第10話 おさかな
うちのママはお料理上手。お菓子までお手製で作っちゃう。
自分で言うのもなんだけど、自慢のママだ。
そして、お隣の葉月先生の手料理は、これまたおいしくて。
しかも、細かいところまで気が配られていて、美しいの。
お母様直伝のフランスの田舎料理なんて、もう最高。
こんなママと先生だから、しょっちゅう料理の話をしている。
さすがに毎晩一緒には食べないけど、いつも何品かの料理がお裾分けという名のもとに、行き交う食卓。
私も、お手伝い、そろそろしようかな。
まだ、クッキーの型抜きとか、ワンタンのふち止めとか、さやえんどうの筋むきとか、初心者レベルの私。
あのね、私も一人でキッチンに立ってみたい。作ってみたいパンケーキがあるのです。
言ったらきっと、ママが教えてくれる。それも手取り足取り。
それもいいんだけど、私の心のままに使ってみたいな、マイキッチン。
お料理上手なママを持つ、ぜいたくな私の悩み。
もうすぐ葉月先生のお誕生日が来る。
この日の午後は、蒼とふたりでケーキを作ってみたいって、ママにお願いしてみようかな。八月だから果実は何になるかな、柑橘系?
*
私ね、お料理も心配だけど、食べ方も上手じゃないの。
おさかな。一匹まるまる出てくる魚をきれいに食べられない。
皮も骨も苦手で、私が食べた後は、いつもきちゃなくて。
「あらあら、ねこが見たら喜んじゃうわね」って、ママはやさしいけど。
だってね、蒼はすっごくキレイに食べるんだよ。もう頭と骨しか残ってないの。
1年の宿泊学習で海に行った時、お魚がまるまる一匹ずつ夜ごはんに出たのね。
海の魚ってこんなにおいしいんだって、私としてはずいぶんがんばって食べたの。
だけど、隣の蒼を見たらあまりに見事で。ねこを泣かせちゃうくらい。
そうしたら、同じクラスの川名君が
「えー、なにこれー、ありえねー。見た目、逆だと思ってたわー。きれいに食べるのが山藤で、食べ散らかすのが海野ってイメージじゃね」
って、みんなに聞こえるおっきな声で言ったの。
とても恥ずかしくなっちゃった。食べ散らかしてるんだな、私。
蒼は、気にしちゃだめって言ってくれた。
「あいつらいつも、夏行くならどこがいいー、山? それとも海? 山藤? それとも海野? なんて調子で、バカなことしか言ってないんだからね」
しっしっ、って手で男子たちを邪見にして追い払うけど、蒼はめちゃくちゃもてるんだ。
アバウトに見えて、ほんとはきちんとしてやさしいから。
お魚、ママが作ってくれるアジのマリネがだいすき。
あれは、三枚におろして、ちゃんと粉まぶして、カリッと揚げ焼きしたあと、お醤油と白胡麻油の汁に浸して、塩もみしたきゅうりと玉葱も一緒に漬ける大好物なの。
私でもきちんとお魚が食べられるように考えてくれたんだ。
でも、一匹まるまるの塩焼きした秋刀魚が美しく食べられるように、今年の秋はがんばってみようかなって思ってる。
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