第18話 The “ENEMY”
「いい加減に吐いたらどうだ」
狭い独房に、二人の男。
一人は軍服を身に纏い、その拳を振り上げている。
もう一人は椅子に身を拘束され、身動きを取ることもできずにただ殴られ続けていた。やがて何度目かのその言葉を口にして、男は懐から銃を取り出した。それを目の前の男に突き付けると、低く唸るように言う。
「これが最後だ、セバス。……あの娘はどこだ」
「貴様に言うくらいなら死んだ方がマシだ」
「そうか。ならば、」
男がセバスの額に銃口を突きつけ、引き金に指をかける。
「だが私がいないと困るのは、そちらじゃないか?」
「…っ、」
銃を向けられても平然としているセバスは、目の前のこの男が自分を殺すことはないと強く確信していた。それもそのはず、セバスはただの一研究員ではない。
「私がいたからこそ、今のあなたがいるのだ。そうだろう? 閣下」
セバスが皮肉を込めてそう言うと、閣下と呼ばれた男――カイルは苦々し気にセバスを睨む。
表向きには、このカイル・クラークがS鉱石第一発見者と言われてはいるが、実際は違った。当初、S鉱石を発見したのはもう一人の科学者であった。そしてもう一人、このSSEに深く携わった男がいた。
――それがこの男、セバス・コーウェルである。
当時“クロン”という物質の研究を進めていたカイルだったが、後にS鉱石を発見した一人の科学者と出会い、それから二人はともに研究をすることになる。だがなかなかうまくいかず、作業は困難を極めた。そこへ現れたのがセバスであり、彼は長らく滞っていたこの実験に終止符を打った。
セバスがいなければ、このSSEは誕生していなかったのだ。
「私以上に、クロンをよく知る人物はいない」
「貴様……」
「そしてまた、」
セバスは鋭い瞳をカイルに向け、言い放った。
「ウィンディアの生き残りであるこの私以上に、S鉱石を知る人物などいない!!」
◆◇
「何でアギレスと並んで歩かなきゃならないの」
「文句言う暇があるならさっさと歩け」
所変わって、夕暮れの街に二つの影。
いま二人は、大きな買い物袋を下げて家路へと向かっている最中である。
「買い物なんてこまめにするものでしょ! どうしてこんなに大量に、」
両手いっぱいに持った紙袋を、ミアは嫌そうに抱え直す。
「仕方ないだろう。この前のこともある、そう簡単に外出は出来ないぞ」
「ええー!」
ミアは持っていた荷物を地面に下ろし、額の汗を拭う。その間もアギレスは、さっさと先を歩いていく。
ミカエルに会ったあの日、ミアがこっそりと部屋を抜け出したことに気付いたアギレスは、家の窓という窓すべてを板で塞いだ。その為どこからも脱出不可能となったのだ。どうしても外に出たいという時は、こうして必ずアギレスが同伴することになっている。
「はあ、もう……」
「溜息吐きたいのはこっちだ。全く、お前は目を離すといつも、」
アギレスが小言を言い出したその時、後ろから小さな悲鳴。
「っ!? ミア!」
見ると、どこから現れたのか軍服を来た男数人がミアを攫っていこうとしている。アギレスは荷物をその場に放り投げると、彼らに突進していった。
「おらあー! この糞どもがあ!」
だがそれに気付いた一人が、懐から銃を取り出すとアギレス目がけて撃った。
「っ……!」
弾は足をかすっただけだったが、その足を止めるには十分だった。用意された飛行車に乗り込むと、ミアを連れて空高く昇って行く。
低いエンジン音が辺りに響き、それは段々と遠ざかっていく。
「クソ、っ……」
アギレスがポケットから携帯を取り出そうとしたその時。
隣に、今にも飛び立とうとしている一台の飛行車が。後部座席には誰も乗っておらず、アギレスは運転席の男に気付かれぬよう、そっと乗り込んだ。後ろからでは運転席の男の顔まではわからなかった。だが、深く被ったそのフードから時折金の髪がちらちらと覗いていた。
(ミア、待ってろよ――)
唸るようなエンジン音と共に、車は空高く上がった。
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