第6話 白い年賀状


 明けましておめでとうございます。

 本年もよろしくお願い申し上げます。


 家族できちんと新年のご挨拶をするのはくすぐったいけど、一年の初めに晴れやかな気持ちになるね。


 うちはいつも元旦の午前中に、近くの神社に家族三人で初詣に行くの。

 一応、着物を着て行くんだよ。


 本当なら、神様の前だから正装するべきなんだって。

 でもね、みんな気軽にジャージやジーンズで行ってるような、いつもと変わらない地元の神社に、振袖なんか着ていったら浮きまくっちゃう。


 でも、ちょっとおしゃれしたいから、私はお正月は黄八丈きはちじょうの着物に決めてるの。

 ママは春らしい淡い桃色の花の小紋で。

 パパは藍色のかすりの着物に墨色の帯。

 こんな風に三人で和装というだけで、ここでは十分目立ってしまうんだ。


 着物を着ると背筋がシャンとして、一歩一歩の歩幅も考えながら仕草一つも女の子らしくしてみたいって思うの。

 神社の石段を上る時も、おみくじを引く時も、お賽銭を出す時も。

 袖や裾から出る自分の腕や足にきちんと気を配ろうって。


 私の黄八丈は、明るい黄色地に赤いラインがタータンチェックみたいで、カジュアルな感じがかわいくてお気に入りなの。

 私が着るとどうも時代劇の町娘みたいなんだけど、まぁいいよね。

 それに、この着物はいつまでもは着られないから、きっと今の私の瞬間を閉じ込めてくれる。


 頭には朱いリボン。

 ああ、キティちゃんみたいなのじゃなくて、和装に似合う感じのね。

 サイドの髪を上に結ってのせるの。これもすき。



 帰って来たら、おせちとお雑煮を食べるんだ。

 急いで自分の部屋に行って、お気に入りのワンピースに着替える。

 ママが「あら、もう脱いじゃうの? かわいいのに」って言うけど、これからいっぱいごちそうをたべるのに、着物じゃむりー。


 ママは着物姿のまま、白いエプロンかけてお雑煮をよそってくれる。

 大人の女の人は、苦しくないのですか。

 パパは着物といってもゆるいスタイル。

 くり色の丹前を羽織って、三が日の間はその姿のまま、笹食べてるパンダさんっぽく、のそのそしてる。


 そして午後、年賀状が届く郵便屋さんのカタっとポストに入れてくれる音。

 毎年少しずつ、私に来る葉書がふえていくのが嬉しい。


 あれ、これ、なんだろう。白紙?

 あ、私宛に、えっと、川名君から?


 パパもママものぞきこむけど、裏に何も書いてないよね。

「川名君、書き忘れたまま投函しちゃったのかなぁ」


 そんな風に家族で首をかしげていたら葉月先生の声がした。

 新年のご挨拶に来てくださったんだ。

 ああ、先生も和装だ。すごおく素敵な立ち姿。


「新年からとても楽しそうなにぎやかな声がしていましたね」

「あ、先生。川名君たら、真っ白な年賀状をくれたんですよぉ」

「白い年賀状?」

 そう言って葉月先生は、おかしそうにくすくす笑ってから言った。


「それね、きっとあぶり出しです」

「あぶり出しって、あの果汁で絵を書くやつですか」

「ええ、ストーブにかざしてみて下さい」

 私はあわてて、ストーブの上で裏面をかざしてみる。

 あ、隠された透明な文字と絵が茶色に変わって浮き出てきた!


 あけましておめでとう ことしもいいとしに

 こ、これ、何かな? うーん、まねきねこ?



 夜になって、小学生の頃のことを思い出していた。

 あの頃はよく蒼と空くんと川名君の4人で一緒に遊んだっけ。


 そして、川名君のお家のおこたに入って、あぶり出しをやったんだ。

 蜜柑を食べながら、コップに果汁を絞って、絵筆で紙に絵を描く。

 すごく楽しかったなぁ。

 もったいないからって、使った蜜柑の汁を川名君が飲もうとするのを、蒼がやめろーって止めていたっけ。


 でもあの時のオレンジ色の汁は、うっすら見えていた気がするんだけど、今回の川名君のは、全然わからなかったよ。


 わからなすぎて、気づかなかったよ!











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