第7話 お正月遊び
家族でゆっくり過ごした元旦が過ぎると、じっとしてるのに飽きてきて友だちと約束する。
今日は1月3日。せっかくだから昔っぽい遊びをしよう。
割と本気になって取り組んじゃうから、みんなジャージ姿。
お正月大作戦!
今年は色々準備して、葉月先生のお家で遊ぶことになってるの。
なにせ今年は先生のお庭に、かまくらが出現したんだもん!
フランスの香りのする先生に、つい日本のいいところをってはりきるけど、先生はずっと日本暮らしだし、私たちよりよっぽど詳しいのにね。
あ、今日は元旦とは違う和服だ。
凛々しいなぁ、先生。すごく似合う。
あ、あけましておめでと。今年も蒼と空くんが川名君を誘って来た。
ぴょんぴょん跳ねながら、空くんがボールみたいにじゃれてる。
*
さて、まずは羽ねつきで、体をあっためるよ。
羽子板をそれぞれが選ぶ。私はお姫様の絵柄ね。
カトレアみたいな色の羽根を、カチッ、カチッと打ち合うの。
空に舞ってくるくる回るお花たち。
羽根を落とした人が顔に墨を塗られるという古典的なことも取り入れてるよ。
すでに、私と空くんは、ちょっと笑える顔。
葉月先生は真っ先に負けたから、私が右ほっぺにちっちゃく×書いてあげたの。
それなのに澄ました顔しちゃって腕組んでるのが、かわいいー。
リーグ戦で戦ってるんだけど、毎年決勝は蒼と川名君なんだよね。
今年はどっちが勝つかな。はーい、筆持って、ちゃんと準備してるよ。
蒼が落とすと、ほっぺにバッテンくらいですむのに、川名君が負けたから、ちょっと容赦なくてかわいそう。くすくす。
*
毎年めちゃめちゃ盛り上がるのは、坊主めくり。
百人一首の絵札だけを使って、順番に中央の札をめくっていく。
男性ならそのまま手札。女性ならもう1枚。最後にたくさん持ってる人の勝ち。
坊主がでたら、手持ちの札はすべて捨てる。いちいち大騒ぎ。
そして、蝉丸ルール採用! 被り物をしているけれど、これは坊主札。
だけどスペシャル札なの。 取った人以外みんな手持ちの札を捨てる逆転劇。
中央札がなくなるまで、また蝉丸をすべりこませると、スリル満点!
あ、先生、今、坊主引きましたねっ。眉毛がぴくって動きましたよ。
*
次は、
今度は先生がお手本を見せてくれる番。
独楽にぐるぐると紐を巻きつけていくんだけど、早くてきれいなの。
真剣な目つきで床に独楽を放る時の横顔にどきっ。
あーあ、私以外はみんな男の子みたい。もちろん蒼も夢中。
ぶつけ合うケンカごまもやるのでしょうか。
ねぇ、こりす。そのどんぐりのこま、一緒に回そうか。こちらは平和ね。
ふと見たら、こりすが……、えっ、それだめー。
縁側に置きっぱなしにしてた墨のお皿に前足つけて、たしかめてる。
あっ、止める間もなくダイブ! あーあ、黒こりすになっちゃった……。
ついでに魚拓ならぬ、りす拓、とろうか。半紙どこかな。
目を白黒させて、スカンクに変身したこりすがうなずいた。
*
先生が作ってくれたお手玉は、和風のパッチワークのようで可愛いらしい。
中に数珠玉が入っていて、感触がここちいいの。
私、もしかしたらお手玉は得意かなって錯覚しちゃう。
だって、案外体育会系の人たちが苦戦してるんだもん。
蒼、それ投げ上げ過ぎだから。新体操じゃないんだよー。
川名君も立ち上がってあっちこっちに拾いに行ってるけど、あぶないからー。
空くんと蒼、ぶつかるよぉ。
あら、先生は3つ一遍に投げられるんだ。すごーい!
長い指だからキャッチしやすいのかなぁ。
「このお手玉が、3次関数のグラフを描くように移動するのが いいんです」
はっ、先生やだぁ、数学持ち込まないでー。
みんな持って帰っていいですよ。って先生からのプレゼント。
てのひらに包んで嬉しくなる。やったぁ、大切にします。
*
いっぱい遊んでふぅーっと休憩。
先生が作ってくれたかまくらに、みんなでわいわいと入る。
すごーい、ちゃんと雪でできてるよー。白くて固いよ。
先生が甘酒を作ってくれて、ふぅふぅいいながら飲む。あれ、生姜味だ。
確かにこどもだから4人入れるけど、大人なら2人かな。
でも、こどもなのにずいぶん大きくなった人が若干1名いて、妙にせまくて、近くに感じるなぁ。
「そういや、純、なんだよー。真っ白けの年賀状。気づくのに、だいぶかかっちゃったよ。あっ!って言いながら、急にねえちゃんがストーブの前に行くからさ、やっと思い出したよ、小さい頃やったあぶり出し!」
「私と空のとで絵がちがったね。だるまの絵だって、しばらくわかんなかったよー」
「蒼、ちゃんとわかってんじゃん。さっすが」
「え、私、まねきねこかと思っちゃった……」
「うっ、山藤、そりゃあないだろ。どうみてもだるまだし、『ねがいがかなうまで、かため』 って書いたじゃん」
「かためって、なに?」
「願いが叶うと、両目に墨入れるだろー?」
「あ、片目! てっきりねこがウィンクしてるって!」
「やまふじー」
「それで、ぼくのはちくわ!」
「あ、空のは門松だってば。竹にはちがいねぇー」
なんだか川名君とこんな風に気軽に喋ったのはすごく久しぶりで、いつも蒼と二人がじゃれ合ってるのを見て笑ってるだけなのに、今日は昔のように仲間になれたみたいで楽しかった。
「そうそう。俺、理科室に相談しに行ったんだ。『昔は蜜柑で書いたんですけど、うっすら見えてしまうんです』って」
葉月先生がうなずいている。
「そうしたら『檸檬がおすすめですよ。もっといいのは、砂糖水です』って先生に教えてもらって。だから、ほんとにわかんなかっただろー?」
「わかんなかったー」
三人で声を揃えて叫んじゃった。
みんなの楽しそうな笑顔と、そして、だいすきな先生がいて。
私はまた1年がこうして過ぎていくといいなって思ったの。
*
最後は、凧あげをやりに行こう。あの土手に。
電線に引っかかったら大変だから、広い場所に行かなきゃね。
一人がやっこさんを持って、勢いよく走ってから大空に向かって手を離す。
糸を操る方は、後ろ向きに下がりながら、祈るように引っ張る。
ふわっと、いい風に乗ったその瞬間。
これならどこまでも行けそう!
一斉にみんなで冬の澄み渡った空を見上げる、そんなお正月。
こりすは、ちゃんとお風呂に入ったかなぁ。
みんなを驚かせるんだって、森に出かけちゃったけどね。
そろそろ蒼の父上がやってきて、私の家でパパと恒例の酒盛りを始めている頃。
二人は同級生なんだ。いいね、ずっとなかよしで。
葉月先生もほっぺに墨を付けたまま、強引につき合わされてるよ、きっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます