第9話 意外な名前
ママが大切にしている本は「赤毛のアン」。
私もだーいすきで、本棚から持ってきては、何度も夜更かしして読んでいる。
「好奇心が抑えられないの。このあとどうなるのか知りたいわ」
アンの口真似をしながらママに尋ねたら
「あら、続きのお話もあるのよ。確か10巻までだったかしら」って 教えてくれた。
次の日、学校の図書室に行って探してみたの。
あ、あった。2巻目は「アンの青春」。
そして、図書貸出カードを見て、手が止まる。
有名なお話だから、別におかしいわけじゃないけど、でも、女の子のあこがれの物語でしょ?
グリーンゲイブルズ、緑の切妻屋根のお家に住んでいる、夢見るおしゃべりな女の子アン・シャーリー。
意外な人が読んでるの。
すこぉしだけ秘密を見てしまったような気がした。
だって、読みそうもないんだもの。イメージに合わなかったの。
でも、カードに名前書いてあるんだから、別に隠し事じゃないんだよね。
2巻目読み終わって、次の3巻目を手に取ってカードを確かめると、やっぱり彼の名前が書いてあって。
私が後で借りてるから、同じものを読んでるって彼は気づいてないだろうな。
まるで私が追いかけてるみたいになっちゃった。
ね、陸上部のキャプテンさん。
*
アンの訳は色んな人のが出ているけど、やっぱり村岡花子さんのがすき。
古めかしいくらいの言葉の方が、よりロマンチック。
輝く湖水とか、想像の余地とか、すてきでしょ。
キルトもいいけど、さしこって響きはやっぱりかわいいし、いちご水って甘くておいしそう。かき氷のそれとは違うんだろうな。
物語ではいちご水と葡萄酒を間違えてダイアナに飲ませちゃって大変だったね。
なにより私、アメジストより、紫水晶という響きが、断然すき。
「おとなしいすみれたちの魂」だなんて、どうしてそんな表現ができるのかな。
私が登場人物に自分を重ねるとしたら、アンの親友ダイアナ。
本を読むのがだいすきな、黒い髪と目にバラ色の頬の少女。
どこかしら、アンって蒼みたいに思えるの。
空想好きなところじゃなくて、ギルバートの頭に怒って石盤ぶつけるとこ!
だって、蒼ならやりかねない。(ごめんね、蒼)
すきな人に素直になれずに、ずっと意固地なままのところ。
気づくのが遅いところ。そして、私にとって大切な友。
それとね、アンってダイアナに会った途端に、「腹心の友になれて?」って聞くの。いきなりよ。
思い出したの、はじめて蒼に会った時のこと。
あの子、まっすぐな瞳でこっちを見て「ともだちになろっ」って言ったの。
ああ、私にとって、蒼はやっぱり特別なんだ。
そんな風に、身近な人を思い浮かべて読む、アンのお話。
あなたは、どんなところが気に入っているのですか。
川名君?
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