第2話 新たな出会い

 上谷高校の校門を、学生たちが入っていく。校門の横の立て札に「上谷高校入学式」と書かれている。

 翔太は、目立つことを恐れるように、背中をまるめ、伏し目がちで校門を入っていった。

 突然、翔太の後ろの方で、一人の少年-藤山大介-がバカっぽい大声で話し出す。

「あー思いっきし誰かを殴りてー。蹴りてー。入学式なんて、かったるいだけだぜ」

「声がでかいぞ、大介。入学早々、悪めだちだろ」

 大介といっしょに歩いている少年-竹内隼人-が、やれやれまたかという感じで大介に言った。

「隼人は退屈じゃないのかよ。校長や生徒会長の話なんざ、眠たくなるぜ」

「とにかく大声はやめろ。周りがカンペキ引いてるぞ」

 大介と隼人が話している横を、流也が追い越していく。流也に気づいた翔太が立ち止まる。大介が流也を見て、突然叫ぶ。

「王武会空手の抱月流也じゃねーか!いっちょやろうぜ!ハイキーック!」

 流也の前に走り出た大介の右足が弧を描き、流也の左頬に飛んだ。

 流也は冷静に、左腕で蹴りをブロックし、同時に右裏拳を、大介の鼻に飛ばした。

 大介は左の掌で裏拳を受け、ステップバックして、大介との間をあけた。

「いきなりハイキックをくらっても、受け即攻めときた。空手の交差法か。さすがだ。流也ちゃん」

 うれしそうに大介が言った。

「背足じゃなくスネを当てにきた。引きを考えない振りぬく蹴り。空手やカンフーじゃない。キックボクシングだな。誰だ、おまえ」

 冷静に大介の蹴りを分析した流也は言った。

「俺は藤原大介。新入生で、キックボクサーだ。いきなり蹴って、悪かったな。まあ挨拶代わりと思ってくれや」

 笑顔で大介は言った。

「挨拶代わりに人を蹴るか、普通」

 流也は、あきれたという顔をして言った。

「まあいいじゃん。それよりさ、試合やろうぜ試合!」

 大介は、流也の言うことをまるで気にせず、あっけらかんと言った。

「やらない」

「えー、どうして?楽しいのに。じゃあ軽いスパーリングでもいいから」

「やらないといったらやらない。王武会では私闘は禁止されているし、これから入学式だろうが」

 流也は、大介を相手にせず、講堂に向かった。残された大介は、信じられないといった顔で、

「試合禁止って、つまんねー奴だな。しゃーないから、上級生のワルでもシメルか」と言った。

「いいかげんにしろ、大介。入学初日に退学になるつもりか。それに、弱い者いじめをしたら、早見さんに叱られるぞ」

 隼人はそう言うと、大介の腕をつかんで講堂に歩いて行った。翔太は、大介と隼人を追っていった。


 1年A組の教室。チャイムが鳴っている。翔太の隣の席の大介が、「さーて帰るべか」と言いながら、カバンを持って立ち上がる。少し離れた席で、隼人が帰り支度をしている。流也はB組なのでいない。

 翔太は座ったまま、ちらちらと大介を見る。突然、大介が翔太の横に立ち、翔太をにらみつけた。

「おい。さっきから、こっちをちらちら見やがって。なんか文句でもあんのか」

 大介はドスをきかせた声で言った。翔太は驚く。

「わーごめんなさい、ごめんなさい。今朝、流也くんにかかっていったのを見て。すごく強いんだなって」

 翔太はアタフタしながら言った。すると、大介は「ほう」と言いながら、胸をはった。

「俺の強さがわかるのか」

「わ、わかるよ。流也くんが蹴りを腕で受けたのは、よけるのが間に合わなかったからで。それは、つまり大介くんの蹴りがすごく速かったからであって。それに、流也くんの裏拳は、普通の人には見えないくらい速いのに、それを受けたのもすごい」

「おお、わかってんじゃん、おまえ」

「あの、どうしてそんなに強いの?」

「俺の強さの理由を知りたいってか。よっしゃ、俺についてきな」

 隼人が大介に近づいてくる。

「おい、そいつをジムに連れて行くのか」

 隼人が大介に言った。

「そうさ。早見さんも見学者は大歓迎って言ってただろ」

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