The Reverce of AEGIS-AEGIS外伝-Vol.1[Prologue of Destiny]
Prologue of Destiny(1)
1
AD三二七五年六月二一日午前一〇時三一分
『話は聞いているな?』
男の声が暗いコクピットの中に響き渡る。
「聞いてンに決まってンだろ」
コクピットの中でコンソールパネルの上に脚を乗せ、でかい態度で悠然と座る男は素っ気なくそう答えた。
左手足をアーマードフレームという戦闘用義肢に変え、金髪に混じる黒メッシュの髪に左頬の十字傷、そして炎のような赤い瞳を持つ、そんな酔狂な人物だった。
男の名は『ゼロ』。『鋼』、ないしは『
もっとも、今の彼にとって『ゼロ』というその名前が意味を持つとは思っていない。あくまで自分は『鋼』という『記号』で十分だろう、そう思い始めている。
なにせこの男、傭兵派遣企業を抱えた国家や警備企業国家、果ては世界三大企業国家であるベクトーア、華狼、フェンリルからのオファーすら蹴っている。西へ東への根無し草、定住したことなど子供の頃以降まったくない。
ここ一、二年は特にそうだ。考えてもみればそこらに生えている草を食って飢えを凌いだことすらあった。人間らしい生活という物をあまりしていない気もする。
だから余計に人間らしい名前に意味が見いだせなくなってきているのだ。
かつて『いた』兄と共に名付けた自分の名前に価値観が見いだせず、男はただ、愛機の心臓と化す。
プロトタイプエイジス『XA-006
紅のボディがまるで炎のような印象を持つ機体で、強襲作戦をもっとも得意とするかなりバランスに優れた機体であり、ゼロにとっては十年来の愛機である。
今回の依頼はベクトーア軍からの物だ。内容は至って単純、この森の中に貼ったベースキャンプの先にある華狼のベースキャンプを襲撃して壊滅すること。
別にいつもの任務だ。何一つ変わりすらしない。
退屈そうにゼロはそう思った。
同じような任務がほぼ毎日のように飛び込んでくる。毎日同じような戦闘の繰り返し、強い奴はほとんど出てこない。毎日一定のリズムの繰り返しだ。
そんなことだから彼は余計に機械化していくのかも知れない。
「つまんねぇ……」
ゼロは暗いコクピットの中でそう言う。
『それはそうと、今回の任務には彼女と協力してもらう』
通信してきたベクトーア軍の司令官はゼロの心境も知らずにそう言った。
すると紅神の横にいた一機のM.W.S.が立ち上がる。
ベージュをベースとした配色、そして背部に大量に積まれた武器群がまるで各々が尻尾のようにも見える。
ベクトーア軍高性能指揮官機『BM-073ナインテイル』だ。
その名の通り九つの武器を尻尾のように収納している機体であるが如何せん武器群は全て特注品であるためコストがかさみ製造機数も二年で一五〇機とクレイモアの受注待ち分も含めた生産機数の約八分の一である。
しかし、このナインテイルは少し違う。
まず本来、ナインテイルの配色は白中心だが、それがベージュに塗られている。それと右腕を固定式の三〇ミリマシンガンに変更してある。このマシンガンが角張ったデザインラインをしていることからベクトーア関連会社の代物であることはすぐ分かった。
そして、最大の違いは本来その名の通り武装は九種類のはずなのに武装が十一種あることだ。
しかもそれにあわせてか水素式燃料電池のエネルギーも増やしているらしく少々静音性に欠けるような音を醸し出している。なんかかなり音が甲高い。
派手に暴れ回ることをとにかく重視した、そんな機体だった。
「誰だ、てめぇは?」
ゼロは隣のM.W.S.に通信を入れた。
その瞬間モニターにはエメラルドグリーンのセミロングの髪の毛にゴールドの瞳が印象的な女性が写る。
パッと見、かなりがさつな印象を受ける。
確かに美人の範疇には入る。少し焼けた黄色系の肌とエメラルドグリーンの髪の毛の配色がそう見えさせるのだろう。
だが、髪の毛は特に手入れなどはあまり考えていないようで少しぼさぼさだし、何より『臭い』がそういった臭いを発していると、ゼロの感覚が告げている。
そしてその女性はゼロに軽く自己紹介をする。
『あたしはアナスタシアってんだ。デスマスクって言やわかるだろ? ってゆーかわかれ』
のっけからこんな感じだ。案の定というべきか。ちなみに昔からこうだったらしい。
しかし、デスマスクといえばここ一年くらいで有名になった傭兵で無類のガンマニアだと有名だった。なんでこんな名前にしたのかはもっぱら不明だが、強いことだけは事実である。
それが女であることにゼロは少し驚く。
「ほぉ、てめぇがそうか」
『ああ、そんなに信じらんないか?』
「たりめぇだろ」
『ま、よろしく頼むぜ、スタフル・バガボンドさんよ。お、そーいやこの機体は「サラスヴァティー」って名前が付いてるからよろしくな』
サラスヴァティーの名の由来はインド神話に出てくる四本の腕を持つ女神の名前だ。
ある意味当てはまっていると言える。
一方この時ゼロは妙な感触を持っていた。
たかがベースキャンプを襲撃するのに傭兵二人も雇う必要があるたぁ思えねぇんだがな……。しかもそれ以外にもクレイモア一二機もいやがる。そんなにいるか?
確かにそうだった。実際、紅神とサラスヴァティーが現在いるベースキャンプには調整をほとんど終えて出撃しようとしている、青のボディが印象的なベクトーア軍主力機『BM-072クレイモア』がいた。
「おい、何でこんなに連れてくんだよ?」
ゼロはストレートに司令に聞いた。
「念のためだ。そもそも傭兵である君たちには知らなくてもいいことがいろいろとあるのだよ」
幹部はそう言うだけだった。
ゼロは舌打ちしてそのまま通信を切った。
苛ついたのは確かだが、言われたことは事実以外の何者でもない。
それにゼロ自身も何を考えているのか多少興味があるものの、それ以上詮索する気にはなれなかった。
本来ならば、である。今回はちょっと気になる点が多すぎる。
クレイモア十二機という数、それと『ベクトーアアームズ「ディザスター1000対M.W.S.ライフル」』を装備した歩兵が五〇人弱、明らかに重装備すぎるのだ。
『ろくでもないことを考えてんだろーな。用心した方がいいぞ』
アナスタシアはゼロに注意を促す。
「当たり前だ。念のため奴らも監視しておく」
ゼロはコンソールパネルを操作して後部のクレイモアの様子のモニタリングを指示した。
カメラの一つを監視用にセットする。
「了解。モニタリングシステム、リンク……完了。感度良好、異常なし」
AIは淡々と述べる。モニターの片隅には背後のクレイモアが映し出された。
「ご苦労」
ゼロはただそう言うだけだった。
その直後、司令官から号令が下る。
『作戦開始まで後三〇秒。全機、起動せよ』
その瞬間、紅神、サラスヴァティー、そしてクレイモア十二機が立ち上がった。
クレイモア達の武装は『MG-65』四五ミリマシンガン、ベクトーアアームズ製のM.W.S.用小型機関砲ながら、威力、射程、弾数全てが優秀にまとまっている傑作モデルである。
そして、オペレーターの声とモニターに表示されたカウンターとが重なり合う。
『カウントダウン、三,二,一,〇! 作戦開始です』
『指示通り、デスマスクは
司令官の言葉と同時に各機は指示されたポイントへと散っていった。
重苦しい足音が大地に響く。
「こちら鋼。これより指向性レーザー通信モードに切り替える。それと各機、通信コードの暗号化を忘れるな」
『了解している』
ゼロの言葉にA3と4の各員は凛とした言葉で返答した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
戦闘を行っている箇所から北へ百キロ程離れたベクトーアが接収した港町『リア』。そこにある海沿いの海軍基地に巨大な空中戦艦が一隻、駐留していた。
二年前に完成したベクトーア軍の新鋭空中戦艦、エクスガリバー級の四番艦である。
名は『
その名を借りたこの戦艦こそ、現在ベクトーア軍最強の異名を誇る『海軍第四独立艦隊「ルーン・ブレイド」』の旗艦である。
叢雲の真ん中にあるハッチから三人の仕官がその基地のドライバーの運転するジープで移送されていく。
助手席に座っている一人の仕官は銀髪の中に多少白髪の入った少し老けた感じの男だった。ただ厳格そうな雰囲気は持ち合わせている見るからに叩き上げと言った感じの男だ。
ロニキス・アンダーソン中佐、年齢四七歳、叢雲の艦長である。
一方、後部座席に乗っている男は、ロニキスとは対照的に物腰の柔らかそうな男だった。
ロイド・ローヤー少佐、年齢三八歳、叢雲の副長。
しかし、この二人以上に基地関係者から驚きが上がったのは、ロイドの隣にいる女性だった。
いや、女性と言うにはまだ少し若い感じすらある。
緑がかったまっすぐな黒髪を持つ少女。優しさとその奥底に見える哀しみを抱えたダークブラウンの瞳が印象的なそんな少女。
ルナ・ホーヒュニング。四年前に難関であるアルト国際大学を卒業、そして類い希な戦闘センスと頭脳を持ちわずか一八歳にしてルーン・ブレイドの戦闘隊長になった。それが彼女だ。
現在年齢一九歳、階級は大尉。『フレーズヴェルグ』の異名を持ち、プロトタイプエイジス『XA-022
やはり彼女があまりにも若いため周囲からは驚きの声がいくつも聞かれた。
そんな様子を彼女は意に介さない。反応としては当然だろうと彼女は思っているのだ。
それ故か、彼女は一つ、大きく口を開けて手で口を隠しながら欠伸をした。
実は彼女、ここ最近報告書の提出やら何やらでかなり忙しく睡眠不足に陥っていたのだ。
「大尉、そんなに眠いか?」
ロニキスは後ろを向いてルナに聞いた。
「あ、すみません。でも、確かに眠いです」
ルナはロニキスに対して静かにそう言った。
少し風にでも当たらなければ寝てしまいそうだ。
「後でゆっくり休んでください。仕事は私たちでやりますから」
ロイドはルナに提言するがルナは何とか否定した。
「あ、いえ。自分でやりますから」
さすがに上司に仕事を押しつけるのはまずいと思っているようだ。
そんなこんなで基地の司令室が入っているビルにジープは着く。
ガラスが太陽光を照らし返す。少しだけルナは目を細めた。
気候もちょうどいい。暑くもなく寒くもなく、実に麗らかな陽気である。
そんな様子に対して彼女の付いた感想は、
「あ~、早く寝たいわ……怠……眠……」
と言うなんとも情けない物だった。
その後また大きく口を開けて欠伸をした。
麗らかな陽気の中、昼寝したい気分で彼女はいっぱいだった。
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