春のものがたり

第1話 春の突風


「三寒四温」って言葉がある。

 少しずつ階段を昇っているかのようで、春らしい。


 春の気候は不安定だ。どこかから地響きのような音が聞こえてくる。

 春雷だ。春の嵐が間もなく来ると知らせにやって来た突風。


 ちゃんと両足に力を入れて地面を踏みしめないと、立っていられない。

 巻き込まれて、空に飛ばされて、行方不明になっちゃう。


 律、目を閉じて歩いてたら、あぶないってばー。

 あーあ、しゃがんだらだめだってー。手をつないでこっちにひっぱる。

 この儚げな頼りなさが、守ってあげたくなるんだよね。

 男子じゃなくてもその気持ちはよくわかるよ。



 私は寧ろ、こういう天気がすきだ。わくわくする。

 まるで、旅立ちの日みたいじゃないか!

 吹き付けて来る雪や、なぎ倒そうとする風に向かって思い切り目を開け、立ち向って進んでいく時の高揚感!


 ああ、私の人生はきっとこんな風になる。そんな予感がする。

 たとえ進もうとして押し戻されそうになったとしても、私は負けない。



 ゆるんだ雪山は雪崩を起こす。

 ここまで山の雪崩の音が聞こえて来るわけじゃないけど、きっとどこかで今、大きな音がしているような気がしてしまう。

 そうだ。変革だっ。自分を変えていく何か。


 葉月先生、雪崩って何ですか。


「気温の急激な上昇に伴って積もった雪の下を通っている湧水の温度が上がり、その上にある雪の層が一気にズレる現象ですね」

 めっちゃ理科だぁー。先生に教わると特別に響く!


 陽向先生、ちらちらとはかなく雪が舞ってます。


「最後に降る雪のことを雪のはてって言うんです。冬の終わりに降る雪は、なごり雪とも、忘れ雪とも言いますね」

 ああ、なんかすてき。ロマンチックです。


 私たちの春が、もうそこまでやってきています。






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