第4話

 ブルワークに教えられた方角に、ふたりの腐女子は馬に乗って走って行った。馬に乗るのは初めてだが、この世界の馬はふたりの命令通りに自在に動くようになっている。

 目的地に着く前に、農村を通り過ぎた。確かに税を取り立てられて、農民は困っていた。

 ある農民たちは、一生懸命食用油を絞っていた。この世界では貴重品の油の原料を調達するのに、かなり苦労している様子だ。油ができると、薄くスライスしたじゃがいもを揚げている。どうやらポテトチップを作らされているようだ。

 別の農民は、一生懸命蜂蜜を集めさせられていた。集めた蜂蜜は、ホップを加えていない苦くないビールに入れて、甘いビールを作るのだという。どうやら炭酸飲料もどきを作らされているらしい。

 そしてさらに別の農民は、パン焼き窯を使って、ピザを作らされていた。チーズやソーセージなど、農民が滅多に食えない食材をふんだんに使うらしい。

 誰も彼も、重税に苦しんでいるようだ。

「なるほどねえ。」

 どうやら女を連れ去ったリアル世界の住民は、元の世界のジャンクフードのようなものを作らせて、献上させているらしいのだ。

「お前たち、そんな事はやめろ!」

 試しに腐女子は命令してみたが、全くの無駄であった。どうやらそのリアル世界の住民の妄想力のほうが勝っているらしい。相当ジャンクフードに執着しているようだ。

「とにかく先を急ごう。」

 ふたりの腐女子は馬を走らせた。

 

 そのリアル世界の住民の住処にしている城にたどりついた。そこには「マジェスティック王国物語」の名前のある女性キャラが、ほとんど全員集められていた。ある者はメイド服を着せられていた。またある者はバニーガールの服装をさせられていた。どうやらそれが、そのリアル世界の住民の趣味であるらしい。

「さあ、急ごう!」

 ふたりは城の中に入って行った。城の中に入って行けばいくほど、女性キャラの服装のマニアック度が増していった。ボンテージ姿やら、パンツ丸見えの短いスカートやら。そして段々露出度も増していく。そしてそのリアル世界の住民の部屋のすぐそばまで来ると、女性キャラたちはほとんど全裸に近い姿であった。

「どうしてこんな恰好しないといけないの! ひどいよお! 恥ずかしいよお!」

 大声で泣いていた女性キャラは、エリンであった。「マジェスティック王国物語」では、一番の大人しいキャラであった。そんな子が全裸に剥かれていたら、そうなるであろう。

「可哀想に…。大丈夫、私たちが助けてあげるから。」

 朝霞ユリがエリンの頭をなでた。

「あ、有り難うございます、おばさん!」

「何ィイ!!」

 朝霞ユリはエリンの頭を思いっきりぶん殴っていた。

「貴様なんか、一生、裸のままでいろ!」

 そして腐女子ふたりは、先を急いだ。 そのリアル世界の住民の部屋に入って行った。

「やっぱりな…。」

 半ば予想していた通りであった。部屋の中にいたのは、ぶくぶくと太って、しかもさほどの歳でもないのに頭が禿げかけた、うす汚い男であった。間違いない。典型的なデブヲタであった。

「あ、助けて下さい!」

 もうひとり部屋の中にいたのは、女性キャラのひとり、テメレーアであった。全裸のまま縛り上げられていた。

「どうしたの? 乱暴されたの?」

 倉橋ふうかが尋ねた。

「いえ、一応指一本触られていないんですけど…。」

 テメレーアは顔を真っ赤にして言った。

「この男、私の裸を見ながら、おちんちんをごしごしこすっているんです! 私をオナニーのオカズにしているんです!」

「何ィイイ!」

 流石にリアル世界では、女など相手にできないデブヲタである。どうやら妄想通りに何でもできるこの世界でも、実際に女とヤル事ができないらしい。

「何こいつ…キモい…」

「最悪ぅ!!」

 二人の腐女子は、すっかり呆れていた。もちろん自分たちがこの世界の男とはやろうとせず、目の前で男どうしてさせようとした事など、棚に上げての発言である。

「見苦しい! こんな奴は、この世界にいてはいけない!」

 ふたりは剣を抜くと、一斉にデブヲタに襲いかかった。

「何だと! この腐女子どもめ!」

 ふたりはそう名乗った訳ではないが、デブヲタにはふたりが腐女子だとすぐ分かったようだ。やはり腐女子特有の臭気は、覆い隠す事ができるものではない。デブヲタも剣を抜いて応戦する。

 だが、剣の勝負は、腐女子有利に傾いていた。この世界のリアル世界住民どうしは、妄想力が強い者が勝つのは、前にも説明した通りである。

「こんなキモいデブヲタは、この世界から消え去れ!」

 そういう腐女子ふたりの想念は、デブヲタのそれを上回っていたようだ。そして腐女子の剣が、デブヲタに突き刺さった。

「ぎゃああああ!!」

 デブヲタは悲鳴をあげた。だが、まだ致命傷ではなかったようだ。分厚い脂肪が、剣が急所に達するのを防いでいるようだ。

 しかし、それはデブヲタにとって、苦痛がさらに長引く事しか意味していなかった。腐女子ふたりは、デブヲタをさんざんに斬りつけた。脂肪のぬめりで剣の切れ味がほとんど無くなってしまったが、それでもぶっ叩き続けた。

「痛い! 痛い! 助けてえ!」

 デブヲタは悲痛な雄叫びをあげたが、腐女子はためらう事が無かった。もちろんこんなデブヲタに、ためらう必要などさらさらない。

 朝霞ユリはデブヲタの股間を思いっきり踏みつけにした。

「痛い! 痛い! ちんこが潰れる!」

 もちろんちんこが潰れようが、そんな事は知った事ではない。どうせデブヲタのちんこが、本来の目的に使われる事など、永久に無いのだから。

 倉橋ふうかは、デブヲタの尻穴に、側にあった棒を突っ込んだ。

「あああ!! やめてええ!!」

「あーあ、試しにやってみたけど、ちっとも萌えないねえ。」

 当たり前の話である。

 そしてさんざん嬲りものにされたデブヲタは、やがて動かなくなった。ふたりはデブヲタをロープで縛り上げた。そして他の女性キャラの助けを借りて、デブヲタを城の外まで引きずり出すと、近くを流れている川に捨てた。

「さようならあ!」

 デブヲタはそのまま川に流されて行った。


 ふたりの活躍で、城に拘束されていた女性キャラたちは、救われた。

「有り難うございます、おばさん!」

「おばさんのお陰で、助かりました。」

 それは女性キャラたちの心の底からのお礼であったが、腐女子たちは怒り心頭に達した。

「貴様ら! 許さん!」

 腐女子はたったふたりではあるが、この世界の住民はリアル世界の住民にはかなわない。たちまち女性キャラ全員が簀巻きにされてしまった。

「わ、私たちをどうするんですか!!」

「決まっておる! こうするんじゃあ!」

 腐女子ふたりは、女性キャラたちを、次々と川に投げ入れていった。

「特にお前、許す訳にはいかん!」

 朝霞ユリが特に怒りを向けたのは、女性キャラのひとり、テメレーアである。

「私が何かしたというんですか!」

「とぼけるな! 忘れさせたとは言わせん! お前はカノーパスを身体で誘惑しただろうが!」

「そんなあ! 誘惑なんかしてません!」

 この場合はテメレーアの言う事が正しい。実は女好きのカノーパスが、テメレーアを襲って強姦しようとしたのである。もちろん未遂には終わったのであるが。読者によってシーンの解釈がわかれるという事はよくある話だが、このシーンについてはまともな読解力を持っている人間なら、間違いなくカノーパスの強姦シーンだとわかるはずである。しかし腐女子のおもいっきり歪んだ目には、カノーパスが女を襲おうとしななんて、想定外の事なのである。テメレーアが誘惑したとしか見えないのである。

「さよーならー!」

「マジェスティック王国物語」の名のある女性キャラは、全員川に流されて行った。

「これでこの世界は、男だけの世界になるね。」

「そうそう。こうなったらもう、男どうしで愛し合うしかなくなる訳だ。」

 突然朝霞ユリの剣が閃いた。そして倉橋ふうかがそれを受け止めた。

「貴様、どういうつもりだ?」

「わかっているだろう? この世界では、妄想力が強いほうが勝つ!」

「そうだな。やはり最後はこうなる運命か!」

 ふたりの腐女子の熱い戦いが始まった。この勝負によって、コンカラーにやおい穴が開けられるか、それとも女体化させられるか、それが決まるはずであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る