人間に合格した人間

@607rin

人間に合格した人間~太宰治「人間失格」を読んで

 私は、太宰治の「人間失格」を読みました。この本を選んだ理由は、有名な文豪の名作であったことと、筆者の作品を読みなれているので、感想文にしやすいと思ったからです。


 この物語の主人公は、幼少のころから自分をいつわる、生きる事に大変不器用な人間です。多くの女性と恋に落ち、また様々な人と出会い・別れ、主人公の人生は波乱に満ちていました。

 その結果、主人公は、何度も入水や心中そうどうを起こし、薬物中毒になり、ついには精神疾患者になってしまいます。


 私がこの物語で一番心に残っている文は、

「人間は、お互いの不信の中で、エホバも何も念頭に置かず、平気で生きているのではありませんか。」

という文です。


 私はこれほどまでになっとくできた文はありません。なぜなら、私も主人公と同じように感じたことがあるからです。例えば友人について。


 私の友人には、もちろん他の友人もいます。友人と友人の友人は、私の見た「表」では、ずいぶんと仲が良く見えました。しかし、実際に友人は、その友人の悪口を「裏」では言っているのです。


 私は自分の友人を信用することができなくなりました。自分も悪口を「裏」では言われているのではないか。そう疑ってしまいました。きっと友人も、私のことを疑っているのです。しかし私も友人も、そんなことは思ってないよと言わんばかりに、すました顔で日々共に生活しています。


 これはほんの一例にすぎませんが、このようなことは、ありふれているのではないでしょうか。それでいて多くの人が人間不信に陥らないのは、それがあたり前となって、定着してしまっているからです。


 私は、自分に「人間失格」のレッテルをはりつけた主人公と筆者に、「人間失格ではありません」と伝えたいです。


 あたり前と思われていることを、不器用だからこそ文にしたこの物語は、きれいごとの希望に満ちたハッピーエンドの本よりも、よっぽど学べることが多い。


 だから私にとって、主人公と筆者は人間失格などではなく、むしろ人間試験の合格者なのです。

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