第5話 修学旅行の栞


 私と純は3年になっても相変わらず同じ生徒会で、修学旅行の実行委員も兼ねていて、放課後の打ち合わせに行くところ。


 今日から、しおり作りが始まるのだ。

 わくわくする。だって、はじめての「奈良・京都」だよっ!

 それに、中学生最後の宿泊学習なんだもん。


 さて、その打ち合わせ。

 なんだか、おかしな、くすっと笑っちゃう光景を見ることになる。


 葉月先生と陽向先生が、資料を抱えて会議室に入ってきた。

「しおりの基になる資料です。配って下さい」

 葉月先生か作ってくれた、最初の旅行の資料をみんなに手渡す。


……めっちゃ、らしい!


★ 二日目(京都)

  (北西組)

  ホテル

  ↓ (バス)

  金閣

  ↓ (バス)

  仁和寺

  ↓ (バス)

  嵐山 (ここで昼食)

  ↓ 午後は自由活動

  ホテル集合


 これを見た陽向先生の一声。

「葉月先生、出張のスケジュールみたいですね! とてもシンプル」

 生徒一同、ぶんぶんうなずく!


「もちろん、これから生徒に行く場所を調べてもらって、ふくらませてから、オリジナルの……」

 葉月先生は最後まで言わせてもらえず、ひなたちゃんは

「えっとここは、この時期は菖蒲が咲いていて……」とか言いながら、どんどん書き込みはじめてる。


 しまいに、カラフルな付箋を出してきてペタペタ貼ってる。

「えっと、ここの近くにはおいしい豆大福があって。ああ! このくらい時間とれば寄れるかしら」


 せんせい? 陽向先生? 聞いてますかー?

 あ、なんですか、そのちまっとした大福もどきの絵は?


「はっ。ごめんなさい。ついつい京都だいすきなものだから、もう嬉しくって。うふふ」

 ここで生徒全員の目が点になったのは言うまでもないよね。

 しかもね、ひなたちゃん

「きゃー、私、葉月先生と同じ組の引率ですかー」って言ったの。


 その時、葉月先生の頬がちょっと赤くなったのを、わたくし蒼は見逃さなかったのです。


 誰のための旅行なんでしょう……。という空気が流れたけど、ひなたちゃんだからね、仕方ないよね。


「なんだか、俺、ひなたちゃんが先生には思えないよ」

 純がつぶやいて、私も激しく同意です。


「あら、どうしてこういう冊子って『栞』じゃないのかしら。なんだか『しおり』って『おしり』みたいよね……」

「『栞』の方が、木の枝に衣が干してあるみたいで素敵なのに。本にはさむだけじゃないのよ。山道を歩く時に、木の枝を折って目印にしたことが由来なんですもの。きちんと手引書の意味もあるのに。常用漢字じゃないのが敗因なのね」


 ひなたちゃんの独り言はどこまでも続いて、遠くに行ってしまいそう。

 えっと、ほっておいて、具体的な担当を決めましょう。

 ね! すてきな栞(作るのは「しおり」だけど)にしよう!


 あの、中学校最後のときめきイベントに、男子が女子に告白するって毎年噂になってますけど、川名君っ、どうしますか?


 って、ちょっとせつなく乙女チックを気取って見つめていたら、純が元気よく手を挙げて発言した。


「先生! 俺、京都の街、走りたいんですけど。夜とか、早朝とか、ランニングできないっすか?」


 あ、私、まだこいつという人間をわかってなかったかもしれない。






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