第9話 波乱のディナータイム


 その後アギレスも席につき、食事を始めた頃。

二人の様子をそれまで黙って見ていたエリカが口を開いた。


「今日の飛行フライド実習、素晴らしかったわアラン君」

声をかけられたアランは目をぱちくりさせたかと思うと、思い出したように声をあげた。


「あ! アンタ、さっきの……!」


先の実習時に審判を務めていた女軍人を思い出し、エリカの顔を指さす。


「知り合いか?」

アギレスは未だ不機嫌そうな顔をしてはいたが、エリカとアランの関係が気になるのだろう。二人を交互に見つめている。


「今日学園でね、毎年恒例の飛行実習があったのよ。そこでおもしろい走りをしてた子がいてね。それがこの子、アラン君」

エリカは、先程行われた実習について事細かに説明し始めた。

それまで黙って料理を頬張っていたミアも、彼女の話を興味深げに聞いている。

実の弟アーノルドと、その友人アラン・ランバート。彼らのその走りがいかに超人的なものか。そして、無駄話をするほど余裕の色を見せていたことも。


「ほお、それは見ものだったろうな」


挑戦的な視線を向けるアギレスに苦笑いで答えるアランだったが、次にエリカが発した言葉に冷や汗を浮かべた。


「そういえばミアちゃんをデートに誘ったとかなんとか……」






ガタン、



音の方へ目を向けると、アギレスが鬼の形相でアランを睨んでいる。これに焦りを覚えたアランは、誤解を解くため身振り手振りで説明する。



「あれは俺じゃなくて、アーノルドが、」

「ああん!? 野郎二人でか弱い娘一人を…!?」

「違う! それに冗談で、」

「冗談で妹をデートに誘ったのかお前は!」

「だから俺じゃなくて、」

「表へ出ろクソガキ!」


今にもつかみ合いの乱闘が始まりそうな雰囲気に、ミアはおろおろとしていた。それとは対照的に、隣のエリカは楽しそうに笑っている。よく見るとその手にはウイスキーの瓶。


「やれやれー! ぶちかませえ!……ヒック、」

「エリカさん?」


ミアの言葉を聞き、アギレスがエリカを見ると、彼女は赤い顔で酒瓶を振り回していた。


「オラどうしたお前らあ! もっとやれえー!」

先程の落ち着いた雰囲気はどこへやら、全くの別人と化しているこの女を見てアランはあんぐりと口を開けている。ミアはエリカが振り回す酒瓶を避けるのに精いっぱいであった。


「おいっ、この酔っ払いが! どっから持ってきたんだよその酒」

「そこらへんに~あっらよ~」


アギレスはエリカの手から酒瓶を奪い取ると、千鳥足の彼女を支え玄関へ向かう。

「俺はコイツを送って来る。お前ら、留守番を……」


そこまで言って、アギレスはアランを見た。





――一見紳士そうに見えるがコイツもやはり男。このまま二人きりにさせるのは危険だ――。




そう判断したアギレスは、飛行車の鍵をアラン目がけて投げつけた。


「ちょっとお前の腕前見せてくれよ」















 

 後部座席で眠っているエリカにしっかりとシートベルトを着用させ、アギレスは助手席に乗り込む。


「俺が運転するのか?」

エンジンをかけながらアランは不思議そうに訊ねた。

「さっきも言ったろ。腕前を見せてみろ」

「それはいいけど……」


なかなか発進しないアランを見て、アギレスは口調を強めた。

「何もたもたしてる? さっさと、」

「まだミアが乗ってない」


その言葉に振り返ると、そこではミアが紅潮した顔で車に乗り込もうとしていた。どうしてこんなにうきうきとした表情をしているのか。

それは、彼女が未だ一度も、この飛行車フライドに乗ったことがなかったからである。いや、から、と言ったほうがいいだろうか。


「コラ! 何ちゃっかり乗り込もうとしてる。お前は留守番だ」

「ええーっ!」

「えーじゃない」


アギレスはアランに車を飛ばすよう合図すると、ミアを睨みつけて一言。

「ペロちゃんチョコレート、没収されたくないだろ」

それを聞いたミアは、仕方ないという風にしぶしぶと車を降りた。





バックミラーに映る、恨めし顔のミアを見ながらアランは空へと車を飛ばした。















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