第五話『死闘』(1)-2

 その程度で止めようと思うな。


 村正はいつの間にか声に出していた。

 紫電のこの戦闘での最初の相手はゴブリン三個小隊だったが、戦闘開始から二分で六機を戦闘不能状態に追い込んだ。


 時間との勝負だろうと、村正は見ていた。出来ることならば早急にここを突破したい。そう思っていたのだが、あまりにも生ぬるい。

 血の滾る戦とはほど遠い。戦をなんと心得るか。

 村正は心の中で相手に対し問うた。


 残るは三機。紫電へと一斉に駆けてくる。

 村正は紫電の腕に装備されていたオーラフィストブレードを再度展開させた。村正が元来装備しているものと同様の三枚刃タイプだ。しかも、これもまた同様に三枚の刃は全て可動式となっている。


 違いと言えば、ブレードが実体ではなく気の固まりだと言うだけだ。即ちそれは本人の気が持ちさえすれば無制限に刃を持つことが出来ると言うものだ。

 だからオーラシューターのまねごとも出来る。それも、可動式である利点を生かした三連装式だ。

 紫電が腕を横に振るうやいなや、弧を描いた気の刃が三枚飛んでいき、ゴブリンを一気に切り落とした。


 残り二機。相手の動きが一瞬止まった。怯んだように見える。退却をする気だろう。だが、それは見逃さない。

 村正はフットペダルを倒して動きの止まったゴブリンへと突っ込んでいく。

 その間に再び三方向にフィストブレードを広げた。

 そして、二機の真ん中に入るやいなや、前方の刃で二つのゴブリンを貫き、可動する残り二枚の刃でハサミのように切り裂いた。

 轟音を立て、真っ二つになったゴブリンが倒れる。戦闘時間は三分といったところか。今のところは問題ない。


 村正がふぅ、と一息ついたとき、レーダーが反応した。

 紅神、空破、レイディバイダーの三機。本命をぶつけてきたようだ。


 特に気になるのは、紅神。鋼が持っているという機体だ。

 それに、紫電とは兄弟機に当たる。元々コンセプトは同じ機体だ。紅神が一撃を重視した機体ならば、紫電は手数を重視した機体。

 機体でも兄弟同士で争うとは、何処まで皮肉なのか。


「ふん、戦のさなかに何を言うか」


 村正はただ無表情に、フットペダルを押し倒した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ガトリングから銃弾の雨が降り注いでいた。

 紅神は建物の影に身を潜めMG-65のマガジンを外し、弾丸をリロードする。

 そして物陰に隠れながら発射するが一発発射したら五倍になって帰ってくるような状況だ。とても相手にするのが億劫になる。


「援護射撃まだか?!」


 鋼はルナやアリスに通信を入れるが


『こっちが欲しいくらいよ!』


と二人同時に返された。三方向から攻められたため互いに分散している。しかもゴブリン一八機とCIWS一〇機と来た。

 恐らく足止めだろう。本命のスパーテインがまだ出てこない。

 直後通信。叢雲の整備班からだ。


『バカ野郎! スクエアブレード何で使わねんだよ?!』


 ウェスパーの怒鳴り声がコクピットに響いたが


「使える状況にねーからに決まってンだろ!」


と鋼も怒鳴り返した。


『攻防一体兵器なんだから突貫掛けられるってんだろ!』

「そういうこたぁ早く言え!」


 ならばいけるだろう。鋼はコンソールパネルでスクエアブレードを選択した。

 するとモード選択画面に入った。シールドモードとブレードモードとある。まずはシールドモードだ。


 するとスクエアブレードがXの文字に展開し、それぞれのブレードからフィールドが発生する。

 その瞬間、そのフィールドは蒼い真四角を描いた。まさしく名の通りだ。

 だが鋼は体に少しの疲れも感じた。これがオーラ兵器だと気付くまでにはそんなに時間は掛からなかった。


 無茶苦茶なもん作ったなと鋼は呆れた。


 紅神は物陰から出てスクエアブレードを展開しつつデュランダル片手に突っ込む。

 相手の放つ六四式機関砲が当たってもびくともしない。

 ならば。鋼はブースターを入れ、一気に敵陣へと向かう。


 その時警報が鳴り響いた。五四式パンツァーファウスト。それも直撃コースだ。

 鋼は一度舌打ちした後、飛んでくる方向にスクエアブレードを差し出した。


 さてどうなる。鋼の頬に冷や汗がにじむ。


 着弾した。周囲にスモークが立ち上る。

 だが、どうやら自分は生きているらしい。ダメージコントロールをAIにさせたが、何の異常も見つからなかった。


 なんて桁外れな防御力を持つ装備だよ。


 鋼は不敵に笑い、紅神を更に加速。デュランダルを振るい、まずは前方の二機を切り裂いた。

 その後機体を反転させてMG-65をガトリング砲台へ向けて一斉に射撃する。

 順々に炎に包まれていく砲台。その炎に紅神の紅の体が照らされる。相手からすれば恐怖に写るような光景なのだろう。

 まさしく、『紅の魔神』の名の通りである。


 そんな様子に恐怖したのか相手は一度退却を始めた。

 しかし奇妙だ。まだ相手の戦力には余裕があるというのに、ルナやアリス達の方も引いたようだ。


「退いた?」

『罠の可能性もあるわ。でも、いくしかないわね』


 ルナが通信を入れてくる。汗一つかいてない。

 人は彼女を女傑というのだろう。年齢に似つかわしくないくらい肝が据わっている。


 そしてそのまま前進しようとした直後、敵機反応。警報がけたたましく鳴り響く。

 機数一機。まさかスパーテインかと思ったが、それにしては早い。


 突然、オーラシューターが一発打ち込まれたが、鋼はそれを避ける。

 自分に対して向けられている。

 そうだ、考えてもみれば、昨日の夜もこうなっていた。


 となってくれば、奴か。


「敵機、データ確認取れました。XA-012紫電、紅神の兄弟機です」


 AIの言葉にやはりかと、鋼は唸らずにはいられなかった。

 確かにそこには、悠々と紅神に向かい始めている薄紫に塗られたプロトタイプエイジスがいた。

 兄弟機と言ったが、目の前に表れた機体は確かに随分と紅神に似ていた。


『首は洗ったか?』


 村正からの通信だった。音声のみだが、その声は冷え切っている。


「はん、てめぇの方こそ、骨の髄まで地獄の番犬に食われる覚悟は出来てっか?」


 自分達は引けないが故に、それ故に兄弟であることを彼らは捨てた。今、彼らの目の前にいるのは互いの敵だ。

 互いに刃先を向けた。徹底的に戦うつもりだった。

 その時ルナから通信が入る。


『ちょ、ちょっと、鋼さん!』

「先に行け。俺も後で行く。ぜってー行ってやる」

『あなたの名前聞くまでは死なないからね。生き残って絶対に駆けつけなさい』


 ルナが微笑を浮かべた気がした。通信を斬った後、紅神の後方をレイディバイダーと空破が駆け抜けてゆく。

 他の者は誰もいない。ただ紅神と紫電がいるだけだ。


『遺言は済んだか?』


 村正の声がコクピットに響く。


「遺言残すのはてめぇの方だろうが。ご託ぁいらねぇ、さっさとやっぞ!」


 鋼は明らかに闘争本能をむき出しにしていた。彼なりの戦闘における礼儀だ。

 目の前の相手は越えなければならない壁だ。ならそれを、その壁を叩き斬る!

 今の彼の心境は、そこに全て集約されていた。

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