生きてさえいてくれたら

リサの部屋に泊まった翌日、レナはいつものように仕事に出掛けた。


いつもより少し仕事が早く終わり、レナはリサの職場を訪れた。


いつものように社長室に入ると、そこには思わぬ訪問者がいた。


「レナちゃん久し振り!!しばらく会わないうちにまたキレイになって…。」


「直子さん…。」


ドイツで暮らしているはずのユウの母親の直子が、レナをギュッと抱きしめる。


「仕事で日本に来ることになってね、すぐ近くまで来たもんだから、久し振りにリサさんに会おうと思って。」


「そうなんだ…。」


本当なら嬉しいはずの直子との再会も、ユウと別れてしまったレナには複雑な気持ちだった。


「あの…。」


なんと言っていいのかわからず、レナはうつむいた。


「リサさんから少し聞いた…。ごめんね、うちのバカ息子が…。」


「いえ…。」


直子は優しくレナの手を引き、ソファーに座らせる。


その隣に直子も座った時、リサが社長室に戻って来た。


リサは黙ってコーヒーをカップに注ぐと、レナと直子の前に置き、自分も向かいのソファーに腰を下ろしてコーヒーを飲む。


「レナちゃんにね…話しておきたいことがあって…。」


直子はコーヒーを一口飲むと、レナの目をまっすぐに見て話し始めた。


「私とユウね…実は、本当の親子じゃないの。」


「えっ?!」


直子の思わぬ言葉に、レナは驚きを隠せなかった。


「ユウにはずっと、ユウが生まれてすぐに夫と…ユウの父親と離婚したって言っていたの…レナちゃんも知ってるわね?」


「ハイ…。」


「ユウの本当の母親は…ユウを生んでまだ間もない頃に、ユウと彼を残して出て行ったの…。私と彼は大学時代からの友人で…。働きながらまだ小さかったユウを育てるのは大変だと思って、私も彼に協力しようと思ってね。その時は今みたいに忙しい仕事はしてなかったから、仕事の後や休みの日には、いつも彼の家に行って、一緒にユウの世話をして…。そのうちお互いを想うようになって、結婚することになったんだけど…。」


直子は小さくため息をついた。


「一緒に暮らしたのはほんの短い期間だった…。彼はジャーナリストで、内戦の起こる危険な地域に行くことになって…そこで、命を落としたの…。」


「えっ…?!」


「残された私は必死でユウを育てて…。ユウが物心ついた頃に、お父さんがいないことを不思議に思う時期が来て…。私はできるだけユウを傷付けたくなくて、ユウが生まれてすぐに離婚したんだって、嘘をついた…。でも、ユウが高校生になる少し前に…生まれたばかりのユウを抱いた母親と彼が写ってる写真と母子手帳を見つけてしまったのね…。もう嘘はつけないって、本当のことを話したんだけど、あの子は拍子抜けするくらい、何事もなかったように笑って、そうか、って…。」


「そんなことが…。」


「あの子の中には、生まれたばかりの自分を捨てた母親に対しての思いとか…いろいろあると思う。最初についた嘘も多分、自分は父親に捨てられたんだって、そういう思いがあったと思う…。」


「………。」


直子の口から初めて聞く事実に、レナはいつかユウの言ったことを思い出していた。


(付き合い始めた頃…ユウ、私に嫌われるんじゃないかって不安に思ってたって、こんな自分はいつか私に愛想尽かされるんじゃないかって…。)


「私は私なりにユウを大事に思ってきたし、血の繋がりはなくても、本当の息子だと思って育てて来たわ。でもユウは、そのことがあってから、自分の思ってること、何も話さなくなったの…。私がドイツに行く時も、ドイツで再婚する時も、いいんじゃないかって…。自分は一人でも大丈夫だから、って…。」


(そう言えば、マユが言ってた…。ユウは、自分の思ってることをなかなか言えなくて、どんどん悪い方へ悪い方へ考えて、自分の中でどうにもならなくなってしまう癖があるって…。)


「ユウの記事、読んだの。あの子は愛に飢えてたのかなぁって…。もっとわかりやすくユウを目一杯愛してあげれば良かった…。」


「ユウは、直子さんのことを大切に思ってると思います…。私、ずっとユウを見てきたから、それだけはわかる…。」


「レナちゃん…。」


直子は目にうっすらと涙を浮かべ、レナの手を握りしめた。


「私のことはもう…信じてもらえないかも知れないけど…。血の繋がりもないのに赤ちゃんの頃から育ててくれた直子さんには、感謝も信頼もしてると思う…。」


「レナちゃん…ありがとう…。」


レナは、直子の手を握り返すと、リサの目を見て静かに言った。


「リサ…私、あのドレス着て…ショーに出てもいいかな?」


「…もちろんよ。」


「本当はユウの隣であのドレスを着たかったけど…もうそれは一生できないかも知れないから…。せめて、リサにだけは見てもらいたい。」




翌日からショーが終わるまで、レナはカメラマンの仕事を休み、ショーの打ち合わせやレッスンに通うことになった。


そんな日が数日続き、その日レナはリサのアトリエで初めてドレスを試着した。


「思った通り、よく似合うわね。」


日本に滞在している直子も、レナのウエディングドレス姿を見ようとアトリエを訪れていた。


リサはレナにドレスを着せ、手直しする箇所を探す。


「レナ、痩せたわね。もう少しここ詰めないとね…。」


「うん…。」


リサがドレスの背中の部分を仮縫いする。


鏡に映る初めてのウエディングドレス姿を、レナはどこか切ない気持ちで眺めていた。


(本当は、いつかはユウの隣で…って思ってた…。)


ずっと一緒にいようと言ってくれたユウが、結婚しようといつか言ってくれるのだと、レナはおぼろげに夢を見ていた。


ユウと一緒にいられるだけで幸せだと思っていたのは嘘ではないけれど、いつかはユウのお嫁さんになりたいと、思っていた。


結婚だけがすべてではないけど、一生ユウの隣にいるのは自分でありたいと願っていた。


(まさか、こんなことになるとはね…。)


人見知りで、目立つのが嫌いで、人前に出ることを避けてきた。


人の目が怖くて、ショーに出ないかと誘われてもいつも断り、人目に晒されることからずっと逃げてきた。


(でも、今の私にできることは…。)


リサが用意したドレスに合わせたハイヒールを履き、リサにベールをつけてもらう。


「素敵ね…。」


直子は小さく呟く。


3人は、鏡に映るウエディングドレスに身を包んだレナの姿を、静かに見つめていた。


そこへ静寂を切り裂くように、レナのスマホが鳴る。


(タクミくんから…?)


妙な胸騒ぎを覚え、レナは急いで電話に出る。


「もしもし?」


「あーちゃん!!ユウが!!」


「えっ?!」


「ユウが、事故にあって!!車にはねられて、救急車で運ばれた!!かなりヤバイ!!」


「…え…?」


レナは頭が真っ白になり、持っていたスマホを落とした。


レナのただならぬ雰囲気に、リサは慌ててスマホを拾い上げる。


「どうしたの、レナ?」


「ユウが…車にはねられて…危ないって…。」


「えっ?!」


リサは呆然としているレナに代わって電話に出ると、タクミから病院の場所を聞き、レナの腕を掴む。


「レナ、しっかりしなさい!!」


「あっ…。」


「ほら、行くわよ!!直子さんも!」


レナはドレスを着たまま、リサの車に押し込まれるようにしてユウが運ばれた病院へと向かった。


(お願い、ユウ…。死なないで…!!ちゃんと生きてさえいてくれたら、私は…!!)




病院に着くと、ユウはベッドの上でたくさんの機器やチューブに繋がれ横たわっていた。


「ユウ…!!」


レナはユウのそばに駆け寄りユウの手を握る。


(お願い…どこにも行かないって約束したでしょ…?!もう、私を一人にしないで…!!)


付き添っていたタクミが、リサと直子に頭を下げた。


「ユウの母です。」


直子がタクミに頭を下げる。


「ユウ…バンドの練習帰りに道を歩いてて…小さな女の子が飛び出して跳ねられそうになったのをかばったらしいんです…。」


病室のドアをノックする音がして、母親らしき女性に付き添われた小さな女の子が、母親のスカートを握りしめながら顔を覗かせた。


「申し訳ありません…うちの娘を助けて頂いて…私がこの子から目を離したせいで、こんなことに…。」


女の子の母親は涙ながらに何度も頭を下げる。


「顔を上げて下さい…。大丈夫、息子はこんなことくらいで負ける子じゃありませんから…。」


直子は気丈に振る舞いながらも、その肩は小さく震えていた。


その母子がリサに付き添われ病室の外に出て間もなく、タクミから知らせを受けたマユとシンヤが慌てて病室を訪れた。


「タクミ、片桐の容態は?!」


マユが掴みかかりそうな勢いでタクミに問い掛ける。


「一応、処置は終わって…右手と右腕の骨折…あと、頭をかなり強く打って…まだ意識が戻らない…。かなりヤバイみたい…。」


レナはユウの傍らで、祈るようにユウの手を握りしめている。


「レナちゃん…ちょっといいかな…。」


シンヤはレナを病室の外へ連れ出し、ロビーのソファーに座らせた。


「この間…ユウと話したんだけど…。レナちゃんはユウから聞いてないかも知れない…。」


「何…?」


「ユウ…生まれたばかりの頃に、ユウを産んだ本当の母親に捨てられたって…。」


「うん…。直子さん…ユウの、お母さんから聞いた…。」


「そっか…。それでユウ…いつかレナちゃんにも捨てられるんじゃないかと、いつも怖かったって…。」


「うん…。」


「そんな親から生まれた自分は、一生一人の人を愛し続けられるのか、自信がなくて…レナちゃんに、結婚しようって、言えなかったんだって…。」


「……。」


「愛し合って、一生添い遂げる約束をして結婚したはずなのに、どうしてその間に生まれた子供を捨てて、他の男の所へ行けるのかわからないって…。結婚しても離婚したり、一度は添い遂げる約束をした人を忘れて別の人と再婚したり…結婚ってなんなのか、わからないんだって言ってた…。どんなに愛し合ってても、結婚して夫婦になると、何かが変わるんじゃないかと思うと怖かったって…。恋人同士なら、ずっと変わらず一緒にいられるのかも知れないって思ったら、レナちゃんに結婚しようとか言い出せなかったんだと思う…。」


「…うん…。」


「ユウ…レナちゃんを信じられなかったこととか、傷付けてしまったことを悔やんで…もうオレには生きてる価値もないのかも、って…。オレは生まれて来てはいけない子供だったのかも知れないって言うんだよ…。」


「そんなことないよ…。」


「だから、レナちゃんが言ってやってよ…。ユウは必要とされて生まれて来たんだって…。」


「うん…。」


(ユウは、生まれて来てはいけない子供なんかじゃない…私には、誰よりも大切で、必要な人だよ…。だから、お願い…生きて…。生きてさえいてくれたら、私のことはどう思ってくれてもいいの…。本当の別れがどんなことか、私は知ってるから…。)




ユウは、見たことのない広い空間をさまよっていた。


(ここ、どこだ…?)


足元はふわふわと不安定で、回りには花が咲き乱れ、小鳥がさえずり、蝶が花と戯れるように舞っている。


(オレ、どこに行こうとしてるんだろ…?)


歩き続けると、いつしか美しい小川が流れる場所にたどり着いた。


(これって…。)


何かの本で読んだ、あの世への入り口のようだとユウは思う。


(でも、これって天国?)


散々好きでもない女の子を食い散らかして、誰より大切なレナを傷付けて何度も泣かせてしまった自分には、天国より地獄の方がお似合いだとユウは苦笑いする。


(そっか…オレ、死んじゃうんだな…。)


それならばせめて、レナに謝りたかった。


たくさん心配かけて、何度も傷付けて、泣かせて、信じてやれなくて…本当に悪かったと、謝りたかった。


こんなどうしようもない自分を愛してくれたレナに、ありがとうとお礼を言いたかった。


そして……。


(あの時…愛してるって…、どこにも行かないで、オレのそばにいてくれって…素直に言えば良かった…。)


レナの言うことを聞こうともせず、レナを傷付け、心にもない言葉を吐いてしまったことが、ユウにとって一番の心残りだった。


(もう…会えないんだな…。)


愛しいレナの顔ばかりがユウの頭をよぎる。


(本当は、ずっとオレの隣で笑ってて欲しかった…。あんな顔させたかったわけじゃないのに…。今更過ぎるかな…。ホントにバカだ、オレ…。)


小川の流れを見つめながら、ユウはため息をつく。


(ホントに、オレの人生、やましいことだらけだ…。)



ゆっくりと顔を上げると、小川の向こうに二人の男性が立っていた。


(誰だろ…お迎えかな…?)


二人の男性は優しく笑って手を振る。


「ユウ!!大きくなったね!!」


少し茶色がかった髪と瞳を持つ男性が、ユウに声をかける。


(誰だっけ…どこかで見覚えのあるような…。誰かに似てるような…。)


その時、ユウは茶色い髪と瞳を持った、その人によく似た愛しい人を思い出す。


「あっ…レナの…!!」


それはレナの父親のケンだった。


「ユウ!!本当に大きくなったな!!」


もう一人の男性もにこやかに笑って手を振る。


(こっちは…誰だっけ?)


ユウは記憶の欠片をかき集めるようにして考える。


どこかで見たことがあるその顔を、ユウは思い出して叫んだ。


「オヤジ!!」


写真の中で笑っていた、ユウの父親だった。


(死んだ二人がそろって出迎えとか…。オレ、いよいよあの世へ行くんだな…。)


ユウはため息をついて、小川を渡ろうとゆっくりと歩く。


「まだ早いよ、ユウ!!」


「こっち来るのはもっとじいさんになってからだろ!!」


「え?迎えに来たんじゃねぇのかよ?」


小川を渡ることを止める二人の顔を、ユウは不思議そうに見つめる。


「まだ思い残すこといっぱいあるでしょ?」


「そうだぞ!!未練がましく一人で悶々としてたら成仏できねぇぞ!」


「うるせぇオヤジ!!」


「ユウには、大事な人がいるでしょ。」


「うん…。」


「だったら素直にそう言え!!」


「なんだよ、オレとおふくろ置いてさっさと死んだくせに!!」


「だから言ってんだよ!!オマエ、死ぬな!!生きてあの子を幸せにしてやれ!!」


「そうだよ、ユウ。死んだら、大切な人に2度と会えないんだ。後悔してるなら、僕の分までレナを愛して幸せにしてやってくれないか?」


「でももう…オレにはそんな資格なんて…。」


ユウがうつむくとユウの父親は大声で笑った。


「本当にバカだな!!そんなに言うなら、その目をしっかり開いて、よく見てみろ!このバカ息子!!」


「わかってるからバカバカ言うなよ、くそオヤジ!!」


ユウが大声で言い返すと、ユウの父親は嬉しそうに笑った。


「あの時赤ん坊だったオマエと、まさかこんな所でケンカできるなんてな!!次に会うときは、ジジィになってからにしろよ!!ちゃんと生きて、大切な人を守って、幸せにしてからだ!!」


「偉そうに言うな!!わかったよ、やってやるよ!!オレはこんな所で死んだりしねぇ!!」


「そうだよ、ユウ。その意気で、レナの元に戻ってやってよ。ユウがいなくなると、レナは泣いちゃうからね。」


「うん…。」


「じゃあな!!バカ息子!!しっかりやれよ!!」


「うるせぇくそオヤジ!!言われなくてもわかってるっつうの!!」


「じゃあね、ユウ。レナのこと、頼んだよ。」


「わかりました!!」


ユウがケンに力強くうなずくと、二人の父親たちは満足げに笑って手を振る。


(帰ろう…レナのいる場所へ…!!)


ユウは元来た道を引き返す。


(レナ…もう一度、オレを信じてくれる?)




レナはユウの傍らで手を握り、ずっと祈っていた。


(ユウ…お願い…戻って来て…。お願い…生きて…。)


ユウの睫毛が微かに揺れ、静かにそのまぶたが開いた。


眩しい光の中で、ユウの視界に真っ白なドレスを着た人影が飛び込んでくる。


(…天使…?)


「ユウ…!!」


その人影は、真っ白なドレスを着て涙を流しているレナだった。


ユウは、なんとか動かせる左手で、そっとレナの頬に触れる。


「天使かと思った…。」


「先生呼んで!!」


マユがシンヤに大声で叫ぶ。


「ユウ…良かった…戻って来てくれて…。」


「ただいま…。」


「おかえり…。」


二人は一緒に暮らしていた頃のようにそう言って、静かに笑みを浮かべた。



慌てて医師と看護師が病室にやって来ると、血圧を図ったり脳波を調べたり、様々な処置をした後、もう大丈夫だと言い残して去って行った。


病室を訪れていたみんなは、ホッと息をつく。


「心配したのよ!!バカ息子!!」


「おふくろ…。」


(オヤジと同じこと言ってるよ…。)


「とりあえず、安心した。みんなにもユウ無事だって伝えるから。」


「うん…。みんなによろしく。」


タクミは笑って手を振り、病室を後にした。


「何はともあれ、本当に良かったわ。アンタ、メンタル弱いけど体はタフねぇ。」


「それ、褒め言葉なのか…?」


「とりあえず、帰るか。ユウ、しっかり休んで早く良くなれよ。」


シンヤは病室を出ようとして踵を返すと、ユウのそばに来て小さな声でそっと耳打ちする。


「せっかく命拾いしたんだから、伝えたいことはちゃんと言葉にして、口に出して言うんだな。そうすれば…ちゃんと、伝わるから…。」


「ありがとう、シンちゃん…。」


マユとシンヤが病室を去り、ユウの傍らでユウの手を握るレナを見て、リサと直子は顔を見合わせる。


「しばらく、二人っきりにしてあげる?」


「そうね、そうしようか…。」


「私たち、安心したらお腹も空いたことだし、ちょっとその辺のカフェにでも行って来るわ。レナちゃん、しばらくユウをお願いね。」


「ハイ…。」


急に二人っきりになって、ユウとレナは少し照れ臭そうに笑った。


「レナ…そのドレス…。」


「あ…うん…。ブライダルファッションショーにね…出ることにしたの…。その衣装なの。」


「そっか…。キレイだな…。」


「リサが作ってくれたの…。」


「うん…似合ってる…。すごくキレイだ…。」


ユウは左手でレナの頬に触れると、指先でそっとレナの涙の跡をなぞる。


「またレナを泣かせちゃったな…。」


「ううん…。ユウ、ちゃんと生きていてくれたから…。それだけでもう、私はいいの。」


「レナ…。」


「本当の別れにならなくて、良かった…。」


レナはユウの手を握り、頬に当てた。


「ユウ、ちゃんと、温かいよ…。」


「レナ…ごめんな…。ひどいこと言って…あんなひどいことして…ちゃんと信じられなくて…本当にごめん…。」


「うん…。」


「オレ…もう死ぬんだなって思った時…レナのことばっかり考えてた…。」


「うん…。」


「せめてレナに謝りたかったとか…こんなオレを信じて愛してくれたこと…ありがとうって言いたかったとか…。それから…。」


「言ってよ、ユウ…。今、言って…。」


「うん…レナ…ずっと…オレの隣にいて、笑ってて欲しい…。オレ、レナがいないとダメなんだ…。」


レナの目から溢れた涙が頬を伝う。


「うん…。私も、ユウがいないとダメみたい…。ずっとユウのそばにいたい…。」


「また、あの部屋に戻って来てくれる?」


「うん…。」


「レナ…愛してる…。」


「私も、ユウのこと、愛してる…。」


「レナのことすごく抱きしめたいのに、手が動かない…。」


「私が、抱きしめてあげる。」


レナはユウを優しく抱きしめる。


「ユウ、つらい時はつらいって言って。私のこと、もっと頼って。ユウの思ってること、ちゃんと話して欲しい…。二人でなら、きっと乗り越えられるよ?」


「うん…。ありがとう…。」


「私は、ユウが望んでくれるなら、ずっとそばにいるからね。私にはユウが必要だから…。」


「うん…。今、思ってること言っていい?」


「うん、何?」


「レナと、キスしたい。」


ユウの言葉に、レナは少し照れ臭そうに笑みを浮かべて、ユウの唇にそっとキスをした。


ユウは、かろうじて動く左手でレナの頭を抱き寄せると、何度も何度も唇を重ねた。


「レナ…愛してる…もう、絶対離さない…。」


「うん…。約束だよ…。」










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