第12話 10枚の貸出カード


 結局、律が告られたというのは、単なる誤解だったみたい。

 そのせいで、しっかりふられた川名は落ち込んでいる。

 律の方は、逆にめっちゃ意識しちゃって、こちらもしょんぼり元気がない。


 二人を元通りにさせるには、私のがんばりが必要、だよね。

 私の役目。といいつつ、考え始めると悲しくもなってきて、私も一応、失恋したばかりの傷心の女の子なんだけどなぁ。


 でも、だいすきな二人がこんな気まずいままだなんて、やっぱりそんなの、だめだ! よーし。



 まずは、律の説得だなぁ。


 律、あのね、私のことは気にしなくていいよ。

 律も純のこと、きらいじゃないでしょ? 私に遠慮しなくていいんだ。

 あいつあれでいい奴だから、嫌わないであげてほしいの。

 目標の高校同じだから、今まで図書室で一緒に勉強してたでしょ。

 あれ、復活してあげてよ。


 ああ、うん。わかってる。

 友だちだよね。それでいいと思うよ。気楽に考えてみたらいいよ。

 私は多分、高校離れちゃうから、ね、そばにいてあげてよ。お願い。



 私は昼休みに、二人を図書室に呼び出した。

 ちょっと手伝ってほしいことがあるからって理由つけて。

 そして、先に図書室に一人でやってきた。作戦遂行のためにね。


 私は物語よりも、図鑑や「ファーブル昆虫記」みたいな本がすき。

 借りるのもそういうのばかり。その私が……。

 いつもあまり行かないコーナーに行って、本を抱えてくる。


 窓際の机にそれを置く。

 裏表紙をめくって、次々に貸出カードを取り出す。

 ひとつずつ、順番に並べた10枚のカード。

 そう、赤毛のアンシリーズ10冊分の。


 そのカードには、上下に並んで書かれた二つの名前。

 川名純。そして、山藤律子。

 純が先で、あとから律。

 まるで、律が純を追いかけているかのように。


『赤毛のアン』第1巻は、律は家にもあるのに、わざわざ図書室のを借りている。

 12月に純が借りて、1月に律。

 その間に誰もはさむことなく、二人が並んでいる。

 最後の10巻の日数の差はわずか1週間。

 どんどん月日が近付いている。それは二人の距離と同じだ。


 もし私が律より先に名前を書いたとしても、または間に入ったところで、それには何も意味はないだろう。

 でも、この二人がなかよく並んだ10枚には、めちゃくちゃ意味がある。



 散らかしてるみたいで、ごめん。

 このカードを見つけたら、私からのメッセージが伝わると思う。

 えっと、律には。


 でも、純は単細胞だから、はっきり言っておかないとだめかもしれない。

 これ見てきょとんとしたり、いたたまれなくなって逃げたりしかねない。

 きちんと律に向かわない可能性も、うーん、否定できないなぁ。


 ダッシュで教室に戻って、純に伝えなくちゃ。

 階段を駆け下りる。本当は校内は走っちゃだめですよー。

 一体私は、昼休みにドタバタと何をしているんだ。


「ね、チャンスだからね。友達でいいからって言うんだよ」

 やっぱり、鳩が豆鉄砲くらったような顔してる。もうー。


 ね、 仲直り、ちゃんとしてね。






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