第23話 コロシアイ


 空から降って来る爆弾を避けながら、アラン達は林へと走った。


やがて木々に覆われた地が見えてくると、奥の方へミア達を隠れさせ、アランとアーノルド、ノアの三人は激戦を繰り広げている地を見つめた。





「おい、これからどうする?」

「どうするったって……」

「このままじっとしてるの?」

ノアの言葉に、二人はミアとアビーを見やる。


二人はその震える体を抱き合い、ただただ耐えていた。

そして再び、視線を元居た場所へと戻す。変わらず激しい戦闘が繰り広げられていたが、アーノルドは何かに気付いたように声を上げる。


「おい、誰かこっちへ来るぞ!」

「何!? アギレスか?」


アランが胸ポケットから薄型双眼鏡を取り出しそれを覗く。

そこには、こちらへ駆けてくる数人の影。だがそれはアギレスたちではなく――


「やばい! 見つかった!」


アランのその言葉に、ミアがびくりと体を跳ねさせる。


「相手は4人……いや、5人か」

双眼鏡から目を離したアランは、肩にかけていた鞄から三丁の拳銃を取り出す。アーノルドはそれを見て驚いたように言う。

「おいおい、どっから取って来たそんなもん」

それに対しアランは、

「捕まったときにちょいと拝借した」

と、事も無さげに答えた。


捕まった時、とはつまり彼らがあの牢に入れられた時だ。

4人が、学園から家路へと続く道を歩いていたその時、突如襲ってきた軍人たち。彼らはその腕に、ある腕章を着けていた。それに見覚えのあったアランは嫌な予感を胸に抱きながら、なすがままあの牢へ連れてこられたのだった。


「これでやっとはっきりしたぜ」

「の、ようだな」


アランの言葉にそう返したアーノルド。

彼らの狙いがミアなのだと、薄々勘付いてはいた。だが何の為に、どうして――。

その理由を考えるよりも前に、体は勝手に動いていた。いつかと同じように。


そう、初めてミアに会った、あの時と同じように――。



二人はその手に銃を構え、迫りくる敵へと向ける。それを見たミアは咄嗟に叫んだ。


「ちょっと、何してるの! 早く皆で逃げ、」

「悪いがそれは無理だ」

ミアの言葉を遮り、アランは続ける。


「いいか。俺達で時間を稼ぐからこの先へ逃げろ。この奥に建物があるはずだ」

「何故それを知ってる?」

アーノルドが引き金を引きながら不思議そうに訊ねると、アランはゆっくりと答えた。







「……たまたま知ってたんだよ」




 先日父の書斎で見た、あの動画。

 

 炎に焼かれる村、こだまする人々の叫び声。



 そしていま、自分がその地にいるのだと思うと、身震いがする。





そこまで考えると、すぐ近くまで迫っている敵に銃を向け発砲した。



二発、三発撃ったところでそのうちの一人が倒れたのを確認し、次へと標準を向ける。隣のアーノルドもそれに続き銃を構えると、引き金に指をかける。




「きゃあああっ!」


突如上がった悲鳴に急いでそちらを向くと、先回りしたのだろう。敵の一人がアビーの髪を掴んでいる。


「アビー!」

アーノルドが振り返ったその時、一発の銃弾が胸を貫いた。


「アーノルド君!」

その場に倒れこんだアーノルドに近づこうとしたミアだったが、彼はなんてことないよいうように、顔を上げた。

隣では、ノアがアビーを掴んでいる男に殴りかかっている。だがそれも程なくして、その地へと体を投げ飛ばされる。

軍人である彼らもそれなりに訓練を積んでいる。だがそれも、相手が現役の軍人となると話が変わってくる。



「わたしの、せいで……」





一人、また一人と倒れて行く仲間たちを見て、ミアは叫んだ。


「お願いもうやめて! もうやめてよお!」

その叫びも虚しく、銃撃戦は激しくなるばかり。

そして、こちらへ駆け寄って来るある人物に気付くと、ミアはその男にしがみついた。


「お願い! あの人たちに言って! 逃げて、って!」

「その前にお前を逃がす」


ミカエルはミアを抱きかかえ、森の奥へと走って行った。

アランはそんな二人の背を見届けると、再び銃を構えた。








「逃げろ、ミア。……お前だけでも――」



アランはそう呟くと、いつかと同じように、迫り来る敵に向って行った。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る