第10話 おさかな


 うちのママはお料理上手。お菓子までお手製で作っちゃう。

 自分で言うのもなんだけど、自慢のママだ。


 そして、お隣の葉月先生の手料理は、これまたおいしくて。

 しかも、細かいところまで気が配られていて、美しいの。

 お母様直伝のフランスの田舎料理なんて、もう最高。


 こんなママと先生だから、しょっちゅう料理の話をしている。

 さすがに毎晩一緒には食べないけど、いつも何品かの料理がお裾分けという名のもとに、行き交う食卓。


 私も、お手伝い、そろそろしようかな。

 まだ、クッキーの型抜きとか、ワンタンのふち止めとか、さやえんどうの筋むきとか、初心者レベルの私。

 あのね、私も一人でキッチンに立ってみたい。作ってみたいパンケーキがあるのです。


 言ったらきっと、ママが教えてくれる。それも手取り足取り。

 それもいいんだけど、私の心のままに使ってみたいな、マイキッチン。

 お料理上手なママを持つ、ぜいたくな私の悩み。


 もうすぐ葉月先生のお誕生日が来る。

 この日の午後は、蒼とふたりでケーキを作ってみたいって、ママにお願いしてみようかな。八月だから果実は何になるかな、柑橘系?



 私ね、お料理も心配だけど、食べ方も上手じゃないの。

 おさかな。一匹まるまる出てくる魚をきれいに食べられない。

 皮も骨も苦手で、私が食べた後は、いつもきちゃなくて。

「あらあら、ねこが見たら喜んじゃうわね」って、ママはやさしいけど。

 だってね、蒼はすっごくキレイに食べるんだよ。もう頭と骨しか残ってないの。


 1年の宿泊学習で海に行った時、お魚がまるまる一匹ずつ夜ごはんに出たのね。

 海の魚ってこんなにおいしいんだって、私としてはずいぶんがんばって食べたの。

 だけど、隣の蒼を見たらあまりに見事で。ねこを泣かせちゃうくらい。


 そうしたら、同じクラスの川名君が

「えー、なにこれー、ありえねー。見た目、逆だと思ってたわー。きれいに食べるのが山藤で、食べ散らかすのが海野ってイメージじゃね」

って、みんなに聞こえるおっきな声で言ったの。

 とても恥ずかしくなっちゃった。食べ散らかしてるんだな、私。


 蒼は、気にしちゃだめって言ってくれた。

「あいつらいつも、夏行くならどこがいいー、山? それとも海? 山藤? それとも海野? なんて調子で、バカなことしか言ってないんだからね」

 しっしっ、って手で男子たちを邪見にして追い払うけど、蒼はめちゃくちゃもてるんだ。

 アバウトに見えて、ほんとはきちんとしてやさしいから。


 お魚、ママが作ってくれるアジのマリネがだいすき。

 あれは、三枚におろして、ちゃんと粉まぶして、カリッと揚げ焼きしたあと、お醤油と白胡麻油の汁に浸して、塩もみしたきゅうりと玉葱も一緒に漬ける大好物なの。

 私でもきちんとお魚が食べられるように考えてくれたんだ。


 でも、一匹まるまるの塩焼きした秋刀魚が美しく食べられるように、今年の秋はがんばってみようかなって思ってる。







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