第4話 5枚の花片
今日は空の入学式だ。おめでとう、かわいい弟よ。
君は晴れ男だね。ここ、という時に、いつも青空が包んでくれる。
見上げると雲ひとつなく澄み渡っていて、君に似合う空だ。
私はいつも側で見守ってきた。3回目の晴れやかな式。
不安そうにしていた幼稚園の入園式。つないだ手をぎゅっと離さなかったね。
ランドセルにつぶされそうな小学校の入学式。はしゃぎ回ってこっちを見てピース。
いつだって2つ年下の君を、私ははらはらして見つめて来たんだ。
ね、また1年間一緒に学校に通えるね。あ、もう並んで歩いてはくれないかな。
*
初々しい1年生たちが体育館に入って来る姿を見て、私たちもこんなだったかなって、なつかしくなる。
あ、空が来た。
不安そうに下向き加減の子が多い中で、堂々と背中をぴんと伸ばして歩いてくる姿を見て、成長したなぁって思う。もう姉さんの出る幕はないね。
いつのまにか私たちは中3。中学校最終学年。
クラス発表があって、私と律は離れてしまった。
でも、律は念願の葉月先生が担任だもん。よかったね!
もう律ったら、にこにこ手を振って隣の教室に行っちゃうんだから。少しは、さみしがってよね!
私は3年連続、陽向ちゃんが担任だ。今年も牛乳は生徒にお任せあれ。
そして……。純もまた一緒だ。わーい、神さまありがと!
すっごく、すっごい嬉しい! 日頃の行いがいいからですかっ?
*
3年の教室は1階。今まで2階だったから、木の枝に止まる鳥を観察できたのに、まるで地下に潜ってしまった気分。
窓の外には桜がちらちら舞っている。花は見えなくても知らせてくれるんだ。
まだ咲き始めなんだけど、今日は風が強くて、やっと咲いてる花が無情にも、さらわれてしまってるみたい。
これから5枚の花びらを持つ花たちが、次々に咲いていくね。
実をつける仲間たちは、なぜかみんな桜の花を真似ているようだ。
杏、
薄桃色の杏の花びらは、ひらひらしていてる。
白い李は、酸っぱい夏の果実を夢見る。
桃の花のかわいらしさは、いつもみんなの人気者。
梨の匂いは独特で、みつばちにあまり好かれてないよ。
白にピンクの縁取りのスカートみたいな林檎の花。咲いてる時期が短くて儚い。
まだ雪をのせた山々を背景に、色づく枝の花たちを想う。
この1年は、学校の窓からではなく帰り道にもっともっと見つめたいな。
*
葉月先生に廊下で会ったから
「先生、また担任じゃないんですね。律だけずるいなー」って、すねた振りして言ってみた。
先生はくすくす笑いながら
「海野さんと川名君で3-Aをよろしくお願いします。陽向先生、心強いと思いますよ」だって。クラス替えってどうやって決めるのかなぁ。
*
すきな人と手をつないで桜の下を歩きたい。それが私の願い。
毎年それは、半分叶っている。
手はつないではいないけど、一緒に桜の花を眺めながら、今年もその道を歩いている。川名純と。
あっ、空も一緒に登下校になったら、純と二人きりになれない。
うー、だいすきな弟だけど、そこはなー、譲れないな。
いや、待てよ。下手すると私が置いてきぼりになって、純と空でとっとと行っちゃいそう。やだー。
そういえば空、何の部活入るんだろう。
純と二人で帰れるのは、1学期で部活引退した後かな。
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