第二十八話『人をやめし者達』(4)-2

 数が、増え続けている。気付けば、周囲は敵しかいない。しかも敵は話の通じない上、戦に対して何の精神も宿さないアイオーンと来た。

 ただ一人だけ、アイオーンと化したエミリオのみ、話が通じなくはないが、無理だろうと、スパーテインはあの殺気で感じ取ることが出来た。


 ヴォルフに任せてきたが、あの狭霧は尋常ではない。いくらヴォルフが己でケリを付けると言っても、かなり厳しい戦になる。出来る限り、ヴォルフは失いたくはない。

 本人は許さないだろうし、自分としても一騎打ちに割って入るのは本懐ではないが、しかし、倒さなければならない相手であるのは違いない。


『中佐、第二十七大隊、潰走手前です!』


 史栄が、それを察してか大声で通信を繋げてきた。

 いいところで止めてくれると、スパーテインは心底思った。自分の成すべきことを今はやるべきなのだ。

 自分は今一機に囚われるべきではなく、全体の指揮を執らなければならない。それが、上の者の責務という物でもあろう。


「史栄、我が隊は欠けていないな」

『一機だけ肩をやられましたが、それ以外に被害はありません。ただ、弾薬が減ってきましたよ、それもかなりです』

「だろうな。だがこの戦、護ったら負けるぞ。第二十七大隊を拾ったその足で背後から敵を割る。残った第二十七大隊の指揮は史栄、お前が執れ。私の後に続けさせればいい」

『いきなりの大役ですね』

「あの隊は今まともに率いる者がいないからな。お前なら出来るだろう」

『なら、やってみせますよ、中佐!』


 この男は、なかなかに剛毅なところがある。それだから、自分はこの男を副官に選んだのだ。


「行くぞ。遅れるな」

『御意』


 一気に隊を駆けさせた。敵、イェソドだ。自分の機体より、身の丈が一.五倍はある。しかし、だからなんだと、スパーテインは思った。メガオーラブレードで、一刀両断した。

 レーダーが、またイェソドの反応が増えたことを知らせた。前方に展開している。


 夜叉の背部にあるオーラリフレクトバインダーにため込まれたエネルギーを、一度気に変換して放出した。拡散された蒼い気が、イェソドを貫き、いくつかが灰となって消える。

 しかし、また増援がレーダーに映った。

 イェソドとゲブラーだった。前方に塞がっている。一度舌打ちした直後、ディアルの部隊が現れ、陣を二つに割った。

 灰となって消え、目の前のアイオーンの反応が消失したことを、レーダーが告げていた。


『スパ兄、貸しにしとく』

「すまん、恩に着る。お前は攪乱しつつ、ケツアルカトルの後退を援護しろ」

『了解した。死ぬなよ、スパ兄』


 直後にディアルの軍勢が自分の後方へ、そして自分達は一気に前進した。

 第二十七大隊が見えた。気付けば二四機いたはずのゴブリンは、気付けば一〇機以下に減っている。指揮官のいない軍隊は脆いが、やはりエミリオの問題が関係していたのだろう。狭霧のオーラワイヤーは、場合によっては味方にも甚大な被害をもたらす。

 しかも、エミリオ自身が孤独を好んだのだ。そういった軍隊になっても仕方がなかった。

 そして自分もまた、それを矯正する術を見いだせなかった気がしてきた。


 いや、考えるのは戦の後にしよう。まずはこの戦に生き残らせなければならない。

 そのまま隊を小さくまとめ、一気に突っ込んだ。いくつものアイオーンが、灰となって消えていく。

 第二十七大隊を拾い上げ、史栄に指揮を任せながら、反転してまた突っ込んだ。進路上のアイオーンが、片っ端から消えていくが、また同じ数だけ増援が来た。


『スパーテイン殿、キリがありませんぞ』


 第二十七大隊の誰かが言う。確かにキリがないが、ではこのまま指をくわえて黙って見ていろというのが正しいかというと、それは絶対に否である。


『戯けたことを言うな。我が隊では誰一人気弱になっている奴はいないぞ。その弱気が死につながると思え』


 相手が口をつぐんだ。自分が言わんとしていたことをそのまま史栄が言ったのだ。悪くない、とスパーテインには思えた。指揮官としては、十分に素養があると言ってもいいだろう。

 まだ見渡す限り敵だらけだ。何せレーダー全体がアイオーンのマーカーで埋め尽くされているくらいなのだ。


 対してこちらの兵力は減る一方である。ケツアルカトルからのデータリンクで、隊の残弾数を見たが、既に弾薬は半分を切った。

 死ぬるなら戦場で。武人としては本望だ。しかし、わざわざ全員をそれに付き合わせる必要はない。

 最悪、己が犠牲になってでも、いずれ味方を退却させた方が無難だと、スパーテインは思った。


 メガオーラブレードで、目の前のアイオーンを、一刀両断した。一体減って三体増える。


 いつまで、この作業のような物が続くのだ。


 何故か、苛立ちを覚え始めていた。

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