ノベル・エフェクト -白紙の結末-

@iseethatone

第1話 グッバイ!この世界!

 今日はわたしの誕生日、おめでとう、わたし。そしてさようならわたし。

「最後に書く内容にしてはポエムじみてるな...」

 改めて見返すとロマンチストも青ざめる素敵なポエムを日記に書いていた。

 ここは海の上。自分が住んでいる町の港から通販で買ったゴムボートを漕ぐこと数時間の距離だ。町へ振り返ると、ぼやけた明かりと灯台の光だけが見える。町の景色は夜なだけあってまったくわからない。周りを見渡せば暗い闇が広がっていた。今日の天気は曇り。雨が降りそうな重い雲が広がっており、月や星の存在が忘れ去られたように空には何も見えない。

 覚悟はしてきた。自分の体に丈夫なロープを念入りに巻き付ける。二度とほどけないように。そしてそのロープの先には少し大きめな旅行バッグが私の体のように厳重に縛られていた。バッグの中にはおもりがひしめき合っている。

 そう。私はこれから自殺するのだ。この何もない海で、誰にも迷惑が掛からないように、自分の存在を消す為、この嫌気のさした現実から逃げるために。

 緊張と恐怖を紛らわすために大きく息を吸った。

「・・・ッ!?ゴホッ、げほっ、げほ」

 ロープが体を締め付けすぎて、一度に大量の息を吸えないようになっていた。

 ・・・・ちょうどいい。どうせもう息さえしないのだ。笑顔あふれる家族の写真と2冊の本を握りしめ、ボートから飛び立とうとした。

 すると突然ボートはバランスを崩し、私の体を12月の冷たい海へと投げ飛ばした。

 突然の出来事に私はパニックを起こした。なぜ?どうして急に?そんな疑問を浮かべている傍らで、私のもろい覚悟は当然のように崩れた。

(いやだ・・・!怖い。苦しい。死にたくない・・・!)

 もがけばもがくほど私の体は海の底へ引きづり込まれていく。バッグに詰めたおもりが計画通りに役目を果たしているのだ。苦しみにもがく私のからだは静かに確かに、目的地へ運ばれていった。

  暗く冷たい海の底へ運ばれるにつれて、私の意識は海と同調していくように感じた。水圧のせいか耳の痛みは最初こそ激しく感じたが、今ではなにも感じない。寒さだけが私の体を支配していた。諦めだろうか。もはや私はもがくことをやめ、ただ身を任せるようになっていた。

(もう、何も苦しまなくていいのだ。もう二度とあの日のことは思い出すこともない・・・。)

 私はある種の安心感を覚えた。死ぬことは苦しいことばかりと思っていたが、なんとも心地よい。死とは恐ろしいものではなかったのか。

 そう考えていると、光が見えた。どこか懐かしい光。

(走馬灯ってやつかな。ああ、なつかしい)

 かつて私が体験した記憶が私の体からあふれ出した。天に上るように私から離れていく。そんな様子を見ていると、赤く光る走馬灯があった。その光の中には泣き叫ぶ私の姿が見えた。膝をつき絶望している。しかし彼を慰めるものはいない。彼にはもう慰めてくれる人などいないのだ。

 私は再び絶望した。この世界に私の居場所はない。どこか私が生きられる世界へ行きたい。それが意識が途切れる間際の願いだった。


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