第十六話『勇猛なる者』(2)-1

AD三二七五年七月一日午後一二時二一分


 日の光が暖かい。しかし、限度という物も存在する。

 ルーン・ブレイドが今間借りしている整備場は、どの部隊の整備場とも何ら変わりはない。

 ただ一点、クーラーが壊れていることを除けば。


 ゼロ達は汗だくになりながら自分の愛機の整備にいそしんでいた。

 が、みんなやる気がない。それもそうだ、七月上旬の気温としては季節外れとすら言える二八度という気温、しかも午後には三〇度に達するという。

 暑くてしょうがない。ゼロはクーラーを効かせてもなお暑い自身の愛機-紅神のコクピットでうちわ片手に操作系統のチェックを行っていたが、とてもではないがやる気が出ない。

 しかも彼、今ジャケットどころかシャツすら脱いで半裸状態で機械を動かしている。


 生身の体に見える、細胞が壊死した故に直らない傷と、それを覆い隠す鋼鉄の義肢が痛々しい。

 が、特に周りの反応は気にせず、ゼロは一度汗だくの体をうちわで扇ぐ。

 熱風しか来ないので三秒でやめた。


 しかもここからでは見えないとは言え、自身の愛機の色をこれほど憎く感じたこともない。


 炎の赤、このクソ暑いときに更に暑いモン連想させんじゃねぇよ、ったく……。


 この時ゼロはそう思ったらしいが、それはどう考えても逆ギレである。


「おい、クーラー直らねぇのかよ?」

「しょうがねぇだろ……。修繕部隊は俺達の戦艦の修理で出ずっぱりだ。かといって、ここのクーラーは、マニュアル紛失したおかげで修理する術は無しときた。話にならねぇよ」


 コクピットの方に目をやりながら、整備班副長のブラー・ラウンドはゼロに愚痴るように言った。

 彼独特の白のメッシュを入れた髪の毛の、そのメッシュ部分から汗が滴り落ちている。流石の彼でも、この状況は厳しい。扇風機も吹かし始めたが、焼け石に水とでも言うべきか。


 出来ることならば当分この中にいたかったが、もう作業も終わってしまったのでゼロはコクピットから出る。

 しかし、出た瞬間暑さがぶり返した。特に自分は左半身が機械化されているからそれに直射日光が当たって更に暑い。

 今更だが、もう何度、この体が難儀だと思ったことか。


 一度溜め息を吐いた後、ゼロは紅蓮の炎のように佇む紅神を見つめる。

 人間の目のように配置されたデュアルアイも、どこかやる気がないように思えた。

 だが、紅神の調子自体は悪くはない。相も変わらずマインドジェネレーターはいい数値をはじき出す。


 ただ、今日は少しばかり、先日よりも数値が低かった。やはりこの暑さで精神的に参っているのが伝搬したのだろうか。

 そんな時、ルナがうちわで扇ぎながらゼロに近づく。

 そして、彼女は向かい側で整備されている細身の機体-BA-09-Sホーリーマザーをまじまじと見る。


「こんな時レムは多分今頃冷房効いた教室で、いい感じに授業でも受けてるんでしょうね……。羨ましいったらありゃしないわ」


 ホーリーマザーを見て、レムがいないことをようやく思い出したようだ。考えてもみれば、イーグ陣営の中で彼女一人だけがいない。

 今日もまた彼女は学校だ。一応ブラッドが監視兼護衛として遠くから見るようにはしているが、先程から携帯のメールに頻繁に『暑くて仕方がない』と送られてきている。

 どうやら彼も参っているらしい。


「ハイスクールの連中が羨ましく思えてくるな……」


 ゼロが大きな溜め息を吐いた。

 が、この時そう噂されているレムはと言うと、何故か自分たちの教室のクーラーだけが壊れたため、結局彼らとロクに変わらない環境下にいたという珍事があったことを彼らはこの時知るよしもない。


 そして、こんな時にでも、空腹は自然と告げるものだ。ゼロの腹が鳴った。

 考えてもみれば昼時である。


「なんか冷えるもんが食いたくなってきたな」

「じゃ、そうめんでも食いに行くか?」


 整備班班長-ウェスパー・ホーネットは下からゼロに大声で聞いた。

 考えてもみれば、ざっと見ただけでも、この駐屯地の中には様々な飯屋がある。その中でもゼロが来た数日間で『美味い』と感じられた店の一つにうどん、そば、果てはラーメンまで麺と名の付くものなら何でも扱っている『附鵜痲唖フーマー』なる店があった。


 ここからだと歩いて三分ほどで行ける距離にある。だからゼロはウェスパーの意見をあっさりと承認し、上着を着た後、ルナ達数名と共にそこに向かった。

 埋め立て地として作られたこの基地は、当然緑と呼ばれる物は何一つ存在しない。コンクリートで固められた地面と相まって、歩いてる最中でも汗が滴り落ちる。


 遠くでは模擬戦闘訓練が行われている。駆動部を改良したマイナーチェンジ型のクレイモアが二機、衝突していた。

 結構訓練に精は出しているようだった。


 しかし、今はそんなことどうでもいい。早くそうめんとか冷たい物が食いたい。その一心で、ゼロ達数名は足早に歩を進めた。

 そして辿り着いた先には、一軒の平屋が待っていた。


 この基地に場違いとしか言いようのない木造建築の平屋である。

 そして入り口の上の屋根にはでかでかと『附鵜痲唖フーマー』と書かれてあった。

 名前の付け方がとんでもなく頭が悪い気がするが、それはどうやら店主本人も認めているようだ。


 そんな店の入り口を開けて入ると、いやにゴツい初老で白髪交じりの男がカウンターにいることが最初に目に付く。

 これがこの店の店主『親方』である。何故そう呼ばれているかと言えば工事現場の責任者みたいな姿だと誰かが言ったのが始まりらしいが真相は定かではない。ちなみに本名は誰も知らない。

 次に目に付くのはカウンターより奥にある座席にいる結構な数の軍関係者だ。割と繁盛していた。


「よう、小僧共、何食う?」


 ゼロ達が入って来るなり、親方は注文を尋ねる。まだ品書きすら見ていないというのに。

 しかし、こんな暑いとき、頼む物など一つしかないのだ。六人全員が


「そうめん」


と答えた。


「はいよ、そうめん六丁。おう、イント。全員に、麦茶」

「わかったぞえ」


 その声を聞いた瞬間、ルナが一瞬首をかしげた。


「どしたい?」


 ウェスパーが聞くが、ルナは


「今の声、どこかで……」


などとブツブツと呟き、考えながら席に着く。


「ほい、麦茶ぞえ」


 そう言って銀髪の少女はゼロ達のテーブルに手際よく冷たい麦茶を置いた。


「あ、ありがと」


 何の気も止めず、麦茶を一杯そそる。

 が、そそっている最中に気付く。

 そこにいたのは……


「い、イントレッセ?! あんたこんな所で何してんの?!」


 ルナが声を荒げ立ち上がると、一斉に彼女の方へ客の冷たい視線が行った。

 さすがに周囲の状況を見てルナは冷静になる。そして、頬を赤らめながら一度咳払いをし、座った。

 すぐに客の視線はルナから消える。が、もう他の部隊に


『やっぱしあいつは変人だった』


と陰口されるのは確定だろう。

 さすがにそれはルナ本人も感じているのか、非常にげんなりとした表情を見せていた。


 イントレッセ、上級アイオーンのうちの一人だ。この前の任務の後、化学部第八課に引き渡ししたはずのアイオーンが、何故こんな場所で働いているのか、疑問で仕方なかった。


「ていうか、なんであんた親方のとこで働いてンのよ? この間化学部第八課に行ったはずなのに……」


 ルナの疑問に対し、イントレッセは少しはにかんだ表情で


「ま、色々あっての。あちら側の計らいもあって、親方の養子になったのじゃ。形だけじゃがの」


と、呵々と笑う。

 こういった表情を見ていると、どこか千年間も生きているのが嘘に思えてくるくらい、普通の少女に見える。


 確かに、姿だけ見たら、親方の養子としてイントレッセは十分に通じるだろう。

 しかし、実際にはイントレッセの方が親方の二十倍も年上である。


 複雑な親子関係だな……。


 ゼロは呆れながら思った。

 そして少ししてから来るそうめん。食してみると麺のコシも悪くない。正直麺単品で食ってみたいと感じるほどだ。

 ゼロはこの店に訪れるのは二回目だが、このまま常連になってしまおうか、とまで思い始めた。

 そして食している最中、ルナの携帯電話が着信を告げた。彼女はふてくされた表情で、電話を取る。


「はい、ルナです」


 ルナが会話している横で、ゼロ達は食事だ。

 しかし、ルナが電話での会話を終えた後、少し青ざめた表情になり、机にいるメンバーに警告する。


「……諸君、後、五分以内に飯食って。四時半までに今年の基地祭のお題目提出しないとうちらの予算枠ナッシング!」

「マジか?!」

「ちょ、待て! それホントかよ?! やべぇじゃねぇか!」


 ゼロより前にいるメンバーは大慌てだが、そのゼロはというと、まったく状況をつかむことが出来ない。


「なんだってそんなに大騒ぎすんだよ?」


 そこで一旦騒ぎが収まり、ルナが解説を始める。


「実はね、基地祭にはKABっていうイベントがあるの」


 KABとは『Killer And Breaker』の略称である。

 M.W.S.やエイジスを各部隊持ち寄って一対一で戦いあい、五分以内に機体の首を切り落とすのはどちらかを賭けるという単純なシステムである。

 なお、このイベントの賭博行為は基地運営ではなく国営で行われている。


 こうしている理由はまず運営維持費というのもあるが、それ以上にデータ採取という目的も存在するからだ。

 模擬戦闘といえど戦闘において使われた機体の稼働データは大いに今後の開発に役に立つ。

 実際このイベント、もう三十年以上続いている伝統的なイベントであると同時に、この模擬戦で得られたデータを元にして作られたエイジスは数多い。


 そしてこれ自体が、いつの間にか基地祭の主目的と化していた。

 十五年前、戦が始まったとき、これすらも一種のプロパガンダとした。要するに『他国に比べ自分たちはこれほど優位な機体を作ることが出来る』という事を証明したかったからである。

 やり口としては間違ってはいなかった。

 だが、三年前に一年間の休戦協定が結ばれたときから、徐々に本来の目的である『大衆娯楽』へと戻っている、そんな格闘技がKABなのである。


 ルーン・ブレイドはこのKABに強制参加命令が毎年来ている。元々実験部隊の一環として創設された側面もあるため、それが未だに影響しているのだ。

 しかもこのイベント、二位でも賞金が出るためルーン・ブレイドにとってみてもバカにならない資金源となっている。


 が、この部隊、ここ二年一位の座から遠のいていた。

 ここ二年間の優勝機体の名は『XA-024風凪かざなぎ』。竜三の駆るプロトタイプエイジスが、ルナの『XA-022空破』を決勝戦で破っている。


 しかも、更にこれが質が悪い。

 犬神竜三という男、元々ルーン・ブレイドの第二代戦闘隊長でもあった。

 何か思うところがあったらしく、風凪を取引材料としてルーン・ブレイドへの即時入隊を許可させたのが四年前。それから武勇や知略などの面で戦闘隊長として君臨、一人たりとも戦死者を出さず、更には撤退戦でも一人たりとも死なせなかった故に『ベーオウルフ』と人は呼んだ。


 しかし二年前、彼の姉にして、ルナの師匠でもあった一人の女性が戦死した。

 『犬神いぬがみ冬美ふゆみ』、竜三の知・武共に支え続けた女傑。

 彼女の死を契機に、竜三は他部隊への移転を決定した。そしてルナが、竜三の後釜を引き受けたのである。


 竜三はこの頃からKABに顔を出し始めた。そして連戦連勝を重ねる。

 そして、ルナは彼に未だに勝てずにいた。

 上層部ではルナが竜三よりも劣っているとする意見が大勢を占める。


 それは彼女自身が一番よく分かっていた。

 だからこそ、見返してやりたい。そういう思いがルナの心に強くあった。

 そして、更には、今度ばかりは優勝しなければ間違いなく通常予算枠すら削減されかねないという危機感である。それだけは避けたい、だから必死なのだ。

 ルナから聞いたこれらの説明を聞いた後、ゼロが思い浮かんだのは


「で、KAB以外にゃどんなことやんだ? っていうかそれ以外で稼げばいいんじゃねぇのか?」


という至極当たり前の質問だったが、それに対して全員が溜め息を吐く。

 そして、ルナが重く口を開く。


「いやね、去年バンドやろうってアイデアもあったのよ。で、ブラッドに作詞頼んだのよ。そしたら……」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


AD三二七四年六月二九日午後一時一九分


「というわけで、俺が頼まれた通り作詞してみた」


 ブラッドから差し出された紙をルナが受け取った。

 最初のうちは感心した物だった。こういった才能もあったのかと。


 実を言うとダメ元で頼んでいた。にも関わらずブラッドはやってのけた。

 隊長になってからまだ一年ちょっとだった当時のルナにとって、こうして部下がきちんと動いてくれることに感動さえした。


 が、歌詞を見た瞬間、ルナは瞬間湯沸器のごとく顔が真っ赤になった。

 そうなった原因の歌詞の一部はこんな感じだったという。


『KILL!*10

ケツを出せ 穴も出せ! 今すぐオレが掘ってやる

あそこ出せ 穴を差し出せ! オレが今すぐ犯ってやる

○@#$で*+%&しろ さぁ、てめぇはもう立派な#%&/だ(以下自主規制)』


 卑猥な言葉の数々、セクハラ発言、放送禁止用語の雨霰と、『バラードにしろ』と言ったはずが何をどう取り違えたのか『デスメタル』(?)になっていた。

 というかこれは序盤のまだマシな歌詞で、曲が進むにつれてドンドン放送禁止用語の割合が増えていき、最終的にはとてもではないが聞けたものではない歌詞になってしまっていた。


 もはやこれ、デスメタル云々以前の問題としてあらゆる意味で問題ありすぎであった。


「こんなもん出来るかーーーっ!」


 ルナは怒り狂って渡された歌詞の書かれた紙を粉々に破り捨てた。

 一瞬ブラッドがムッとしたが


「しょーがねーなー……じゃあこれ」


と言って別の歌詞を渡した。

 今度はもう歌詞を見るだけで絶望的になっていく曲だった。

 『夢も希望もありません』、まさにそう言うに相応しい歌詞だった。『暗い日曜日』の再来と言っても過言ではない。


 そう考えるとある意味ブラッドは大作詞家になったのだ、この瞬間だけ。

 しかし、これはあまりにもルナの心をえぐりすぎた。


「生まれてきてごめんなさい……」


 そう言ってルナは愛銃を米神に突きつけたのである。

 さすがに全員冗談抜きでやばいと思った。こんなに焦ったのは生まれて初めてだという者すらいたのだ。


 結局ルナは自殺を思いとどめたが、説得が終わるまで丸一日掛かった上、その後ルナは自殺未遂故に一週間の自宅待機命令(監視付き)が出されたという。

 このようにあまりにも危険すぎた故、結局バンド計画はなくなったのである。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そして時は戻って西暦三二七五年。

 店の空気が重くなったのを感じる。さすがにこの話はまずかったのだろうか。

 ルナは一度大きく溜め息を吐いた後、また話を続けた。


「で、結局クレイモア同士でタンゴを踊るって言う隠し芸にしたんだけど、すごく評判悪かったのよ。キモイって。アンケート結果ブッチギリ最下位よ? ひどくない?」


 ルナはむくれた。

 なんでもこんなバカな事でもわざわざKABで得られた稼働データを元にしてパイロットが簡単に動かせるように最適化されたアルゴリズムを組んだらしい。


 呆れて何も言えなかった。というかバンドからどこをどうすればクレイモアにタンゴを踊らせるという発想に至ったのかが理解不能である。

 しかし、そんな様子を一切無視してルナは今回のプランを、目を輝かせながら言う。


「今年はエルルで大量に買ってきたカレー粉をふんだんに使った超が三個以上ついてトラウマになること間違い無しの激辛カレーの専門店を開きたいのよ」

「あ、そう……俺ぁ遠慮しとく」


 ゼロがうんざりしているのにルナは話を続ける。何を思ったのか具材を数え始めた。

 どうやら彼女本気らしい。


「具材は、牛、豚、鳥……は違うわね。タマネギ、ニンジン、それと……」


 ブツブツとルナはカレーに必要な具材をリストアップしていくが、うどん屋でよくもまぁこんな全く関係の無いメニューの話題を言い出せるものだ。

 そして、思いついたように


「ああ! ナス!」


と、手を叩いた瞬間、ゼロの顔が青ざめた。

 そして、頭を抱えて震え出す。


「ナスの話はやめろ……。あれは……あれは……」


 明らかに失言だった。ルナは心底そう思った。

 まさかここまでトラウマがあるとは。


「じゃ、じゃあ、ピクル……あ」

「やめろぉぉぉぉ! その二つの話はするなぁぁぁ!」


 一斉にゼロに客の視線が向く。

 うつむいて頭を抱え、何かに恐怖するように震え続けるゼロ。ナスとピクルスは彼にとって強烈なトラウマがあるらしいが、二つの野菜に怯えるその姿はなんというか、情けない。


「な、なんでたかが食中毒でそこまで……」


 ルナの言葉に対し、うつむいていた頭をかっと起こし、殺気塗れの瞳でルナを睨みながら当時の事情をゼロは恐怖に引きつった表情で言う。


「たかがだとぉ……? 賞味期限は十年も前に過ぎ去り、退院してから文句言いに言ってみりゃ店は計画倒産と来たもんだ……。これでどうトラウマにならずに済むってんだ、ええ?」

「じゅ、十年……そりゃ年代物ね……」


 呆れかえるルナ。そして深呼吸をしてようやく落ち着きを取り戻すゼロと、そんな様子を溜め息を吐きながら見つめる整備兵。

 この机の連中、営業妨害にすら見えてくる。

 でも親方とイントレッセの二人はそれを生暖かい目で見つめていた。

 店全体がカオスにも程がある。


「とにかく、食い物はやめろ……。てめぇにやらせると、なんかわりぃ予感がする……。ここぞとばかりに俺の嫌いなもんばっかしよこすような気が……」

「あたしってそんなに外道じゃないわよ!」

「そうか?」


 その時ゼロに降るルナからの手刀。見事に頭のてっぺんにクリーンヒット。

 そして悶絶するゼロ。またも店がカオスと化していく。


「でもよ、リーダー、どちらにせよ食べ物関係はダメだろ? 想像以上にあれ収益見込めないぞ」


 そう整備兵に言われて納得するルナ。


「ぬ~……やっぱり? しゃーない。クレイモアでブレイクダンスしかないわね」


 だから何をどうすればそういう発想になるのだ、ルナ・ホーヒュニング。

 しっかりしろ、色々な意味で。


「それでまた俺らがとばっちりか…」


 ルナの元にあきれ顔で近づいてきた屈強な男が一人。

 エドワード・リロード大尉。愛称エド。陸軍第四M.W.S.大隊の大隊長にして今の竜三の雇い主である。

 堅実な戦いをすることで有名であるが、まだ齢二六ながら決して教科書通りではなく裏をかくような用兵術を持つ男、それが彼だ。


 そして、実はルナの大学時代からの友人でもある。年の上ではエドの方が圧倒的に上だが、学年関係は同格であるため


「あらエド、おひさ。ていうかなんであんたここにいるの?」


などとルナは平然とタメ口を利くのである。


「いや、俺さっきからずっと飯食ってたんだが」


 エドが更にあきれ顔になっていく。

 なんか今日のルナはいつにも増して頭が悪い、というより集中力に欠けている。復帰一日目がこれでは不安が募るというものだ。


「あ、ご、ごめん……」

「でだ、さっき言ってたブレイクダンスはやめろ。また俺の部下借り出す気か、お前は」


 そうなのである。去年タンゴを踊らせたパイロット、彼の部下をこの日のために雇ったのである。

 しかし、パイロットは双方とも非常にげんなりしていたという。

 それもそうだ、何が楽しくていくら機体を介しているとは言え、男同士でタンゴを踊らねばならないのか。

 苦情が殺到しない方が不思議である。

 更にエドは言葉を続ける。


「つーかクレイモアを殺す気かよ? 絶対重量支えきれずに頭からクラッシュするぞ」


 もう火を見るより結果は明らかだ。さすがにルナも黙るしかない。

 基地祭アイデア、ここまで全く出てこず。

 そして、もう時間もない。

 仕方ないのでルナはメンバー全員を緊急招集することにした。

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