第4話 5枚の花片


 今日は空の入学式だ。おめでとう、かわいい弟よ。

 君は晴れ男だね。ここ、という時に、いつも青空が包んでくれる。

 見上げると雲ひとつなく澄み渡っていて、君に似合う空だ。


 私はいつも側で見守ってきた。3回目の晴れやかな式。

 不安そうにしていた幼稚園の入園式。つないだ手をぎゅっと離さなかったね。

 ランドセルにつぶされそうな小学校の入学式。はしゃぎ回ってこっちを見てピース。


 いつだって2つ年下の君を、私ははらはらして見つめて来たんだ。

 ね、また1年間一緒に学校に通えるね。あ、もう並んで歩いてはくれないかな。



 初々しい1年生たちが体育館に入って来る姿を見て、私たちもこんなだったかなって、なつかしくなる。


 あ、空が来た。

 不安そうに下向き加減の子が多い中で、堂々と背中をぴんと伸ばして歩いてくる姿を見て、成長したなぁって思う。もう姉さんの出る幕はないね。


 いつのまにか私たちは中3。中学校最終学年。

 クラス発表があって、私と律は離れてしまった。

 でも、律は念願の葉月先生が担任だもん。よかったね!

 もう律ったら、にこにこ手を振って隣の教室に行っちゃうんだから。少しは、さみしがってよね!


 私は3年連続、陽向ちゃんが担任だ。今年も牛乳は生徒にお任せあれ。

 そして……。純もまた一緒だ。わーい、神さまありがと!

 すっごく、すっごい嬉しい! 日頃の行いがいいからですかっ?



 3年の教室は1階。今まで2階だったから、木の枝に止まる鳥を観察できたのに、まるで地下に潜ってしまった気分。


 窓の外には桜がちらちら舞っている。花は見えなくても知らせてくれるんだ。

 まだ咲き始めなんだけど、今日は風が強くて、やっと咲いてる花が無情にも、さらわれてしまってるみたい。


 これから5枚の花びらを持つ花たちが、次々に咲いていくね。

 実をつける仲間たちは、なぜかみんな桜の花を真似ているようだ。

 杏、すもも、桃、梨、そして林檎。


 薄桃色の杏の花びらは、ひらひらしていてる。

 白い李は、酸っぱい夏の果実を夢見る。

 桃の花のかわいらしさは、いつもみんなの人気者。

 梨の匂いは独特で、みつばちにあまり好かれてないよ。

 白にピンクの縁取りのスカートみたいな林檎の花。咲いてる時期が短くて儚い。


 まだ雪をのせた山々を背景に、色づく枝の花たちを想う。

 この1年は、学校の窓からではなく帰り道にもっともっと見つめたいな。



 葉月先生に廊下で会ったから

「先生、また担任じゃないんですね。律だけずるいなー」って、すねた振りして言ってみた。

 先生はくすくす笑いながら

「海野さんと川名君で3-Aをよろしくお願いします。陽向先生、心強いと思いますよ」だって。クラス替えってどうやって決めるのかなぁ。



 すきな人と手をつないで桜の下を歩きたい。それが私の願い。

 毎年それは、半分叶っている。

 手はつないではいないけど、一緒に桜の花を眺めながら、今年もその道を歩いている。川名純と。


 あっ、空も一緒に登下校になったら、純と二人きりになれない。

 うー、だいすきな弟だけど、そこはなー、譲れないな。

 いや、待てよ。下手すると私が置いてきぼりになって、純と空でとっとと行っちゃいそう。やだー。


 そういえば空、何の部活入るんだろう。

 純と二人で帰れるのは、1学期で部活引退した後かな。






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