第14話 また会う日まで


 立ち込める炎の中、金髪の髪をした少年は必死に走っていた。


「はあ、はあっ……」


肉の焦げる臭いに顔をしかめながら、少年は辺りを見回す。


「おいミカエル急げ!」

後ろから、同じく険しい顔をした少年がやって来て叫んだ。


「先に行け! 俺は後から行く!」


ミカエルと呼ばれた少年は、森の奥深くへと入って行く。

あちこちで上がる悲鳴に耳をふさぎながら、必死に探していた。


ある人を――。




ミカエルが森の中央へ辿り着くと、そこには赤髪の、軍服を来た一人の男が腕に何かを抱えて走っていくのが見えた。

腕の中にいる人物の顔を見て、ミカエルは叫んだ。


「――!」


だがその声が届くことはなく、辺りには木々が燃えるぱちぱちとした音だけが響いている。


「くそ! あいつ!」

急いで後を追おうと走りだしたミカエルだったが、足をとられてその場に転ぶ。目線を下に向けると、そこには一人の男が倒れていた。そしてその体に段々と炎が迫り来ていることに気付き、急いで離れようとしたが、その人物の顔を見て動きを止めた。




「父、さん……?」

いま目の前で倒れている男は紛れもなく、この少年の父であった。ミカエルは冷たくなったその体を揺すり、必死に呼び掛ける。


「父さん、父さん、起きて。起きてよ、」


だが、父はピクリともせずに横たわったまま。


「ねえっ、父さん! 起きて、起きてったら!」

その間にも炎はこちらへと近付き、遂にその体に燃え移った。


「やめろ! あっちへ行け! まだ、まだ父さんが……」


火は次第に激しくなり、やがてミカエルの腕に燃え移った。


「……っ!」

激しい痛みに顔を歪め急いでその場を離れると、炎はいよいよ父の体を覆いつくした。



ミカエルは、唇を噛みしめながらその場を去る。








走って、走って――



森を抜け、もう炎が届かぬ所まで来ても、ミカエルはその走りを止めることはなかった。



悪夢のようなあの光景が、脳裏にこびりついて離れない。


ミカエルはただ走り続けた。

この悪夢から逃れるように――。









このまま走り続ければきっと、






優しい笑みを浮かべた父に、また会える気がして――













「……っ!」



ミカエルは腕を押さえて起き上がる。


「はあ、またか……」

のそり、とベッドから起き上がるとグラスの水を一気に喉に流し込む。

未だ夢にまで見るあの日を思い出しながら、腕のやけどをそっとなぞった。

しばらくそうしていたが、先程会った少女を思い出すと、テーブルに置かれた携帯電話を取り、ある人物に電話を掛けた。







「俺だ。彼女を、見つけた」


それから二、三言葉を返し電話を切ると、ミカエルは窓の外の月を眺めた。








「やっと、見つけた。……ミア」


悲しみにも似た、優しい笑みをその顔に浮かべて、ミカエルはひとり呟くように言った。






















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