第4話 コスモスの花言葉


 葉月先生の家の庭は今、秋の花でにぎやか。

 そして、先生に合わせてるみたいに、みんな背が高い。


 先生が花の名前を教えてくれる。

 百日草ジニア白蝶草ガウラ、マリーゴールド、コスモス、秋明菊。


 私はやっぱり、秋桜コスモスがすきだ。

 コスモスの花言葉は「乙女の真心」。あ、なんか似合わない。特にピンク色は「少女の純潔」って、なんかね。


 花言葉は陽向先生の受け売りだ。どの花の言葉を訊ねてもよく知っている。

 葉月先生ともきっと話が合うのだろうな。



 黄花コスモスっていう、素朴な花が帰り道に咲いている。

 ちょこっと揺らして、あいさつをする。

 黄花は「野性的な美しさ」だって。私はこっちかな。野性のことね。


 チョコレートコスモスっていう種類もあるんだって。

 葉月先生に教えてもらったの。花がチョコレート色で、匂いもチョコみたいだなんて、まちがってこりすが食べちゃうよ。


 チョココスモスは「恋の思い出」や「恋の終わり」。

 ウィンターコスモスという花は、コスモスの仲間ではないけど、名前はいかにも冬に咲くみたい。花言葉は「もう一度愛します」だなんて。


 コスモスの種類だけで、恋がはじまって、終わって、またやり直すみたい。


 黄花とチョコを一緒に抱えたら、私がだいすきなオレンジとショコラの組み合わせみたいだなぁ。

 甘いものを抱きかかえたみたいな、しあわせな妄想。ああ、おなかすいちゃった。



 律が押し花を作って詩集の栞にしているのを見た時、なんて乙女なんだろうって思ったの。


 私ね、お菓子の包み紙を適当に折って、文庫本のカバーにしてたの。和菓子屋さんので、季節の野の花が描かれたやつ。

 律が、いいな、かわいいなって目をきらきらさせて見てるから、じゃあ、あげるよって言ったら、すごく嬉しそうだったな。

 うん、律の方がこういうの、断然似合うもんね。


 その話を空にしたら

「ああ、姉ちゃんは、こっちの方がいいんじゃない」

って言って、茶色の温泉まんじゅうの包装紙を渡されたよ。はいはい、どうせそうでしょうとも。


 空はいっつも

「りっちゃんは かわいいよなぁ。姉ちゃんとえらいちがい。あんなお姉さんならいいのになー」だって。

 昔から、年上の律にあこがれてるんだよね。

 律のかわいさに惹かれてるのは、きっと空だけじゃないけど。


 そういえば、葉月先生の家で、今度「紙を漉く」って言ってたなぁ。

 お花も入れ込んだりできるんだって。ちいさな花限定だよね。


 だったら、金木犀キンモクセイがいい! あのちっちゃなオレンジ色の花。

 あのだいすきな香りも閉じ込められたらいいのに。


 私だって、少しは乙女成分でできてるんですよーだ。







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