冬のものがたり

第1話 木通のリース


 お久しぶりです。律子です。

 冬のものがたりは、蒼に代わって私が綴りますね。


 もうすぐクリスマス。今年は家のドアに、手作りのリースを飾るの。

 葉月先生が教えてくれた、たからもの。


「この木通アケビの蔓ですが、クリスマスリースの土台によさそうだと思いませんか。手芸部のみんなで作ったらどうでしょう」

 ここは、葉月先生のお家の研究室。


 めずらしく興奮気味に早口で話しているの。

 秋の山で収穫してきた「戦利品」と名付けたものたちを、机の上に並べて見せてくれる。

 なんだか先生が集めたというより、こりすが喜々として自慢している姿が浮かんで、おかしくなってしまった。

 だって、どんぐり、くるみ、栗って。


 野葡萄の紫と青色の玉はきれいな色だけど、どこかおもちゃっぽい。

 朱くつやつやした玉章からすうりの実はおいしそう。

 玉章の花は白くて、失敗したレース編みみたいな花だったかな。


 さくらんぼが秋にやってきたような裸酸漿はだかほおずき

 葡萄のように見える秋茱萸あきぐみは、名前を聞くと「はーい、私は春組がいいです」って言いたくなる。


 最近私は先生の影響で、植物の和名や別名を調べるのがすきなの。

 そして、図鑑やネットで写真を見たりすると、ひとつひとつに密かなものがたりを想いうかべてしまう。

 お話を読むのがだいすきな私には、理科も決して遠いものではない。そう思えてくると、大切なものがふえていく。


 いつもクールな先生は、本当はただ少年のまま大人になってしまったように見えることが時々あるのです。

 だから、ずっと年上の人だということを忘れてしまうのかもしれない。

 葉月先生がどんな風に育って来たのか、そんなフィルムがあったら、こっそり見てみたいなぁ。もっと先生のことを知りたい。



 さて、手芸部は秋の終わりの遠足を決行することとなった。


 木通はつねに紫色の雰囲気を持っていて、花は薄紫のみかんを剥いたみたいで、すみれの仲間かなって印象。


 木通の実は、一見紫芋のよう。連なって成っていると、紫のバナナの集合体だよ。

 熟しすぎてぱっかり割れた途端、隠し持っていた歯をむきだしにした食虫植物に変身っ。噛みつかれそうで怖いなぁ。ハロウィンパーティに登場したらいいのにね。


 でも、今日の目的は木通の蔓。乾燥したこの丈夫な蔓を使ってクリスマスリースを作ることになったんだ。切ろうとしてるけど結構堅いよ。


 先生が案内してくれた山の中。はぁはぁいいながらたどり着いた。

 運動が苦手な女子たちは、先生に置いていかれないようにするだけで必死。


「校内一の運動音痴」の称号を独り占めしている先生だけど、自然の中だと水を得た魚のように嬉々として先に行ってしまうから、うっかりしていると私たち遭難してしまうかもしれません。

 葉月先生、待ってー。たまにはちゃんとついてきてるか振り返ってみてー。

 ね、ほんとは先生って運動もできるのに隠してませんか?


 ふぅ、やっと現場に到着。

 早速、蔓を採取しようとしてみんなの方が逆に巻かれて取り込まれてる!

 いただく代わりに女子中学生をいけにえに捧げます、ってことかしら。

 先生が順番に洋服にひっかかったのをほどいてあげてる。


「先生、ごめんなさい。山の魔王に捕まりました」

「山藤さん、山に来るのにカーディガンはいけませんね。これでは、捕らわれても文句は言えませんよ」

 先生を困らせたくて選んだんです。えっと、それは嘘です。

 でも、他の子より時間がかかってしまって、その間先生が近くにいてくれて、こんなことでしあわせ感じてしまっていいのかな、私。

 ありがとうございます。私の王子さま。


 クリスマスもそばにいたいです。葉月先生。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る