スタンド・アンド・ファイト!

ゆめのいちろ

第1話 ぼくは寄生虫

 上谷中学の校舎の裏。4人の少年がいる。

 茶髪のノッポとモヒカン刈りのデブが、一人の長身の少年-抱月流也-に殴りかかるが、流也は上体をそらし、踊るような軽いステップで、ノッポとデブの拳をかわす。

 そのそばで、小柄な少年-南翔太-が身を縮めて、流也の流麗な動きを見ている。

 一瞬、流也が目にもとまらない速さで、右ヒザをノッポの左足のももに蹴りこみ、左拳をデブの腹にずんと突きこんだ。デブとノッポは倒れた。

「いでえよお。もう勘弁してくれ。流也」

 デブがうめくように言った。

「翔太のサイフを返せ」

 流也が低い声で言うと、ノッポがズボンのボケットからサイフを取り出した。

「わかったよ」

 吐き捨てるようにノッポは言い、流也のそばに立っている翔太に向かって、サイフを投げつけた。

「翔太。てめえは、なにかっつーと流也に頼りやがって。流也にべったりの寄生虫が!」

 ノッポは翔太に罵声をあびせると、走ってその場を逃げ出した。

「おぼえてやがれ」

 デブも捨て台詞をはき、走って逃げた。

 流也と翔太の二人が残された。翔太がおずおずと流也に声をかける。

「あ、あの流也くん。サイフ取り返してくれて、ありがとう。ほんと、いつもありがとう」

「翔太は、くやしくないのか?」

「え?」

 流也の思わぬ問いかけに、翔太はとまどった。

「寄生虫と言われて、翔太はくやしくないのか!」

 怒気をはらんだ声で、流也は言った。

 翔太は驚き、唇が震え始める。

「そそ、そりゃ、寄生虫はひどいけど。実際、幼稚園のころから、流也くんには助けてもらってるし。進学先の高校も同じでよかった」

「もう、うんざりだ」

 流也が低い声で言った。翔太は言われたことを理解できず、呆然としている。

「幼なじみだからって、いつまでもベタベタしやがって。困ったときには、すぐ俺に頼る。いいかげんうんざりなんだよ。甘ったれやろう。もう俺に話しかけるな!」

 流也は翔太を怒鳴りつけた。打ちのめされたような顔の翔太はなにも言えなかった。

 流也は足早にその場を去った。一度も翔太を見ずに。

 一人残された翔太は思う。

(そうだよね。怒って当然だよね。ぼくは臆病で弱くて、なんの取柄もないクズ。流也くんは、勉強もスポーツもできて、空手黒帯のすごい人。ぼくなんかが、いつもまでも友達でいられるわけがなかったんだ)

 翔太は唇をかんだ。涙が出そうになってきた。

(でも、ぼくのたった一人の友達だったんだけどなあ)

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