第2話 隠密セーター
今年のクリスマスプレゼント。
何を作ろうかなぁと思いながら、余った毛糸をくるくる指に巻き付けて考えている。
ふぅ、去年のクリスマスは無謀にもセーターを編んだの。
贈る相手は、だいすきな葉月先生を想定して、来る日も来る日も自分の部屋で時間を見つけては、棒針を動かしていたんだ。
あの必死さを思い出すと、自分でもおかしくて笑ってしまう。
それまで、かぎ針でマフラーしか編んだことがなくて、それすらぼこぼこの形だったのに、どうしてもすきな人にセーターを贈ってみたくて、本を買ってきた。
いつもなら手芸で困ったことは、真っ先に先生に聞きに行くのだけど、今回は隠密行動なのでそうもいかなくて、独学でがんばってみたの。
「誰に編んでいるの? もしかして男の子?」とママに聞かれたので、「内緒」って答えて、ひたすら本を解読して。
最初に「ゲージ」という寸法を測ると書いてあった。
縦横それぞれ10cm四方のメリヤスで編んで、横に何目と縦に何段かかったかで、全体のことを考えていくらしい。
ところが、私はその日の具合で編み方にむらがあって、昨日はきつめ、今日はゆるめになってしまうみたい。
編み目バラバラで、見るからに下手で嫌になっちゃう。
ほんとはね、雑誌に載っていたフィッシャーマンズセーターに憧れていたの。
眼鏡をかけた背の高い男の人が着こなしていて、このグレーと黒の毛糸、先生に似合いそうって。
でも、近くのお店にそんなお洒落な毛糸は売っていなくって。
選んだのは、結局無難な生成りの毛糸。
まっすぐよりごまかせるかと思って、なわあみなんて取り入れてしまったら、さらに四苦八苦。
あ、赤い毛糸で模様なんか入れてもかわいいかなぁ。
ここに刺繍みたいにクロスステッチを刺すのはどうかしら。
待って。かわいくしてどうするの、私。
編みあがった前身頃と後身頃の大きさが微妙に違っていて、ママに泣きつくと、霧を吹いてアイロンで伸ばしてみてくれた。
「ずいぶん細身なのね。同級生の男の子かしら」って笑うから、これじゃあ細さは大丈夫でも、背の高い葉月先生には丈が短すぎて、あーあ、ツンツルテン……。
とてもあげられないよ。くすん。
この頃の私は、先生の研究室に遊びにいくたびに先生の背後に忍び寄って、そぉっと肩幅は私の指何本分かなって空中で測ってみたりして、かなり挙動不審だったと思う。
結局、セーターのような形に仕上がったものは、やっぱりどうにも小さくって、今更パパのものっていうにはあまりに無茶だった。
横幅が違いすぎてお話にならないの。
このセーターが着られるのは、細身の男の子。
なぜかこの時ふっと川名君がよぎったのだけど、そんなことしたら、ぜったいかんちがいされちゃう!
というより編み目を見て、これ何、下手すぎって思われちゃう。
あ、空くんにならぴったりかなぁっ。
いや、まって。空くんの方が女子力高いから、下手なのすぐばれちゃう。
それで、結局、自分で着ることにしちゃった。
あは。自分でも首のとこがきついって、一体どういうことー。
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