第5話 初めてのブチこみ

「今から翔太くんも、大介くん達と同じ練習メニューにしよう。ただし、使う技はジャブとストレートだけ。ミット打ち、やりましょう」

「ええ~、大介くん達と同じー?」

 早見の言葉を聞き、翔太がさらに舞い上がった。

「大介くんが翔太くんと組んで。隼人くんはぼくと組もう」

 大介が軍手と16オンスのグローブを、翔太の前に差し出した。

「ほれ、ジムのレンタル品だ。バンテージ代わりの軍手とグローブ、はめろや。おれがミットを持ってやる」

 翔太は緊張しながら、軍手とグローブをはめた。大介は両手にミットを持った。ミットは、拳から肘までを覆う長方形タイプで、パンチとキックの両方を受けられるもの。

 翔太はグローブをはめ、鏡に向かって構えた。

「か、かっこいいかも」

 鏡に映った自分の姿を見て、翔太は高揚した面持ちで言った。

「なに自分に見ほれてんだよ。始めるぞ」

 ピーッとブザーが鳴り、早見が持つミットに、隼人がジャブ、ストレート、右ミドルキック(中段回し蹴り)をブチこんだ。

「俺の左手のミットにジャブを、俺の右手のミットにストレートをブチこめ」

 大介がミットを構えて言った。翔太は、言われたことを考えてとまどう。

「翔太くん。自分の拳から遠い方のミットを打つんだ。この練習で、肩を大きく早く回転させる基本の動きを身につけるんだよ」

 早見が隼人のパンチを受けながら、翔太に声をかけた。

「いいパンチをブチこむコツはな、ミットの前に、ぶん殴りたいやつの顔を思い浮かべることだぜ」

 大介がニヤリと笑って言った。

「ぶん殴りたいやつ」

 一瞬、翔太は考え、キリッと真顔になった。構えから、ジャブ、ストレートをミットにブチこんだ。

「いいぜ。カツーンと、まっすぐ貫通する感じだ」

 大介にほめられ、翔太はますます舞い上がり、頬が赤くなった。


 大介がミットを翔太の前腕にはめた。

「ミット持ち、交代だ。とりあえず、両耳の少し前にミットを立てる感じで持ってくれ」

 大介に言われたように、翔太はミットを持った。ピーッとブザーが鳴ると同時に、大介はジャブ、ストレート、ジャブ、ストレートの4連発をミットにブチこんだ。

「ひぃー」

 翔太は悲鳴をあげ、目をつむって、身動きできずにパンチを受けた。

「目はしっかり開けとけ!」

 大介が怒鳴った。

「翔太くん。ミット打ちは、打つ側だけの練習じゃないんだよ。ミットを持つ側は、パンチやキックへの目慣らし、受けるときの衝撃に慣れる練習になるんだ」

 隼人が持つミットに強烈なストレートをブチこみながら、早見が微笑みつつ、翔太に言った。

「はい」

 翔太は目を、力一杯大きく見開いた。

「いや、普通に開ければいいからね」

 隼人が持つミットに強烈な左ミドルキックをブチこみながら、早見が微笑みつつ、翔太に言った。

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