(2)「おまえは宇宙人か?」
我が高校、通称「北高」は丘の上に建っている。どんな歴史があるのか知らないが、丘の上にある。ゆえに、毎日坂道をのぼらないと、校門にたどり着くことはできないのである。
私は駅から歩きで通っている。自転車通学の生徒は多い。最初は、自転車の子たちがうらやましいと思ったものだが、よく見ると、必死で立ちこぎをしていたり、あきらめて自転車を押して行く生徒が少なくない。校門まで自転車でたどり着くには、それなりの脚力が必要みたいである。ならば、のんべんだらりと歩いたほうがいいではないか。
入学一週間にして、早くもこの真理に至った私は、自分のペースでだらだらと歩いていた。知人がいたら声をかけるが、この日は一人も出会わなかった。教室に入ったときは、チャイム五分前。すでにほとんどの生徒が着席して、カバンから教科書を出したり、話をしたりしている。
私は自分の席に向かって歩く。すると、どうしても、一人の男子の背中を見ないわけにはいかない。
そう、涼宮ハルヒコである。
あのとんでもない自己紹介のせいで、彼はまったくクラスになじんでいないようだった。今朝もぼんやり窓の方を見ている。かわいそうな気がするが、もともと一匹狼なのだろう、彼のほうからもクラスメイトと仲良くしようとする気配はまったく見られなかった。
問題は、そんな彼の前に座る私の精神状態である。正直いって、涼宮ハルヒコは得体が知れない。まず、あの自己紹介が冗談なのか本気なのか知りたい。どちらにしろ、変なヤツであることにはまちがいないが、我がクラスの席替えは五月になるまで行われないのだ。つまり、五月一日まで私の後ろには涼宮ハルヒコが座っているのである。
これはなかなかのプレッシャーだ。平和な日常を最上としている私のポリシーからして、涼宮ハルヒコという謎の存在が与える影響力は、決して看過できない問題である。
そんなわけで、私は彼に話しかけることにしたのだ。それは彼のルックスが良かったからだとか、そんなミーハーなものではなく、涼宮ハルヒコという男子を私なりに知りたかったためである。いわば、知的好奇心だ。チャイムが鳴る数分前というのも良いタイミングである。変な話ならば、すぐに切り上げることができる。
もちろん、なじみのない男子に話しかけるのだから、私なりの努力はする。きわめて愛想よく、かわいらしく、私はこう声をかけた。
「ねえ、涼宮くんって、宇宙人、信じてるの?」
そのあたりさわりのない言葉を聞いて、彼は私を凝視する。そして、こう言った。
「おまえは宇宙人か?」
さすがにこの言葉に私の愛想笑いは崩れた。
「いや、ちがうけど」
「なら、いい」
そして、涼宮ハルヒコは私から視線をそらした。あれ、これで会話終了?
数秒間、私は唖然とした。それから腹が立ってきた。
せっかく、クラスメイトが話しかけてきたというのに、この態度はなんだ? 変なヤツだとしても、人間には最低限の礼儀というものが必要ではないか。
ふと、私を見る視線に気づく。数人の男女が私に何やら同情的な視線を投げかけていたのだ。あとで気づいたが、彼女たちは全員東中出身者だった。つまり、中学時代の涼宮ハルヒコを知っている子たちである。
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