第5話 学園デイズ


 あの事件からちょうど2週間が過ぎ、ミアはやっと学園に復帰した。

心配性な兄に学園行きをまたも延期させられそうになったが、なんとかこうして学園に戻ることができたのである。


「2週間、短いようで長かったなあ」


授業開始ギリギリに教室へ入ると、いつもの席にアビー。そして隣には、見慣れない顔の面々。


「友達?」


その声に嬉々とした顔で振り返ったアビーは、ミアに飛びつく勢いで抱き付いた。よろめくミアからすぐさま離れると、席に座らせた後、隣でニコニコしている栗色の髪の少年の方を向いた。


「この方は軍事科3年、ノア・ギーランさんです。そしてお隣の、」

「アーノルド・ディラン。同じく軍事科3年」


ノアと紹介された少年の隣から顔を出し、挨拶するアーノルド。金髪の髪をオールバックにして、切れ長の目を優し気に細めている。

「よろしくね」

恭しく手を取り、その甲に口づける仕草をすると、ニコリと微笑む。


「よ、よろしく……」

ほんのり色づいたミアの頬を見てクス、と笑うと彼の後ろの席に突っ伏している長髪の男を叩き起こす。


「おい! お前も挨拶しろよ」

「ああ?」


アーノルドに頭を叩かれ不機嫌そうに顔を上げたその青年は、ミアの方を向き、体を固まらせた。


「お前っ! 無事だったのか!?」

面倒くさそうな先程の表情から一変し、真剣な瞳でミアに尋ねる。

ミアはミアでこちらも体を固まらせ、目をぱちくりとさせて青年を見つめている。


「あ、あの時の……!」

「何、知り合いだった?」

「知り合いというより、ヒーローというか……」


アーノルドの言葉にポツリとミアが言葉を返すと、三人は興味津々といった表情でこちらを見つめてくる。

どう説明しようか悩んでいると、目の前の青年が不意に口を開いた。


「道で男に絡まれてたから、助けてやったんだよ。それだけだ」

それを聞いて二人は納得したようだったが、アーノルドはどこかつまらなさそうにしている。


「何だ、コイツにもやっと春がきたかと思ったのに」

「うるさい! お前は黙ってろ! まったく」


赤い顔で言い返すこの男にしばし呆気にとられていたミアだったが、一瞬の後、柔らかい笑みを浮かべた。

それを見て再び顔を赤くするこの青年は、そこでやっと名を名乗った。



「アラン・ランバート」

「へ?」


未だ赤い顔でボソリと言った。

そして再び口を開き、何かを言おうとしたアランだったがそれは始業ベルの音にかき消された。アランは二人を引き連れそそくさと教室を出て行く。


 

 彼らが通うこの学園は、主に二つの学科で構成されている。いまミア達がいるここは、考古学科。そして、アラン達が在籍しているのは軍事科だ。


「いつの間に仲良くなったの?」


鞄から教科書を取り出してアビーに尋ねると、彼女はその頬を桃色に染めて答える。


「ミアさんが休んでいる間、交流会があったんですの」

「ああ、去年もあったね」


交流会、とはこの学園の二学科の生徒が、互いの交流を深めるために毎年実施されている催しである。普段接点のない彼らが、どうやって知り合ったのか疑問に思っていたミアはそれを聞いて納得した。



「アラン君、かあ」

「気になりますの?」

「そ、そんなわけじゃ」

「ふーん?」

彼らが去った後も尚、ぼーっと立ち尽くしているミアをアビーはニヤニヤと見つめていた。









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