小話(1)

世界と企業国家

企業国家とは

各々の街、ないしは国を企業が支配するという方式。選挙などは当然存在しない。

もっとも最初の企業国家は2348年にどこかの大陸で発足したとされる「エスペラント」という国家だが、この国家設立後、企業国家の乱立が続き戦となり500年にも及ぶ歴史空白期間「ロストセンチュリー」を迎えることとなる。

元々は2275年に起こった世界崩壊「ラグナロク」により、各国の財政が悪化したことで政府機能が弱体化した。そのため国民を食わせる方法として利潤最優先にして全ての債務を一括で企業が行えるようにするという理念の元に出来上がった。


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ベクトーア

西ユーラシア大陸を治める企業国家。首都は「フィリム」。人口は約5億5000万人。

3159年に国家が成立したため、国家としての歴史は他の二国よりも短いが、企業としての歴史はかなり長く、この時より40年近く前の3117年に創業した。

当時、西ユーラシアはラビュリントスという国家が治めていたが、政治の腐敗による小規模企業国家の反乱が相次いでいた。その反乱にはM.W.S.で対抗するより他なく、その運用資金による財政難にラビュリントスは悩まされていたという。

そこにベクトーアが手を貸した。新型のM.W.S.用アクチュエーターを製造し、販売したのだ。これにより大幅なランニングコストの低下に成功する。

それによりベクトーアの名は一気に売れた。巨万の富を得るようになり始め、3140年頃には大企業の買収を何軒も成し遂げ、企業の規模を徐々に巨大化、3150年には自社ブランドのM.W.S.を正式に発表するなど|(実際にはもう十年以上前には出来上がっていた。公表しなかったのはただ単純にラビュリントスに警戒心を持たせたくなかったため)、躍進を続けた。

3151年にラビュリントスが崩壊し、西ユーラシアが無政府状態と化した際に起こった「第八次西ユーラシア企業間大戦」において、8年の長きにわたる攻防(実際の戦闘期間は全ての戦闘を合計しても一年と少ししかない。異様なほど時間が掛かった理由は各国ともラビュリントスが崩壊した事による財政回復に追われていたため)の末に3159年に統一した。ベクトーアは企業の買収を始めた頃から、西ユーラシアの支配権を握ることを虎視眈々と狙っており、その頃から自衛用とは名ばかりの兵士の戦闘訓練を行っていた。それがベクトーア軍の精強さに結びついたとも言える。

現在は会長のヨシュア・レイヤー・ビルフェルト・リッテンマイヤーの行っている「アメとムチの政策」による政治の賛否両論を巻き起こし、軍部が二分しかけている。

また、二世議員の多さ故に少々の腐敗を招いてしまっているが、軍人や政治家にはかなり優秀な人材が多い他、ELやKLの元になる鉱石が他の二国より遙かに多く埋蔵されているため、エイジスの配属数が群を抜いている。

更には国民の持つ異様なほどの熱意(と、楽天ぶり)により、想像以上に国全体は活気づいている。

国旗は古来の騎士団の紋章をモチーフに作成された。十時の矢印は「あらゆる方向に進化する」を体現した物である。


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華狼《ファロウ》

東ユーラシア大陸を治める企業国家で、この世界で最大の人口(人口10億以上)を抱える企業国家でもある。首都は「龍走路ロンズォウルー」。

3139年、当時東ユーラシアを牛耳っていた企業国家「ラスゴー」にクーデターを仕掛けた男がいた。それが華狼初代会長のトール・カーティスである。

3107年、ラスゴー第二九代会長「リュウ廊愁ロウシュウ」の時代。暗愚な君主と政治一式を取り仕切った無能な重臣により腐敗しきったラスゴーに対し危機感を抱いたトールだったが、彼自身はラスゴーの将の一人であり名家の出身でもあった。

『国を復活させるにはどうすればよい』と考えた末に『この国を消し、新たな国を作る』という考えに至ったのがクーデターの原因である。

クーデターを確実に成功させるため、長い月日を掛けてじわじわと兵站線と武器弾薬、鉱物資源に現金に至るまで揃えていったのみならず、トールは海外にまで手を染め、ありとあらゆる人材を確保した。

そしてクーデターを仕掛けると、民衆も扇動し、巨大だった国家をわずか一年でひっくり返したのである。

以後、彼は3155年まで会長を務め、その年に亡くなった。それ故に二代目である「ロン・カーティス」の時代はトールがいなくなったことによる解放を求め、反乱が起こった。この時力を発揮したのが元ラスゴーの忠臣にして伝説とまで呼ばれることとなるプロトタイプエイジス「紅神」の二代目所有者「ヴァーティゴ・アルチェミスツ」である。

名前を聞いただけで泣く子も黙るとまで言わしめたまさに鬼神であり、彼の活躍のおかげで内乱鎮圧計画は当初の予定の三分の一の期間で済んだ。

その後暫くは順風満帆が続いたが、100年の時が経った3271年、華狼第五代会長が暗殺される。暴政を働きすぎたことがきっかけと言われているが、この事件には首謀者が謎であるなど、不明点が多い。

ただ、一つだけはっきりしていることがある。その暴政を働いた会長の息子はトール以上の力を持っているとさえ言われた人間であったと言うことだ。

現在会長であるザウアー・カーティスはこの時31。今でも年齢は36と、全企業国家の中でも随一に若い会長なのである。

そしてその若い会長の持つカリスマ故に、一部で苛烈なところがあることと、カーティス一族の独裁がまだ少し残っていることさえ除けば、十分すぎるほど国家としての大きな力を持っていると言える。

国旗は円の中に五行思想を司る五つの丸、そして陰陽印で構成されている。すべてはこれらの要素に集約されるという華狼の思想が現れた物である。


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フェンリル

アフリカを牛耳る企業国家。首都は「アルティム」。人口は約9億人。

元々フェンリルというこの会社もまた、ベクトーアと同じくラビュリントス傘下の会社だった。しかし、第八次西ユーラシア企業間大戦が起こると同時にアフリカへグループ丸ごと逃げ、当時企業国家の歴史千年においてアフリカは未だに統一した国家がないような状況にもかかわらず、この会社は独自のM.W.S.をもってやってのけ、3152年に国家として制定された。

ただし、このM.W.S.の開発資金や物資のルート、あまりにも早い鎮圧、そして当時の会長とされた「ウルド・ウィンスレット」なる人物が何者なのかといったことも含め詳しいことは分かっていない。

その後紆余曲折を得ながらもどうにか安定して百年ほど経った3265年、ベクトーアの国内で「血のローレシア」と呼ばれる事件が起きると同時にフェンリルは今回の戦である「アラビア覇権戦争」に参戦した。

三大企業国家としては比較的遅い参戦であったが、気になることが二点ある。

まず一点目はこの時期まで待った理由である。確かに雌伏の時を過ごして一気に攻勢に出るという手口もあるだろうが、ベクトーア・華狼の両者による和平会談の破綻を待っていたかのように突然参戦したことは何かしらの疑念を持たざるを得ない。もう一点は、偶然かもしれないが、この時期からアイオーンが出現している。

アイオーンとこの戦との関連性は未だに不明だが、何か関わっていることはほぼ間違いないと考えられているが、それを歯牙に掛けるまでもなく、着々と戦力を整えただけあって、後発ながらこの十年以上の戦争で領土を他国に侵攻されたことはあっても、そ

の全てを打ち払っている。要因としてあげられるのは砂漠などの天然の要害が挙げられるだろう。

現在でも会長の「フレイア・ウィンスレット」の持つ異常なカリスマ性や人気もあると同時に、領土の強奪がないためか、食糧事情も安定している上、完全実力主義であるため多くの人材が集まるのもまた一つの特徴であるといえる。

が、アフリカ解放戦線などによる多くの内紛が未だに起こっているのもまた事実である。ここら辺は創設当時の混沌としたアフリカ大陸の様をそのままに表していると言えるが、特に殲滅させる気配もないなど、何処かこの混沌を楽しんでいるかのようにも見える奇妙な企業である。

国旗は「山形」の家紋を多く連ねた三角形。山はアルティムの前に佇むパリエース山脈を意味し、互い違いに塗られた色は、アフリカの持つ荒野、砂漠の色を表す。また、同時にこの山形は「魔獣フェンリル」の持つ「牙」もイメージしている。


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日本

極東にある島に存在する企業国家。かつて主権国家だった時代からの国名をそのまま企業の名前とした極めて珍しい企業国家である。

元々はラスゴーの傘下だったが、3141年に華狼に変わると同時に独立した。

主権国家時代、M.W.S.発明プロジェクトの中心にいたこともあり、聖戦時には多くのプロトタイプエイジスをロールアウトし、今でも特殊な機体を数多く生産するなど、二足歩行兵器に関する技術力はかなり高い。

漁業などの水産業や観光業も人気だが、企業としての最大の特徴は何処の軍勢にもない特殊な技術力であろう。元々の国民性と、M.W.S.発明の中心にいたというノウハウがそれを可能としているといえる。

しかし、島国かつ極東という地理的要員により、これ程の技術を持っていながら三代企業国家同士の戦争には巻き込まれずに済んでいるが、裏では傭兵の派遣を多く執り行っている。その事もあり、「死の商人」とも呼ばれることも少なくない。


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ダムド

海上を移動する巨大船「ダムド」に築かれた企業国家。島が移動しているとまで言われるほど巨大な船の中に居住区から生産施設から兵器の生産工場に至るまで全てを取りそろえている。

日本と並んで企業国家としての歴史は古いが、日本と違うのは国そのものが移動しているという点である。これは主たる業務としているのが「派遣事業」であるからというのが理由であるとされている。

国家として成り立つ前は全社員30名の零細派遣会社だった。ところが開業当初に戦争が起き、その復興事業のために土地を転々とするハメになった。そこで彼らが目に付けたのが船であった。大型船ならば飛行機以上に大量の資材を積めるし、海路ならばあらゆる国へ向かうことが可能となると踏んだ彼らは中古の大型船を買い取り、そこで派遣を始めた。これがダムドの始まりであるとされている。

世界最大のPMSCs「ヘヴンズゲート」を抱えていることで世界中に賞賛と悪名が入り交じった声が聞かれる国家でもあるが、同時に船の中にある農業プラントで作成される麦から作られた地ビールが美味いという変わった風評もある。


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北米大陸

ラグナロクによって世界が崩壊すると同時に、それまで力を付けていた国家は、そのほとんどが企業に支配権を奪われた。アメリカもまた、その例外ではなく、ラグナロクより約50年後、地図上からその名は消えた。

だがそれでもかつての国の栄光を捨てることが出来なかった。それにより企業国家の台頭という時代に乗り遅れたこの大陸の人々は、方々に多くの小規模企業国家を作り上げた。

現在でも大陸の中に全部で300社、群雄割拠の真っ直中なのである。

300社のうち、主に力を付けているのが「コンフォート」と「AGM(アメリカン・ジェネラル・メカニクス、通称アジム)」であるが、この二つを組み合わせても規模は日本やダムドにも及ばない。

どの企業が抜きん出るか、今北米大陸はにらみ合いの日々が続いている。


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南米大陸

聖戦激戦地の一つとして非常に有名な地域。実際この土地の中で、アイオーントップレベルの実力を持つ「十二使徒」の「トマス」、「シモン」、「タダイ」の三体が鎮圧されたと同時に、プロトタイプエイジスが七機も破壊されている。

それによる荒廃と、一時的に統一した企業が行った政治の失態による社会情勢の混乱が影響し、今なお無法地帯となっている。


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オーストラリア

ラグナロクの影響で西側半分が水没した。それでもなお健在のグレードディバイディング山脈によって国は東側と西側とに分裂した。

しかし、東側は温暖な気候故に観光産業や鉄鉱石などの地下資源で儲かっているが、西側は延々砂漠が続いているため農作物もまるで育たない環境、かつ目立った産業もこれといってないため西が東に降るのも時間の問題とされている。


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分南島ぶんなんとう

ラグナロクによる衝撃波の影響で中国の南三分の一ほどが切り取られ、巨大な島となった。それが分南島である。

オーストラリアと華狼の中間点に位置するため、常に領土問題に悩まされており、どちらの国に付くのが今後の正しい政策なのかと延々議論が続いているが、基本的に「勝った方に付く」という姿勢でいる。

政治は何処か不安を感じるが、観光産業は非常に優秀で、自然の作り出す雄大な姿に見惚れる者は多い。

特にやはり土地が近いからか、華狼からの観光客が多く、中華料理を扱う店が多いのもまた興味深い点である。


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アーク遺跡

西暦2246年にアラビア半島沖合に隆起した謎の遺跡。

「突如出現した」という表現以外に言いようのない出現であり、更に明らかに人為的な措置があった。何処か神秘的でもあったため、ここを古代文明の遺跡だと考える学者も多く、いつの間にか「島」ではなく「遺跡」となり、「アーク遺跡」の名が付いた。

発掘調査から三年経ち、発見されたのが「レヴィナス」である。レヴィナスが科学で証明不能の「心理」を具現化する力があること、そして一片に秘められた膨大なエネルギー故に世界各国から注目された。

しかもここで興味深いのは、一国のみによる独占採取がなかったことである。一時期某国がやりかけたが、世界各国から非難が殺到、一部の国からは輸入を打ち切られるなど打撃が多く出たために泣く泣く諦めたというエピソードもあるくらいだ。結果として共有財産になり、様々な国がここで発掘、調査を行ったとされている。

しかしラグナロクと共にこの遺跡は跡形もなく消えた。ここを中心にラグナロクが起こったとも言われており、今現在の世界は、そこだけが円を描いてぽっかりと開いている。

レヴィナスはどうやって出来るのか、いつの物なのか、そしてこの遺跡はなんなのか。科学者や考古学者は千年経った今でもこの遺跡を研究し続けている。

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