(12)「だから!」

 

 まるで決壊したダムのように、彼はしゃべり続けていた。ここからは、星がよく見えるんだ、あれが北極星で、あれがカシオペア座で、などなど。これだけの無数の星があって、それで何もないなんておかしいじゃないか、そういうロマンをおまえと分かち合いたいんだ、うんぬん。

 ほとんど人通りがなかったとはいえ、道路で涼宮ハルヒコの独演会を聞かされるのはたまらなかったので、近くにある公園に移動する。その間も、彼はいろいろ語り続けている。

 こいつはいつもそうだ。なんで、道端で告白なんかするんだ。学校に行くんじゃなかったのか。思い立ったら、即行動。私のことなんて、ちっとも考えていない。

 おそらく、イツキに何か言われたのだろう。私が長門くんにとられそうだから急げとか、星空の下でロマンティックに告白すべしとか。そんなことを言うイツキもひどいが、それを実行する涼宮ハルヒコはもっとひどい。

 まるで、お気に入りのおもちゃが奪われて泣きわめく子供と同じじゃないか。

 そんな私の思いをよそに、彼の言葉は熱を帯びてくる。おまえがいなければ、SOS団が成り立たないように、俺にとっても、おまえがいなくちゃいけないんだ。俺はおまえにそばにいてほしい。そうだよな。いてくれるよな?

 冗談じゃない。私はまだ一言もしゃべっちゃいないんだぞ。

「だから!」

 彼は私の両肩をつかんだ。いつの間にか、彼の顔が間近にせまってきていた。

 さて、女子には不思議な力があることをご存じだろうか。

 女子は男子に比べて非力である。しかし、それは見せかけのものであり、防衛本能が働いたときの女子は、瞬間的にすさまじい力を発揮するのだ。

 この力はそのときにならなければ、本人ですら知ることができない。それは、人類が誕生してから、脈々と遺伝子に刻まれた生命の神秘であり、男から身を守るべく与えられた女性の最終兵器なのである。

 私はもはや「キョン子」と呼ばれし一個の人間ではなく、人類を形成するかたわれの存在「オンナ」と化していた。私の意志は切断され、身体は遺伝子レベルでの動きを開始した。

 オンナはオトコが襲いかかっていると認識した。オトコは撃退せねばならない。

 オンナは寸分の無駄のないフォームで、ありったけのエネルギーを右手にこめた。

 バシーン!

 そんな気持ちのいい音が夜の公園に響きわたる。

 唖然とした表情で、彼は私を見ていた。右手に心地よい痺れを味わいながら、私は立ちつくしていた。

 あえて言おう。これは私の望んだ結末ではないと。

 

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