第12話 10枚の貸出カード
結局、律が告られたというのは、単なる誤解だったみたい。
そのせいで、しっかりふられた川名は落ち込んでいる。
律の方は、逆にめっちゃ意識しちゃって、こちらもしょんぼり元気がない。
二人を元通りにさせるには、私のがんばりが必要、だよね。
私の役目。といいつつ、考え始めると悲しくもなってきて、私も一応、失恋したばかりの傷心の女の子なんだけどなぁ。
でも、だいすきな二人がこんな気まずいままだなんて、やっぱりそんなの、だめだ! よーし。
*
まずは、律の説得だなぁ。
律、あのね、私のことは気にしなくていいよ。
律も純のこと、きらいじゃないでしょ? 私に遠慮しなくていいんだ。
あいつあれでいい奴だから、嫌わないであげてほしいの。
目標の高校同じだから、今まで図書室で一緒に勉強してたでしょ。
あれ、復活してあげてよ。
ああ、うん。わかってる。
友だちだよね。それでいいと思うよ。気楽に考えてみたらいいよ。
私は多分、高校離れちゃうから、ね、そばにいてあげてよ。お願い。
*
私は昼休みに、二人を図書室に呼び出した。
ちょっと手伝ってほしいことがあるからって理由つけて。
そして、先に図書室に一人でやってきた。作戦遂行のためにね。
私は物語よりも、図鑑や「ファーブル昆虫記」みたいな本がすき。
借りるのもそういうのばかり。その私が……。
いつもあまり行かないコーナーに行って、本を抱えてくる。
窓際の机にそれを置く。
裏表紙をめくって、次々に貸出カードを取り出す。
ひとつずつ、順番に並べた10枚のカード。
そう、赤毛のアンシリーズ10冊分の。
そのカードには、上下に並んで書かれた二つの名前。
川名純。そして、山藤律子。
純が先で、あとから律。
まるで、律が純を追いかけているかのように。
『赤毛のアン』第1巻は、律は家にもあるのに、わざわざ図書室のを借りている。
12月に純が借りて、1月に律。
その間に誰もはさむことなく、二人が並んでいる。
最後の10巻の日数の差はわずか1週間。
どんどん月日が近付いている。それは二人の距離と同じだ。
もし私が律より先に名前を書いたとしても、または間に入ったところで、それには何も意味はないだろう。
でも、この二人がなかよく並んだ10枚には、めちゃくちゃ意味がある。
*
散らかしてるみたいで、ごめん。
このカードを見つけたら、私からのメッセージが伝わると思う。
えっと、律には。
でも、純は単細胞だから、はっきり言っておかないとだめかもしれない。
これ見てきょとんとしたり、いたたまれなくなって逃げたりしかねない。
きちんと律に向かわない可能性も、うーん、否定できないなぁ。
ダッシュで教室に戻って、純に伝えなくちゃ。
階段を駆け下りる。本当は校内は走っちゃだめですよー。
一体私は、昼休みにドタバタと何をしているんだ。
「ね、チャンスだからね。友達でいいからって言うんだよ」
やっぱり、鳩が豆鉄砲くらったような顔してる。もうー。
ね、 仲直り、ちゃんとしてね。
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