第7話 特別授業


 何とも言えぬ表情で、ミアは先程の科学館にいた。

隣では若干興奮気味のアビーが、男の説明を聞いている。



 今、この科学館には三人の人間がいる。ミア、アビー、そして先程の男。

アビーに質問攻めになりながらも丁寧にそれに答え、研究員の仕事について説明していたところ、ミアが仏頂面で入って来たのだ。

何も言わずに近くの椅子に座って、二人の様子を眺めている。最初のうちは驚いた二人だったが、アビーはそれよりも説明を聞きたくてうずうずしているらしく、再び男を質問攻めにしていた。

男はアビーに特別授業をしている間にも時たまこちらに顔を向けて、やれ冷房はきつくないかだの、やれ疲れてはいないかだのと気を遣ってくれていた。

乗り気ではなかったミアも、少しずつ男の話に興味が出てきたようで今ではアビーと同じように横に並んで授業を受けている。


「――と、いうわけでこの石単体ではエネルギーには成り得ないんだ」


SSEについて詳しく説明しだした頃、男の表情が少し曇ったのを二人は見逃さなかった。

「あの、すいません。いろいろ聞いてしまって……」

申し訳なさそうなアビーに、男は慌てて答える。


「ああいや、違うんだよ。疲れているとかそんなんじゃなくてね……むしろ科学に興味を持ってくれて嬉しいんだ。とても。でも……」


続きを話そうか迷っているようにも見えたが、男はミアの顔をチラリと見て、意を決したように話しだした。

「これはあまり、外に出していい話ではないんだけれど」

そう前置きした話の内容はこうだ。


このS鉱石は、単体ではただの石にしかすぎず、エネルギーとしては働かないのだという。これにある物質を加えることで、動力エネルギーになる。その物質とは、“クロン”と呼ばれるもので、同じく単体では何の力も持たないこの物質が、何かと融合することで莫大なエネルギーを生み出すのだ。

それがたまたま、このS鉱石だったというわけだ。


「これを発見したのが、カイル・クラーク閣下だ」

どこか皮肉めいた口調で言うあたり、彼もこの人物を良くは思っていないことが伺えた。


「それで、セバスさんは研究員としてここで働いているわけですね!」


アビーが元気な声で言うと、セバスと呼ばれた男は頷いた。


「ところで……」

アビーが熱心に、ノートに授業内容をまとめているのを横目で見ながら、セバスはミアに向き直った。


「君は、何という名前なのかな」


いきなり自分に話しかけてくるとは思わなかったので、一瞬驚いたミアだったが、自分が名乗っていないことに気付き、軽く自己紹介をした。


「私はミア・フランジェ。趣味は散歩です」

それを聞き、セバスは楽しそうに笑って答えた。

「よろしくミアちゃん。僕はセバス。セバス・コーウェル」

「ミアでいいです」



よろしくね、と柔らかい笑みで手を差し出したセバスにミアも手を差し出す。温かい温もりが手を伝ったとき、アビーがノートから顔を上げて叫んだ。


「先生! もうひとつ質問がありました!」


どこから取り出したのか、科学の本を片手に手を上げる。それに対し、セバスは嬉しそうな顔で答えていた。

彼の説明を熱心に聞く彼女を見て、ミアは頬を緩ませた。



(嫌いな科学も、この二人になら習ってもいいかも……)


ミアはそんなことを思いながら、目の前で繰り広げられる特別授業をぼんやりと眺めるのだった。











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