第4話 ハルタマススムヨシナミ、推参!
「へぇー、魔族ねぇ。で、名前はルペ、と」
「・・・驚かないのか?世界のほとんどは私のようなもの達を憎んでいるものと思っていたのだが」
「俺はどうやら外の世界から来たみたいなんだ。だからこの世界の魔族がどんな存在なのかわっかんねぇよ、だからなんつーか、あんたは図々しくも俺についてきた生意気でヘンテコリンな武器にしか見えねーよ」
「そうか、異世界からの来訪者が、私を助けたか・・・。うむ、これも何かの縁。運命やもしれぬ。それにだ、私はあまり占い事を信用せんのだが君からは何かを感じる。名を聞かせてはくれまいか、人の子よ」
俺は自分の名前をルペと名乗った銃に言った。銃に名を名乗るなんて傍から見れば怪しいのだろうが、案外この世界の武器はどれもこういったものばかりなのかもしれない。ロールプレイングゲームなどの中ではこういった武器を『魔銃』と呼ぶだろうに。
ルペは自分が何故銃になっているかわからないと言っていた。けれども、彼なのか彼女なのか謎なのだが、この銃はこの世界の住人であることには間違いないだろう。目的地までまだいくらかある。歩きがてら色々話を聞いてみることに決めた俺は思い切って声をかけようとしたのだが、その時、背中から掛けていたルペ銃が震え出した。何事かと思った矢先の出来事だった。
目の前に一人の少女が道を塞ぐように立っていた。
体のラインがはっきりと浮き出た服装だった。口元をマフラーで隠し、腰にはチラリと刃物らしきものの一部が見えた。その風貌、まさしく『暗殺者』や『盗賊』を連想させるものだった。
そして気づいた。眼前のシーフの頭部から青々とした木の葉のような色の髪に紛れるかたちで突き出ているその、耳。腰より少し高めに巻き付けられたベルトとおぼしきものが別の生き物のようにウネウネと動き...尻尾だ。あれは紛れもなく尻尾だ...ッ!
頭の中で目の前の少女の容姿から導き出された答えは。
「ネ...ネコだ!!ネコが二足歩行して!盗賊みたいな恰好で!!目の前におる!!」
思わず、高らかに叫んだ。いきなりの大声にそのネコも驚いたのか、体がビクッとなりそのネコ独特の瞳がわずかに細くなったが、こちらが落ち着いたのを見計らってか突然頭を下げてきた。
「いやー、驚かせてしまったご様子。もうしわけニャイ、なにぶんオークの村に客人など珍しく、またそれが人間と見れば尚のこと。この一帯、人は寄り付かないがあなたは何者ぞ?あぁ、人に名を聞くときはまずは自分から名乗るのでした。我が名は『ハルタマススムヨシナミ』、タマと呼んでもらって結構。この覚えにくいちんちくりんな名は母がつけてくれたものゆえ捨てることなど出来ぬのだが、物覚えが悪い者らには長すぎるとのことで略称ではあるがそう名乗っている。では、人間よ。名を聞かせてはくれまいか」
時代劇のお侍のような口調で話す目の前のネコは、俺の名を聞きたいと言ってきた。妙に長い名前を略して『タマ』と名乗った彼女であったが、その名を聞くとやはり人間らしい体のパーツよりネコとしてのパーツをなおさら意識せざる負えない。現に眼前で揺れ動く尻尾を触ってみたいなどと考えてしまう。
自分の名と今までの出来事を彼女に説明する。彼女は終始半信半疑といった感じで時々笑い声を上げては子供の怖い話を聞く大人のような反応であった。その間も彼女の耳や尻尾はわさわさと蠢いており、触ってみたい欲求に駆られた。
「突然なんだが、その耳と尻尾を良ければでいいのだが触らせてはくれないか。どうにも気になって気になって仕方が無いんだ。ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから」
変に息が荒くなる。
「(これでは俺は不審者ではないか!?)」
以前、テレビで見た小学生くらいの女の子を付け回す男性の図に似た、いや、まさしく今の状態こそ俗に言うロリータコンプレックスの持ち主、その人の心境に今の自分はなっているのだろうと感じた。大学生になり実家を開けて2年と経つが、今頃実家に住んでいるネコはどうなっているだろうか。
眼前のネコミミ少女に実家で飼っている『ハル』の姿が重なる。
「(あぁ、モフモフしたい。絶対に触ったら気持ちいい奴だ...)」
俺の頼みを聞いたタマは急に俺の前方へ飛び、顔を赤らめて言い放った。
「アキ、と言ったか...君はずいぶんと破廉恥な人間なんだな...。いや、別の世界から来たということを笠に私の耳や尻を触ろうとしたのか?なんて畜生だ。まぁ待て、落ち着くがいい。私はこのくらいじゃすぐに手を出すほど短気ではない。確かに、この世界の住人であっても『フェルパー』の耳や尻を触りたいという者は居る。それに君からは何か金になる臭いがする、カンと言ってもいい」
ここでタマは咳ばらいを1つ。再び歩みよって来て、
「耳くらいなら触ることを、許す」
おぉ、神よ。少女に顔を赤らめさせ、あまつさえその耳に触れることに対し興奮を覚えるこの変態をお許しください。
彼女の耳は温かく、髪の毛とはまた違った毛の触り心地に思わず。
「和むぅ...」
我ながら抜けた声を上げ、そのネコミミの感触とぬくもりを数分程堪能するのであった。
その後、タマに触られてどうだったと聞いてみると「私は耳で感じる変態ではない!」と怒られた。
神大陸 -魔銃の女帝- 蒼北 裕 @souhokuyuu
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