(3)「楽しみにしてろよ、上映会」

 

 スチールカメラマンという肩書きである私にとって、その後の映画制作には、ほとんどノータッチだった。

 アフレコには、つるやさんも来ていたらしいが、私はその現場に立ち会っていない。

 最初は脚本を見せてくれたハルヒコも、アフレコ用の台本は私に見せようとしなかった。

 だから、スタッフの一人である私にとっても、どのような映画になるのかは見当もつかなかった。

 それよりも問題は中間テストだった。私自身だけでなく、イツキの面倒も見なければならなかったのである。空き時間を利用して、私はポイントをまとめ、イツキに教えたりした。その努力の甲斐あって、イツキは全教科で赤点をまぬがれた。私もさして順位を落とさずにすんだ。映画制作に没頭していたハルヒコと長門くんは、大いに順位を落としたものの私よりは上位だった。

 こうして、あわただしかった十月が終わり、十一月に入ったその日、私はハルヒコとポスターを印刷していた。一銭のお金も使いたくないので、学校の印刷機を使ってである。もちろん、名義はSOS団ではなく、文芸部としてだが。

 ポスターには女装姿のみつる先輩とバニーガールのイツキの姿が載っている。白黒で印刷するのがもったいない良い出来である。ちなみに、この写真を撮ったのはスチールカメラマンの私ではない。映画ロケ以来、私がコンデジを手にすることはなかった。はたして、スタッフロールに私の名前はあるのだろうか。

 印刷中のポスターには、タイトルと上映時間だけでなく、DVD販売の予告もあった。値段は書かれていない。五千円で売るという話になっていたが、どうなったのだろう。

「そういや、特典映像って、まだ撮ってないの?」

「それどころじゃない」

 私の問いに、ハルヒコは答える。

「いま、長門が最後の編集をしてるからな。本編が完成するのはギリギリまでかかりそうだ」

「じゃあ、試写会とかはしないの?」

「そんな余裕はない」

「でも、みんなで確認しといたほうがいいんじゃないの?」

「心配すんなよ。最後は俺がチェックするんだから」

「そうだよね、これ、あんたの映画だもんね」

「ああ。俺が監督兼脚本兼プロデュースだからな」

 そういってニヤリと笑うハルヒコを見て、私はたいしたもんだと思った。

 気まぐれで始まった今回の映画制作だが、初回ロケでは、見事に準備不足が露呈した。あわや、空中分解の危機に直面したものの、長門くんの助言を受け入れて、みんなの協力のもと、なんとか完成にこぎつけることができた。

「ねえ、映画制作して、よかったと思う?」

「それは売れないとなんともいえないな」

 そう、この映画制作はかなりの赤字を出しているのだ。カメラのレンタル料を含めると、五人で分割しても払えない金額になっている。

「DVD製作費用だって、バカにならないんでしょ?」

「まあ、それはなんとかなるって」

 なお、DVDの完成品を用意できるのは、まだ先なので、上映会では予約を受け付けるのみとなった。はたして、売れるかどうかは疑問なのだが、それを思いわずらってはなるまい。みつるファンクラブや隠れイツキファンに期待するしかない。

「それよりも、楽しみにしてろよ、上映会」

「私が?」

「ああ、おまえが予想していたよりも、はるかにおもしろい映画になってるからな」

「変な期待はやめとくよ。あんたががんばったのは知ってるし」

「そういうことじゃねえよ」

「どういうこと?」

「まあ、楽しみにしてなって」

 ハルヒコの答えに、私は深く考えずにうなずいた。

 

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