第一章

第4話 街の光


 

 中央都市バルド。

アース・プラネットの中心とも言えるこの都市には、近代的な建造物が空高く立ち並んでいる。所々に点在しているレトロな家々も、多くの観光客を魅了するひとつである。


 ネオンの光が眩いこの街は、10年前、大きく変貌を遂げた。

動力エネルギーとしてS鉱石(サファイヤ・ストーン)エネルギー、通称SSEを導入。それにより、人類の長年の夢であった“空飛ぶ車”――飛行車フライド――が誕生。さらにはその二年後、銀河ギャラクシーへと続く切符を手に入れた。宇宙船の誕生である。これら全てが、SSEにより可能となった。


今も頭上を飛び回る飛行車フライドは、決して好き勝手に走れるわけでなく、電光によって空中にラインが引かれており、地上と同じく免許を持つ者でしか操縦することが出来ない。ガソリンを使わない為、スタンドなどは無い。SSEとはいわば、“無限エネルギー”なのだ。

飛行車免許は地上と同じ自動車学校で受けられる。

費用も自動車教習とあまり変わらず、成人18歳以上ならば誰でも取得できる。最近では自動車よりも飛行車の需要が増えたため、自動車産業は近々終焉を迎えるだろうと人々は噂していた。




「実に素晴らしい景色だと思わないか?リーベル」


空を行き交う飛行車を眺めながら、短髪の男は言った。

それに答えるように、リーベルと呼ばれた男が口を開く。


「これも全て、あなたのおかげです閣下」

それを聞き、閣下と呼ばれたこの男――カイル・クラークは口角を上げた。

全てのSSE産業の親と言われる、カイル・クラーク。この男こそが、S鉱石第一発見者であり、この国の頂点トップなのだ。


グラスに継がれたワインを口に運びながらしばし窓の外の景色を楽しんでいたカイルだったが、ふと思い出したようにリーベルへ視線を向ける。


「この前街で倒れたと聞いたが、何かあったのか?」

「そ、それは……」

「軍兵たちが噂していたぞ」

目の前の男のニヒルな笑みに冷や汗を浮かべ、リーベルは少し前に出会ったある娘のことを思い出していた。


パトロールの帰り道、狭い路地裏で見かけたその娘は、青い髪に青い瞳の、美しい娘だった。しばし見とれていたのもつかの間、その首に“あるはずの無いモノ”を見つけ、リーベルは酷く動揺した。


「あの、閣下」

「何だ」

「S鉱石は、一般人が手に入れる事は実質不可能と仰っていましたが」

「その通りだ」


返答を聞き黙り込んだリーベルを不思議に思い、今度はカイルが口を開く。


「誰かが持っていたというのか?」

「それは……その、」


S鉱石の使用は認められてはいるが、個人がそれを手にすることは法で固く禁じられていた。飛行車やバイク、宇宙船などに使われるS鉱石、それは非常に価値の高いもので、闇市場にも出回ることがない代物だった。政府の特別管理下に置かれた状況で、それを盗み出すことは困難である。

未だ黙りこくっている部下を不審に思い、カイルはその顔を覗き込む。彼はまさに顔面蒼白で、息をするのもやっとのようだ。


「鉱石など、持つ者はいない。見間違いだろう」

再びグラスを持ち上げたカイルだったが、次に聞こえたリーベルの言葉にその手を止めた。


「もし、あの“生き残り”がいたとしたら……」


「もし、“あの一族”がまだいるとしたら、」

「…………」

「“ウィンディアが……!」

固まったように動かないカイルに、今一度声を大にしてこの男は言おうとした。

だが、それは叶わなかった。







「……っ!」


鈍い銃声にビリっとした痛みが体を突き抜ける。リーベルはそっと自分の体を見下ろすと、腹に一発の銃弾。


カイルは銃口を突き付けたまま、静かに言った。


「その名を二度と出すな。わかったな?」

「……はい、か、っか」

腹を押さえて苦し気に呻いた部下を満足気に見、カイルは再び窓の外を見つめた。





――いるはずがないのだ、あの一族はもう――



過去を消し去るように、カイルはグラスの液体を飲み干した。


















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