第16話 守るヒト
――ミアを
アランは自宅に着くと、真っ先にシャワーを浴びる為浴室へ向かった。
液晶パネルに手をかざすと、シャワーヘッドからザアっと一気に湯が流れて、体を伝っていく。
「国家警備隊、か……」
先程の男の腕章を思い出し、唇を噛みしめる。彼らはどう見ても、ミアを狙って撃ってきたとしか思えなかった。だが何故なのか。再びパネルに手をかざして湯を止めると、バスタオルを腰に巻いて二階の自室へと向かう。その途中、ある部屋を通り過ぎたとき中からガタン、と大きな物音がした。
「誰だ!?」
アランが急いで扉を開けると、そこにはもぞもぞと動く小さな影。暗がりではよく見えず、壁伝いに照明のスイッチを探す。
「くそっ、どこだ」
アランが手間取っていると、奥から「ニャアン」という可愛らしい鳴き声。それと同時に部屋が明るく照らされる。
「……お前か」
お前、と呼ばれたその猫は首を傾げてアランを見つめている。白と黒のぶち模様をした彼は、生前父が可愛がっていた猫だ。机の上で毛づくろいをし始めたこの愛猫を抱きかかえると、そこに一冊の電子ノートがあることに気付く。どうやらこの猫が誤って電源を押してしまったらしく、画面に次々と表示が出てくる。腕の中にいる猫を一旦床に下ろし、電源を切ろうと手を伸ばしたアランだったが、ふとあるものに気が付きその手を止めた。
「ヴィレッジW?」
幾何学模様をしたファイルに、“ヴィレッジW”の文字が書かれている。それが何故か無性に気になったアランは、液晶をタップする。
「なんだ、これ……」
映し出されたのは炎に焼かれる村。
あちこちで悲鳴のようなものが上がり、よく見ると人が焼かれている。誰かが撮影しているのか、その画面は揺れ動いている。気味悪く感じたアランは急いでそのページを閉じようとしたが、映像から聞こえてきた声に身動きを止めた。
『王、の――が――始末、た、――ウィンディア、――」
それは所々途切れていてよく聞き取ることは出来なかったが、「王」と「ウィンディア」という単語はなんとか聞き取ることができた。そして映像はある教会を映し出した。
「これって……!」
教会の入り口には、ミアが持っていたネックレスと同じ模様が描かれている。その映像を最後に、画面は砂嵐に変わった。アランはしばらく放心状態で液晶を見つめていたが、やがてあることに気が付く。
「ウィンディアの村……?」
ファイルに記されていた“ヴィレッジW”とは、ウィンディア村のことで、今みた映像はその村が焼かれる様子だったのではないか――。
アランの父は、5年前に病気で亡くなっていた。特段仲が良かったわけでもない。一度、彼の仕事先に着いて行ったことがあるくらいで、一緒に遊んだ記憶など皆無だった。父は科学者、ということしか知らなかったアランは、この父が一体何をしているのか考えたこともなかった。彼の死を軍兵が伝えに来たその時も、アランは泣くことをしなかった。むしろ彼の死を知って、そこで初めて自分には父親がいたのだと気付くくらいだった。
(――父さん、あんた一体何してたんだ――)
机の上にある父の写真を見つめ、アランはしばしそこに佇んでいた。
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