第五話____センスとピンチ

約一時間ほど歩いた

今の時間は分からないが まだお昼前だろう


暑さが増す中 ゾンビのように歩いていると、さらさらと木の揺れる音がした

顔を上げると そこには大きな森が広がっていた


「おおおぉ〜!これが俺の求めていた場所!!」


シグマは疲れや暑さを忘れ森の中へと駆け込んでいった。


森の中は細い木漏れ日のおかげで多少は明るくなっているものの夜になると真っ暗になりそうな程 大きな木の影に覆われていた


シグマは荷物を木の幹に立てかけ 右手を握り力を入れ始めた。力を入れた握りこぶしをそっと開くと 右手の先が青い光に包まれそこから『斧』が出現した。


――数十分前 あまりの暑さにイライラして右手に力を入れるといきなり斧が出現したのだ


「あの時は かなりびっくりしたが こいつぁ便利な機能だ さぁて仕事に取りかかりますか」


そう言うとシグマは大きな木を切り始めた

数時間が経過し辺りは赤色に染まり始めた

シグマはかなり太く高さ10メートルほどある木を既に10本以上切っていた


「役場のドアを押さえてるときも思ったが俺って結構 腕の力あるんだな」


シグマは満足気な顔をしながら火を起こし その日は森で野宿した


――――――――――――――――――――――


シグマは鳥のさえずりで目を覚まし、朝早くから街の役場へと向かった


今回は一時間もしないうちに役場についた


「おはようございますって あれ、昨日の方 またいらっしゃる事は知っていましたがかなり早かったですね」


「あぁ!俺も思ったより順調に計画が進んで驚いてるぜ それよりジョブの変更だ!」


「それではジョブ一覧表を――」


シグマは身を乗り出したながら、言った


「もう決まってるんだ 次のジョブは『大工』だ」


女性は 驚いた表情で言った


「これは また珍しいジョブを」


「木が手に入ったんだ!次は家さ!」


――――――――――――――――――――――


シグマは森へと帰り、木の加工を始めた


「大工ってのは加工からしなくちゃいけねぇから大変だよな」


木の加工を手際よく終わらせたが辺りはもう真っ暗だった 木を切ったせいか月明かりが森に差し込む


シグマは空を見上げ呟いた


「明日は家だ」


そう言うとシグマは眠りについた


――――――――――――――――――――――


鳥のさえずりで目を覚ました


シグマは淡々と家を作り始めた


一日目に柱 二日目には床や壁 三日目になると内装も作り終え完成していた


「……俺ってセンスある?」


見た目も中も木で出来てはいるものの かなり豪華っぽい造りになっている


驚くことに木を切ってから家が完成するまでに一週間も経っていなかった


「そーし!この家で俺の平穏な異次元生活がはじまるぞ〜!!!」


シグマは木と葉っぱでテキトーに作ったベッドに飛び込んだ


しばらくして夜になった 夜になると明かりがないため真っ暗になった


「しまった!!明かりの事は考えてなかったぜ……寝よ」


――――――――――――――――――――――


朝になってシグマは街へ ろうそくを買いに行ったがお金が無かった 円は使えないようだ


家に帰ると若干出かける前と家具の配置が違う気がしたが 気にしなかった そして夜になり真っ暗になったので寝ることにした


――――――――――――――――――――――


朝になった 自分が切って加工した木を持って とある大工の店へと向かい その木を売った


思ったより高く売れた為かなりのお金が手に入った

ちょっとした食べ物とろうそくを買って家へと向かった


やっぱり家具の配置が変わっている!というよりは整頓したはずのものが整頓されていなかった


その日はろうそくを付けて寝た

寝てからどのくらいの時間がたったかは分からないがバタンとドアを閉める音で目を覚ました


「誰だ!」


反応がない 外では強く風が吹いていた


「風でドアが動いたのか やっぱり大工の腕もまだまだみたいだな」


そう言うと再び眠りについた


――――――――――――――――――――――


特に用もなく街をふらついていると『侵入者迎撃システム』という物が売っているのを見つけた


ひし形のそれを見つけた時 シグマは自分の家の家具の配置が変わっているのを思い出した


「これを使えば 動物だかなんだか知らないが何かが入り込んだ瞬間に迎撃してくれるのか」


それに興味を持ち店主に話を聞くと どうやら三次元でいうところの監視カメラに攻撃機能を加えた物らしい


迎撃システムという名前だが カメラの役割しか果たせないように迎撃システムを外すことによってシグマが買える値段まで落とせるということだった


「まぁ犯人が分かれば対策は出来るだろう どうせ たぬきかキツネみたいなやつだろうけど」


家に帰って早速カメラを設置したいところだったが あまりに疲れていたため その日はすぐに眠ってしまった


――――――――――――――――――――――


次の日の朝 カメラを設置し 何をするわけでもなく街へ向かい いつもは夕方に帰ってくるところをお昼に帰ってきた


カメラを手に取ると目の前にモニターが現れた


「へぇーこれは凄いなぁ」


感心しながら早送りをした


しばらくすると影が移り込んだため そこから普通の速度に戻して録画を見た


黒いフードを深くかぶった男が部屋に入ってきた

シグマはかなり恐怖を感じながらも続けて録画を見た


男は何かを探しているようだった


(まさかお金?この家の見た目が豪華だから そこに住んでる俺が金持ちだとでも思ったのか?)


色々考えながら録画を見ていると シグマが帰ってきた すると男は急いで後ろの押し入れへと身を隠した。その数分後シグマがカメラを手にしたところで録画は終わっていた


(最初はろうそくがないから そのまま暗闇を利用してこの家から出た 次の日は確かドアの閉まる音が聞こえたつまり俺が寝てから この家を出た 昨日は俺がすぐに寝たから いつでもこの家から出ることが出来た そして今日 男はまだ出てきていない……まさか!?)


シグマは色々考えた 体感ではかなり時間がたっている気がしたが実際は一秒も経っていなかった そしてゆっくりと後ろを振り向いた


そこには黒いフードの男が立っていた

顔を隠すフードの中からはコチラを睨む真っ赤な目が確認できたその男は小さな『鎌』を振りかざしていた

――そして振りかざした手を一気に振り下ろした



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