第6話 初めてのダベリ

 夜の公園。ジム帰りの大介が自販機でジュースを買っている。その横に隼人と翔太が立っている。

「ほれよ、おごりだ。今日だけだぞ」

「あ、ありがとう」

 大介がジュースを翔太に投げ、翔太が受け取った。

 小さいベンチに、翔太を真ん中に大介と隼人の三人が、肩を寄せ合って座った。

(狭いなあ。でも友達と公園で話をするなんて、生まれて初めてだ)

 そう思いつつ、翔太は

「あの」

 と二人に声をかけた。

「なんだよ」

 答える大介に、翔太はきいた。

「大介くんは、どうしてキックボクシングを始めたの?」

「ストライカーのてっぺんをとるためよ」

「ストライカー?」

「打撃格闘技をストライキング、打撃格闘家をストライカーっていうんだ。もとは総合格闘技で使われている言葉だけど」

 隼人が言った。

「俺がガキのころ、ストライカートップっつー打撃格闘技イベントが大ブームでさ。当時は、魔裂鬼((まさき)と火流矢(ひるや)っつー二人のスターがめっちゃ強くてな。二人にあこがれて、キックボクシングを始めたのよ」

 大介が力をこめて語った。

「結局その二人が引退して、ブームは終わったけどね」

 隼人が言った。大介は身を乗り出した。

「魔裂鬼と火流矢が引退して10年たった。魔裂鬼たちにあこがれて、ストライキングを始めたガキどもが、そろそろリングで暴れ始める頃だ。俺はその中でトップになる。そして、美人の女優を嫁さんにするのよ」

 大介は胸をはって言った。

「ぼくは大介のマネージャーをして、プロモーション、ジム経営、テレビ解説者、格闘技雑誌の出版をして、日本格闘技界のドンになる。そして、かわいいアイドルと結婚するんだ」

 大介と隼人が言ったことを聞いて、翔太は沈黙した。

「おまえ、いま、なんだ女目当てかって思ったろ!?」

 大介と隼人が声をそろえて、翔太に大声で言った。

「そ、そんなこと!少し思ったけど」

 翔太があわてて言った。

「バッキャーロー、男が強さを求める理由なんてな、1に女にもてるため、2に誰にもバカにされないためよ。それが男のロマンだぜ!」

 大介がさらに胸をはって言った。

「翔太くんは、どうしてキックボクシングをやろうと思ったの?」

 隼人の質問に、翔太は目を伏せた。

「ぼくは、生きたいからかな」

「なんだそりゃ。今でも生きてんだろうが」

 大介が笑いながら言った。

「そろそろ帰ろうか」

 隼人が言い、三人は各々家に向かって歩いていった。

 翔太は歩きながら思った。

(そうだ、ぼくは生きたいんだ。胸をはって、堂々と、誰にも守られずに、一人で)

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