第5話 重箱の宝石


 おせち料理というと、えー きらーいって言う中学生も多い。

 野菜嫌いの子はぜったいアウトだよね。

 私はすききらいがあまりないので毎年楽しみなの。

 ちょっぴり慈姑くわいは苦手だけど。


 ママが作ってくれるのをお手伝いしながら、だんだん揃っていくお料理を見つめていると、ほんとに色がきれいで形もかわいくて、おままごとみたいなんだもの。

 そして、美しい宝石箱みたいな三段の重箱に飾り付けていくの。

 ああ、日本人に生まれてよかったなぁって思うもの。



 明日はとうとう大晦日。

 朝から、カーンカーンと木こりのような音がしてくるのも、この頃のわが家の風物詩。


 パパがね、金槌かなづちで身欠きにしんを割ってる音なんだ。

 食べ物なのに、すごいよね。

 でも、これくらい堅いのがおいしいんだって。

 他のお家では、お米の研ぎ汁に一晩漬けておくみたいなんだけどね。


 さすがに昆布の方は水に漬けてからじゃないと巻けない。

 これも厚みのあるしっかりしたのがいいって、こだわりがあるらしい。

 割ったにしんを昆布でくるって包んでから、干瓢かんぴょうの帯で結ぶ。

 そして、圧力鍋で醤油とお酒、味醂、砂糖で煮る。


 これがお正月、パパのだいすきなお酒のお供になるの。

 寒い海出身のパパがなつかしく感じる郷里の味。

 お重に入れる分だけじゃなく、しばらく食べられるくらいたくさん作る。

 私は正直きらいじゃないけど、まだおいしさがわかってないかもしれないな。



 重箱にはどの段に何を詰めるか、決まりがあるんですって。

 基本を踏襲しつつ(合ってるかしら、難しい言葉)、自由にみんなが好きなものも入れていくのがいいのってママは言う。


 一の重には、祝い肴といってお屠蘇とそをいただく時に箸をつける、前菜っぽいものが入るんだって。

 黒豆、田作り、数の子、紅白かまぼこ、栗きんとん、たたきごぼう。

 私がすきなだし巻き玉子。伊達巻じゃなく、これにしてねってお願いしてるだいすきな卵焼き。

 ああ、うちの紅白なますには柿が入ってるんだよ。

 あとね、ママが作ったきれいな色のテリーヌ。ピンクと黄緑なの。きれい。


 二の重には、主菜が入るらしい。お魚さん、こちらですよ。

 鰆の西京焼き、にんじんとごぼうの八幡巻き、鴨のロースト、棒鱈の煮もの。

 なんだか豪華な競演だなぁ。あ、漢字はもっと難しい饗宴かな。

 茶色が多いから、彩りを考えて柚子で作った寒天がアクセントで入る。

 くりぬいた柚子の中には塩いくらを入れるの。ほんとに宝石。


 三の重には、お煮しめさん、こんにちは。

 里芋、京人参、たけのこ、ごぼう、椎茸。

 にんじんの飾り切りがきれい。私は上手にできないからクッキーの型で抜く係。

 こんにゃくをうすく切って、長方形の真ん中に包丁をすっと入れて、片方の端を切り目に入れてくるっとさせると、ねじねじこんにゃく誕生。

 これ、ほんとおもしろいなぁ。何度やっても不思議。


 いつも、きんとんはつい味見ばかりしてしまうから、お正月前にずいぶん減っちゃうの。

 そんなにすきならまた作るわよって、ママが笑う。


 うちのお重は、こうしていつのまにか山藤家のものになっていく。

 葉月先生は、きっともっとずっと正統派だよ。



 そういえば、クリスマスイヴの日は驚いちゃったな。

 葉月先生の家の前にミルクティ色の車がとまってたの。

 あ、きっと先生の恋人が来てるんだって思って、胸がぎゅってなった。


 でもね、夕方葉月先生が、私の担任の陽向先生を連れてわが家にいらしたから、びっくりしちゃった!

 なあんだ、陽向先生の車だったのかぁ。心配して損しちゃった。


 お正月が来るのが楽しみ。先生が作ったかまくらでも遊びたいな。


 また来年も いい年になりますように!








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