漣博士が兄さんのために作ったものだ。それを俺は『借りている』に過ぎない。
――ミサキ、そんな顔しないでよ……。
表情を
――
そんなミサキの毎日を見守ることが、僕のささやかな楽しみなんだ。だから、自分がいらない存在だなんて思わないで……。
寂しげに、兄さんが笑う。
――兄さん。
そっと俺は、兄さんの閉じ込められた球体へと近づいていた。ホログラムの透けた手で、球体の表面に触れる。俺の手は球体を突き抜け、兄さんの頬に
――ミサキがいてくれたお
そっと兄さんの手が、透明な俺の手を包み込んだ。
――ミサキ、自分自身を否定しないで。君がいなくなって悲しむのは、君だけじゃない。
――兄さん……。
――君を想ってくれる素敵なレディが、2人もいるじゃないか?
――メロウとコナミのこと?
――そう。
――あれは、仕方なく……。
――へぇ、その割には
――あんなガキ、興味ないしっ!
――僕のコナミちゃんを
――いや、兄さんのでもないからっ!
叫びながら俺は兄さんへと振り向く。球体の中で、兄さんは楽しそうに笑っていた。
――兄さん……。
――ごめん、ミサキの反応が楽しくてつい……。それに父さんだって、ミサキのこと好きだってよ……。
ふっと、兄さんが目を伏せる。
――父さんが、どうかしたの?
――
そう告げる兄さんの言葉は、震えていた。悲しげな兄さんを見て、俺は胸がチクリと痛む。
いつからだろう。漣博士が、自身の息子をヒトでなくしたことに
その肉体に、彼の息子は別の人格を植えつけたのだ。その行為は、彼にとって裏切りと思えたのかもしれない。
漣博士は、父さんは俺に優しかった。
でも、父さんはいつも寂しそうで、俺じゃない誰かを思っていた。
父さんはずっと、兄さんのことを考えていたんだ。
そして、父さんは俺たちの前から姿を消した。
父さんは、命を狙われていたのだ。AIに支配されることを望まない反対派と呼ばれる人々がいる。反対派の中には、
そんな
でも、本当は――
地面を蹴り、俺は球体の中に
――ミサキっ!
驚く兄さんを、俺は透明な体で抱きしめてみせた。ホログラムの俺の体で兄さんに触れることはできない。でも、俺は悲しげな兄さんの顔を、見ていたくなかったんだ。
――父さん、兄さんのことはなんて言ってたの?
――わからないってさ……。
答える兄さんの声は、かすかに
――
兄さんに微笑んでみせる。。悲しげな眼をゆっくりと細め、兄さんは俺に微笑みかけてくれた。
――ありがとう。ミサキ……。
兄さんが感謝の言葉をくれる。俺は嬉しくなって兄さんの頬を優しくなでていた。
――ねぇ、ミサキ。お願いがあるんだ。
――なに?
――
――彼女?
――メロウの事だよっ!
――うわっ
――ちょ、兄さんっ?
――せっかくその姿でいるんだから、デートぐらいしてあげて。君がコナミちゃんにちょっかい出したせいで、メロウはすっごくへこんでるよぉ!
――だからって、どこに俺をぶっ飛ばす気だよっ!
――お
ぐっと親指を突き立て、兄さんは俺に叫んでみせる。俺の体はぐんぐんと
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