7.5~ミシェイラの思い~

 広い背中のぬくもりを感じながら、ミシェイラは薄っすらと目を開けた。肌寒さを感じ目の前のぬくもりに擦り寄ると、男の匂いが鼻孔をくすぐる。大好きな人の匂い。忘れることのない匂い。この匂いが自分にも移ればいいのにと思いながら、ミシェイラは自分の匂いも男に移れと思う。


「起きたか?」

「・・・・・」


カオルの言葉にミシェイラは口を開かず、男の肩に顔をぐりぐりと押し付けた。


「何かあったのか?」

「隊長は、どうするの?」

「何がだ?」


酔っているからかミシェイラの声が幼い。カオルは肩口のミシェイラに視線を向けると、また直ぐに前を向いた。


「この国が平和になったら」


ミシェイラの言葉に、カオルは喉の奥で苦笑した。まだこの国が平和だった頃を思い出すことはできる。だが、この国が平和へと戻ることは想像つかない。カオルは空を見上げると、目を閉じた。


「さあ、どうするのだろうな」


ミシェイラがカオルにこの質問をしたのは、今日が初めてではない。だから、返事を聞かなくても、ミシェイラにはカオルの答えがわかっていた。


「隊長はしたいこともないの?」

「僕の望みはこの国の平和だ。それ以外にはないよ」


寂しすぎる望みにミシェイラは泣きそうになった。この国の平和を望んでいるのはカオルだけではない。黒祇の隊員、国民、誰もが望んでいることだ。だけど、その先に何かしらの望みも抱いている。


「私は、ずっと隊長と一緒にいたい。この国が平和になってからも」


回された腕の力が強まると、カオルが足を止めた。

 カオルは口を開こうとして、だけどその口から言葉は何も紡がれなかった。再び足を進めると、カオルとミシェイラは本部に着くまで、言葉を交わすことはなかった。

 ミシェイラは、ベッドに倒れ込むと、枕に顔を押し付けた。


「また何も言ってもらえなかった」


ミシェイラは体を反転させると、大きなため息をついた。


「愛してくれなくてもいいから、隣にいさせてほしいだけなのに・・・」


弱々しい言葉は、部屋の静寂の中に消えていく。

 強すぎるミシェイラの思いに、ミシェイラ自身が押しつぶされそうになっていた。

 

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