孤独者二人のア・カペラ プレリュード
―どこかの研究所及び宙港の依頼斡旋所―
暗い、黒い、研究所に、おどろおどろしい音が響き渡る。
「漸く、ようやく完成した。長い月日を懸け、私は成したのだ!」
一人の老人の声が、響く。
薄暗い研究所の地下室で、陰気に、不気味に、孤独な男の声が木霊する。
まるで幼い子どものように、且つこの世の終わりを伝えるように、響く、響く。
「私は、これを使い貴様らを滅ぼす。
待っていろよ、ユーバーシュヴェンメンの狸よ!」
狂った老人の、寂しくも決断的な侵攻が今、始まろうとしていた。
「なあ丸メガネ、仕事ねぇかな」
「ええありますとも、この宙域には面倒事が絶えませんから」
お決まりのやり取りが、画面越しに交わされる。
それが若き冒険家ライオと、その担当者たる丸メガネの男の普段のの朝だった。
冒険者は、一般的にこの宙港の依頼斡旋所で、専任の担当者と連絡を取り依頼を斡旋される。
しかし、その担当者を冒険家が選ぶことは許されず、冒険家リストに登録する際、
ランダムで決められる。だからという訳ではないが、ライオは今、目の前に映る顔が好きではなかった。この男、職務に真面目でもない上に面白味もない。
つまらない奴だ、と出会った当初から思っていた。
しかしだからと言って担当変更することも出来ないのでやりにくく、ライオと彼の会話は、いつもこの切り出しに始まる。そして
「では今回のお仕事も、よき成果がありますように」
「そちらも健勝であることを、私が信ずる神に祈ります」
このいつもの流れで、終わり。本当に、つまらないものだ。
ライオは何度か定型を壊し、個人として
の話をしようと試みたのだが、相手は一向に乗ってこなかったのである。
もう限界だ。それが、ライオの率直な気持だ。当たり前だろう、考えてみて欲しい。
ライオと斡旋者は、もう5年ほどの付き合いになるが、定型以外の会話をしたことなど両手の指で足りる程度、さらに補足すれば、それすらも事務的な内容であった。
冒険家を因果な商売と断言していながらも、まだ仕事に対し未練を捨てきれないライオが、何の面白味も感じない相手と5年も顔を合わせ続けなければならないのだ。
仕事の際には、枷を外したくもなるだろう。
そう、ライオにとってあの男はまさしく枷であった。自分を制限する枷、
やりにくいことこの上ない。持ってくる依頼もいまいちスリルに欠け、満足出来ない日々が続くことも多い。
星を侵略せんとするスペースマフィアだとか、星全体に広がる恐れのあるバイオ兵器だとか、ライオはもっとこう、規模の大きなものを欲する。
それになにより、並の賞金首の拘束や、傭兵の真似事では稼ぎも良いとは言えない。
彼には、夢があった。いや、夢などという大きなものではない。もっと小さな目標、いつか絶対に届くもの、自分の商売道具の新調を望んでいた。
ライオ ことライオ・リカルドは、5年以上も冒険家をしていながら自前の移動手段及び機動戦力が、買った当時2世代前のモビル・ブースターという残念な男だった。
それは彼に金がないことを意味しているが、同時にそれなりの修羅場を潜っていながら、そんな装備で生き残ることが出来る程度には腕があるということともいえる。
「もう、専属の仲介屋を雇ってしまおうか」
ライオは冗談とも、本気ともとれるトーンで呟いた。そう、報酬の一部を渡すという条件で良い仕事をとってくる「仲介屋」と呼ばれる者を雇えば、あの男とは会わずに済む。斡旋所は宙港により運営されるため、職員も自ずとそこで働くものから選ばれる。
しかし、仲介屋は違う。彼らは依頼の斡旋が専門だ。裏社会ともそれなりに繋がりがある者も多く、そちら関係の依頼も舞い込んでくる。腕の確かな奴に斡旋を頼めばそれなりに報酬は差っ引かれるが、それでも割の良い仕事をとってくる。それなのに利用する者が多くないのは、彼らが持ってくる依頼が総じて危険な物だからだろう。だがライオなら、それらの依頼すらも完遂して見せる事だろう。
しかし、残念な事に、ライオには仲介屋とコンタクトをとる伝手が無い。
結局この話は夢物語という訳だ。
普段のライオは、無理な事はすっぱりと諦める男だ。しかし、
「まあ無理なことをとやかく言う前に、とりあえずお仕事しましょうかねっと」
しかしライオという人間は、時に無理なら無理でどうにかしてみせると言ってのける男でもあった。
ライオは、口笛を吹きながら骨董品とすら呼べる自身の愛機、かの英雄アーサー
が駈っていた機体にあやかり名を付けた
「エクスカリバー」に搭乗し、目的の星へと向かうのであった。
だが、彼は知る由もなかった。
自分がこれから宇宙全体を危機に陥れる事態に巻き込まれようとしていた事を。
ライオ・バディヌリー スペースせんしぃ @nanasino-SFniwakamiman0
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