第21話 夜空のドライブ
今までにないほどのスピードで走ったその飛行車は、今はゆったりと風に乗っている。運転席の男は時折、車の液晶で現在地をどこかに知らせている。
ミアは立体に浮かんだその地図を見つめながら、真剣な表情をしているミカエルを見た。
「ねえ、みんなは?」
ミアのその言葉に一瞬ちらりと視線を寄越しただけで、彼は何も言わない。それを不安に思ったミアが再び口を開こうとしたとき、後ろから軽いクラクションの音。
振り返ると、狭い飛行車にぎゅうぎゅう詰めになった彼らの姿。
「アビー!……と、みんな!」
「その間は何だよ、その間は」
アランの冷静なツッコミに、ミアはその頬を緩めた。
◆◇◆
さて、無事合流した彼らは、そうしてしばらく空を並行して走っていた。
無事脱出した彼らだったが、そもそも何故捕まっていたのか。その理由を聞いたミアは、顔に暗い影を落としていた。ミアが連れて来られた理由は、後に判明するがいま目の前にいる4人は彼女の友人、ただそれだけで牢に入れられたのだ。
政府の人間が何を考えているのか、それを知っているのは、運転席にいるミカエル。そして――
もう一台の車を運転する軍服の男。隣には同じような軍人。
アラン、アーノルド、ノアは後部座席に座っていた。ノアの隣にはもう一人軍人が座っている。彼らの素性は未だ、謎のまま。
ノアは隣の軍服の男をじーっと眺めていた。
「…………」
だが男は表情を変えることなく、目の前を見つめている。
ノアがそうして怪し気な視線を男に向けていることに気付き、アーノルドはそっと耳打ちした。
「おい、あんまジロジロ見ない方がいいぜ」
「うん。わかった」
そう返事を返すノアだったが、未だその瞳は隣の男に向けられていた。
対するミカエルの方に乗っているのはミア、アギレス、そしてアビーだ。……彼女は半ば無理やりこちらに乗って来たのだが。
「なあ、こっからは飛行禁止区域じゃないか?」
突然上がったその声に一同が下を見下ろすと、そこにはいくつかの建物とその上空を囲むように、黄色い電子ラインが浮かんでいる。
『飛行禁止区域』その文字が立体に浮かぶ。
飛行禁止区域とは、主に政府の管轄である場所や、危険物などを取り扱う地の上空に設けられている区域のことだ。関係者以外の飛行は禁じられている。
「禁止区域に入ったからといって別に、」
ミカエルが先程上がったその言葉に答えるが、
「あ、見ろよあれ。俺の家だ」
「あ、ほんとだ。俺ン家見えるかな?」
そのミカエルの言葉を聞く者は誰一人としておらず、彼らはそこかしこで好き勝手に会話していた。それはミカエルがいる、こちらの車内でも同じだった。
「ミアさん、無事で何よりです」
「アビーも、なんだか私のせいで、」
「何を言いますの? ミアさんのせいでは……」
「…………」
後ろでいちゃつく女二人を、ミカエルはバックミラー越しにジト目で見つめている。
そして、後部座席にいる二人に向けて言った。
「おい! お前ら遊びに来たわけじゃないんだからな!」
「っまあまあ落ち着けよ」
「ミア、あれがバルドの中央、」
「アンタも聞けよ人の話!」
途中アギレスが宥めるように口をはさんだが、ミカエルは眼下にある建造物を指さし、自らも会話に加わった。
何だかんだ緊張感のない彼らではあったが、それから無事に、目的地である隠れ処へとたどり着くことが出来たのだった。
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