初めての甘いクリスマス
二人で過ごす初めてのクリスマス。
ユウは初めてのクリスマスプレゼントをレナに贈った。
プレゼントの腕時計をつけて嬉しそうに笑いながら、レナもユウの前にそっと包みを置いた。
「えっ?」
「私からも、クリスマスプレゼント。」
ユウが包みを開く。
「偶然ってあるんだね。」
ユウの知らないうちに用意されていたレナからのプレゼントも、腕時計だった。
「なんか…考えることが似てきた?」
「長く一緒にいると、いろんなことが似てくるって言うもんね。」
ユウはレナからのプレゼントの腕時計をつけて嬉しそうに眺めた。
「どう?」
「かっこいいよ。」
ユウは照れて顔を少し赤らめた。
「どうしたの?」
「いや…時計のことだってわかってるんだけど…レナにそんなこと言われたの、初めてかもって…。」
「…そうだっけ?」
「うん…。」
(オレはいつも、レナにかわいいって言うけど…。もしや言い過ぎ?!)
「昔はずっと一緒にいたから、当たり前過ぎたのかも…。でも、ずっと離れてて10年ぶりに会ったら、ユウが大人の男の人の顔になってたからビックリした…。付き合い始めてすぐに、テーマパークに行ったでしょ?」
「うん。」
「あの時…ユウが運転してるとこ、初めて見て…ユウ、かっこいいなって、初めて思った。」
「えっ。」
(なんて言うか…その時まで1度もそう思われたことなかったのかと思うと…。)
「ずっとユウのこと、見てたいって…。」
レナは照れ臭そうに小さな声で言う。
「思ってくれたんだ?」
「うん…。」
「オレなんか、昔からずーっと思ってる。」
「ん?」
ユウはレナの頬にチュッとキスをした。
「レナかわいい。ずっと見てたいって。」
「ユウったら…。」
「オレも、もっとレナにそう思ってもらえるように頑張ろ-っと。」
ユウがレナをギューッと抱きしめると、レナは少し赤い顔をして笑った。
「ちゃんと、思ってるよ。」
レナはユウの腕に抱かれながら、ユウを見上げる。
「ユウ大好き。かっこいいよ。」
ユウは途端に照れ臭そうに目をそらす。
「ヤバイ…。かなり照れ臭い…。でも…。」
もう一度ユウはレナの顔を見て微笑んだ。
「レナ、むちゃくちゃかわいい…。」
ユウはレナの唇にそっと口付けた。
(やっぱりオレ、レナには激甘だ…。)
クリスマスプレゼントと一緒にしまっていた婚姻届を、ユウは緊張の面持ちでテーブルの上に置いた。
「レナ、これ…。」
「あ…。」
二人は無言で、じっと婚姻届を見つめている。
しばらくの沈黙の後、ユウが呟いた。
「書こうか…。今日はクリスマスだし…。」
「クリスマス、関係あるの?」
「いや…。特にないけど、毎年クリスマスが来る度に思い出すかなって。」
「かもね。」
レナはふふっと笑って、ユウの手を握る。
「神様の誕生日に、嘘ついたりしないよね?」
「うん。しないよ。クリスマスじゃなくても、レナには嘘つかない。」
「嘘ついてもバレるから?」
「…それもある。」
ユウはペンケースの中からボールペンを取り出し、婚姻届の用紙を広げた。
「…じゃあ…書くよ?」
「うん。」
ユウは緊張で手が震えそうになりながら、ひとつ大きく息をついて、いつもより丁寧に自分の名前を書き込んだ。
(すっげー緊張する…。)
母の直子が再婚する時に、直子だけが片桐の戸籍から抜け、再婚相手の籍に入った。
その後ユウは、直子の夫となったその人との養子縁組をしなかったので、ユウの苗字が変わることはなかった。
(戸籍にオレだけ残されて、おふくろとも本当に親子じゃなくなったようで少し複雑だったけど…でも、そのおかげでオレは親父の苗字のままレナと結婚できるんだよな…。この婚姻届を出せば…レナも、オレと同じ片桐になるのか…。)
ユウはすべての記入を終えると、レナに用紙とペンを差し出した。
レナはいつもの整った文字で、ゆっくりと丁寧に記入している。
(レナ、何考えてるだろ…。)
ユウは真剣にペンを運ぶレナの顔を見つめた。
すべての記入を終えたレナが、顔を上げて嬉しそうに微笑んだ。
「ここにハンコ押して、この婚姻届を出したら…私もユウと同じ、片桐さんになるんだね。」
「あ…。」
(レナ、オレと同じこと考えてる…!)
「片桐さんの奥さんになるんだよ?」
「うん…そうだね。なんか照れ臭いけど…。」
二人は顔を見合わせて笑うと、それぞれ丁寧に印鑑を押した。
「これでOK…っと。」
緊張から解放されてユウが大きく息をつくと、
レナはニッコリ笑って席を立つ。
「それじゃ、お料理テーブルに並べるね。」
「手伝うよ。」
「ありがと。うちの旦那様は優しいね。」
少し照れながらそう言って笑うレナを見て、ユウは真っ赤になった。
(だ、旦那様って…!!ヤバイ…めちゃくちゃかわいい…!!)
思わずレナを後ろからギューッと抱きしめると、ユウは照れながら呟いた。
「愛してる…。世界一かわいい、オレの…奥さん。」
ローストビーフのサラダ、鮭とキノコのクリームパスタ、エビやチキンのフリッター。
チョコレートクリームとイチゴのケーキ。
テーブルにはレナの手料理が並んでいた。
ケーキもレナの手作りだ。
いつもより少し贅沢にシャンパンを飲みながら、レナの作った料理とケーキで、二人でささやかなクリスマスパーティーを楽しんだ。
「レナの作ったケーキ、すごくうまそう。」
「久し振りに頑張っちゃった。」
「今日はちゃんと食べさせてもらえるんだ。良かった。」
「もう…またそれを言う…。じゃあ、あの時のお詫びに、ハイ。」
レナはフォークに一口分のケーキを乗せると、ユウの口の前に運ぶ。
「えっ?」
どういうことかとレナの手元を見つめるユウ。
「食べさせてあげる。ハイ、あーん。」
少し小首を傾げるように、上目遣いでケーキを乗せたフォークを差し出すレナに、ユウはたじろいだ。
(今までこんなこと、なかったような…。)
「ね、ユウ…早く…。」
(レナ…妙に色っぽいと言うか…エロい気がするのは気のせい…?)
「ユウ…口、開けて。」
ユウはどぎまぎしながら口を開いた。
「ハイ、あーん。」
レナはフォークをユウの口の中に運び、ケーキを食べさせると、ユウの目をじっと見る。
「おいしい?」
「うん…。」
レナはユウの口元に手を伸ばすと、その細い指でそっとユウの唇を拭い、ついていたクリームをペロッと舐めた。
「…!!」
(何?なんだこれ?!)
レナのいつもとは違った妙に色っぽい仕草に、ユウの胸は、急激にドキドキと音を立てる。
「クリーム、ついてた。」
「あ…うん…。」
何事もなかったように、レナはケーキを食べ始める。
ユウは、一人ドキドキしたまま、そっとレナの様子を窺った。
(レナって…天然小悪魔?!)
食事を終えると、二人でこたつに入り、のんびりとシャンパンを飲んだ。
レナは少し上気した頬でユウの肩にもたれ掛かると、静かに呟く。
「二人一緒だと、特別なことなんてなくても楽しいね。」
「うん。楽しいな。」
「何年か経ったら、もっと賑やかなクリスマスになるのかな?」
「そうだな…。」
結婚して、いつか二人の間に子供が生まれたら…きっと今とは違う毎日になるのだろうと、二人は未来の自分たちに思いを巡らせる。
「でも、もうしばらくは…レナとの二人だけの時間を大事にしたいな…。」
ユウはレナの肩を抱いて、優しく髪を撫でる。
「うん…。」
レナは甘えるように、ユウを見上げる。
(あ…この顔…。)
ユウはレナの唇に、優しくキスをした。
唇が離れると、レナは少し恥ずかしそうに小さな声で呟く。
「どうしてユウにはわかっちゃうんだろ…。」
「キスして欲しい時?」
「うん…。」
「わかるよ。オレは、レナが大好きだから。」
ユウは愛しげにレナを見つめて、もう一度甘くて優しいキスをする。
それは、二人だけの、甘い夜の始まりだった。
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