第3話 魔導銃、名は

 翌朝、トンムに聞かされたのだが、寝床にあった毛布などはすべてトデッカから採れたものであり、病みつきになる肌触りであったが森での出来事を思い出し、あまりいい気分にはなれなかった。

「ついて来いってこの先に何かあるのか、村長」


「倉ジャヨ、聞イタトコロオ前サン武器ヲ何モ持ッテナイソウジャナイカ。コレモ何カノ縁、コンナ辺鄙ナ村ニハ武器ナド無用ノ長物ジャ。ナンデモ好キナ物ヲ持ッテイクトイイ」


「でも、俺武器なんか使ったことないぞ。あんな人を襲うような怪物とだって戦ったことないし」


「イイカ?武器トイウ物ハナ、何カヲ攻撃スルノニ使ウモノトハ必ズシモ限ラン。持ッテイルダケデ、ソレハ『力』ニ成ルモノジャ」


 そう言うと村長は大きな倉の前で足を止めた。大きな扉の前には鍵がかけられ村長は懐から鍵束を出すとその中の一本の鍵を鍵穴へと差し込んだ。ガチャリという重い音と共に扉は軋みながら開いていった。しばらく開ける者はいなかったのか、いくつかのテーブルに掛けられた布の上にはホコリが積もっていた。俺はホコリっぽい臭いがただよう倉の中に入っていった。


「(どこから手を付けたもんか。なんつーか、こういう色んな形状の武器を見てると本当にファンタジーの世界に来たっていうのを感じるぜ)」

 

 剣、斧、槍、ボウガンのようなものといったメジャーなものから、果たしてどういったように使うのか一目見ただけではわからないものまで辺りを見回したところその数は50ほどだろう。


「(ここは出来るだけ取り回しのし易いナイフのような短剣にするか、それとも王道の剣か。うーん、悩むよなぁ、後で買い替えるっていう手もあるけど。どうやって金稼ぐとか、考えないとなぁ)」


 中々決めることが出来ずに頭を悩ませていたその時だった。ふと、壁に立て掛けられた1つの長銃が視界に入った。その銃は倉庫の中にある多くのシンプルな武器に比べて妙に装飾が凝った一本だった。日の光に当たっているせいかホコリを被っているはずなのに輝いて見える。まるでこれだけが何かに守られていたかのようだ。

 気づけば、その長銃を手に取っていた。銃を持つのは初めてだったが想像していたより軽い。


「ホォ、魔導銃ジャナ。マダコノ倉ニソノヨウナ珍シイ物ガ残ッテオッタトハ」


「村長、魔導銃って何だ?こいつはそんなにすごいものなのかい?」


「フゥム、魔導銃ト言ウノハナ、事前ニ『魔法』ヲ弾丸ニ込メ、ソレヲ打チ出スコトデ初メテ効果ヲ発揮スルモノジャ。モウ1ツ、別ノ手順デ打チ出ス物モアッタガ......忘レテシモウタ」


「事前に魔法を弾丸に込めるねぇ。俺が魔法を使え、無いな。うん。すごいカッコイイんだけど別の物にする......っ!グッ、ガァッ!!あ...頭がッ...!」


 突如、原因不明の頭痛に襲われた。視界が急にぼやけ出し今にも体が前のめりに倒れそうになる。なんとか転ばないように足で踏ん張る。村長はそんな俺に何か声をかけているが何を言っているのか聞き取ることが出来ない。その代わりに頭の中から声が響いてきた。


「......私を連れていけ。この場所から出ることが出来る機会はこれより先いつになるのかわかったものではない。連れていけ、さぁ。連れていけ連れていけ。ここは私の場所ではない。このような所に永劫閉じ込められる訳には行かぬッ!!連れていけ人の子よ!!この私を!!サァ、サァサァ!!」


「わかった!!わかったから、この頭痛を何とかしてくれ!!」


 そう答えると頭痛は徐々に収まり、視界ははっきりとし、村長の声も聞こえるようになった。


「急ニ唸リ出シテ心配シタゾ、モウ大丈夫カ?」


「あ、あぁ。村長、武器なんだがコイツにするよ」


 村長は「ソウカ」と一言、倉の扉を閉め、鍵を掛けた。武器を決めたはいいもののなんだかとんでも無いものを手にしてしまった気がするぜ、と思いつつも俺はこの村を出る準備をした。

 この世界に来て1つ不便を感じたのは『時間がわからない』という点だ。当然のように朝は日が昇っては沈み、夜は真っ暗になってしまう。だが今が何時なのかがわからないというのは冒険をするにあたり非常に不便である。少なくとも今の自分はこの村から出て森を抜け、人の住むという村までたどり着くのに夜になってしまわないのか不安であった。ひとまず日が沈むまでにはなんとか村までたどり着くしかない。

 皮袋に入った水、干し肉(何の物かは聞いてもわからなかった)、村長手書きの地図をポーチに詰め、先程の長銃を背負い、俺は村の門の前に立った。こういう場面はロールプレイングゲームにおいて最初の冒険の一歩になるのだが今の自分には楽しいという思いはなく、人が住むと呼ばれる村まで無事たどり着けるのかどうかという不安だけが心の中を渦巻いていた。

 門を抜けるとそこは、森だった。木々が密集しているため先が見えず、どこまで続いているのかがわからない。日は、まだ頭上にある。だいたい12時頃だろうか、地図によればこの森にはオークたちがよく使うとされる小道がありそこをまっすぐ進めば森を抜けることが出来るという。森を抜けた後は村が視界に入ると思うのでそこが人の住む村、らしい。ひとまず森を抜けるためにその小道とやらを探そう。


「門の周りにそれといった道は...お?あれかな」


 右のほうに地面がむき出しになっている個所があった。たぶんここで合っているだろう。周りにはここ以外に地面が露出している場所は無い。こうして森の中を歩いている分には自分の元いた世界となんら遜色は無い。ただ、時々道端に生えている草や虫は見たことのないもので少し気味が悪かった。童話のように赤やらピンクやら青や奇抜な色の木が生えていないだけマシなのかもしれない。この森には棲んでいて人を襲うような生き物はトデッカと『ナッキ』だけだという。ナッキというのは夜活動する鳥のような生き物だという。緑と黒色の体毛を持ち、飛ぶことは出来ないもののその分足が速いらしい。日中は木の上で寝ていることが多く、時々木を蹴ったりすると落ちてくるらしい。一方、トデッカは背の低い木に隠れ獲物を狩るというのだが、主食は虫なので人間を襲うことは無いらしい。ただ自分の住処に侵入したものは容赦なく攻撃し、木や草の無い道を歩くのを極端に嫌う臆病な生き物らしい。

 しばらく歩いていると、例の声が頭の中に響いてきた。しかし、今度は荒ぶるような口調ではなく穏やかな印象を受ける柔らかいものだった。


「人の子よ、礼を言おう。この姿になってからというもの気づいた時にはあの真っ暗な空間の中でな、少々カッとなってしまった」


「いや、気にしないでくれ。それよりこの頭ン中に響いてる声の主、やっぱりこの銃なのか?」


「如何にも。しかし、以前は人に近い姿をしておった。私にもなぜ自分が銃になっているのか理由はわからないのだが。ともかく繰り返しになるが礼を言おう、ありがとう」


 妙な銃だなぁ、と思いながらもその銃に質問を投げかけてみた。


「あんた、名前はあるのか?それに人に近い姿ってどういうことだよ」


「私の名は『ドルペイム・ヴァーガイン』、ルペと呼んでくれて構わない、親しいものからはそう呼ばれていた。そして私は

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