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 夜も更け、パジャマ姿の美琴は、寝る前に、スマイル動画を見ながら、ボカロの新曲をチェックしていた。

 新曲は毎日、アップされるが、そのほとんどが、いまいちの出来。初音ミクを始めとして、広く知られるようになったボカロ。パソコンと、ボカロさえあれば、誰でも自由に曲を作れるようになり、それを、動画サイトに、手軽にアップできてしまう現在、あまたのボカロ曲から、自分好みの曲を見つけるのは、至難の業だ。

 曲を発表するたび、腕を上げるボカロPもいれば、まったく上達しないボカロPもいる。逆に、たった一曲だけ、至極の名曲を残して去って行ったボカロPも少なくない。

 だからこそ、自分好みの曲を見つけた時の感動は、計り知れない。誰よりも先に名曲を発見するのは、ボカロ好きの美琴にとって、ちょっとした宝探し気分なのだ。

「ふぅ」

 ため息をついて、後ろにのけぞった。

「今日も、あまり良い曲、ないなあ」

 ちらっと時計に目をやる。針は午前零時三十分を指そうとしていた。

「そろそろ寝ようかな」

 自分が登録したマイリストを、つらつらと眺める。ふと、『ドッグ・ラバー』で目が止まる。

「そういえばこの人、他にどんな曲、創ってるんだろう」

 『ドッグ・ラバー』の投稿者『猫年P』をクリック。

 プロフィール欄は、性別、生年月日、住んでいる地域、全てが非公開になっている。自己紹介欄も空白のままだ。

 投稿動画一覧には、『ドッグ・ラバー』を含め、四曲がアップされている。

「意外と少ないんだな」

 と、思った次の瞬間、我が目を疑った。

 最初に投稿した曲が、今年の一月。二月に、二曲目となる『ドッグ・ラバー』をアップして、現在までの再生数が、七万三千程度。決して多い再生数ではないが、その後も、一ヶ月に一曲のペースでアップし続け、どの曲も、再生数だけなら五万を超えている。

 美琴は、最初の曲から順番に聴く。

 最初の曲は、バラード。二曲目の『ドッグ・ラバー』から急に明るい調子になり、その後は、比較的、軽快なテンポと明るい歌詞になっている。正直、ガッツリ美琴好みなのだ。

「知らなかった。この人、思いっきり私好みの曲、創ってたんだ」

 スマフォを取り出し、ツイッターで『猫年』のアカウントを検索する。

「いた!」

 早速、フォロー。続いて、過去のツイートを読み返す。何人ものボカロPとやりとりしている。


猫年{ほんの今さっき、新曲ができました}20xx/05/13 0:55

jy{それは乙。アップはまだですか?}20xx/05/13 1:07

猫年{まだ、気に入らないところがあるので、そこを直してから}20xx/05/13 1:13

jy{そうやって、いつまでも直し続ける罠W}20xx/05/13 1:17

猫年{そうなんですよねぇ。あっちを直すと、こっちも直したくなって}20xx/05/13 1:22

jy{あきらめが肝心な時もある}20xx/05/13 1:26

猫年{jyさんは、どのへんであきらめるんですか?}20xx/05/13 1:30

jy{俺はあきらめない}20xx/05/13 1:32

猫年{さすがプロ。あきらめずにつくりこみ続けるんですね}20xx/05/13 1:39

jy{そういうんじゃなくて、着地点を決めて、そこまであきらめない}20xx/05/13 1:44

猫年{着地点ってなんですか?}20xx/05/13 1:49

jy{自分が求めている完成度。それが着地点}20xx/05/13 1:53

猫年{その完成度が、なかなか見えないんですが(^_^;)}20xx/05/13 1:58

jy{それは自分で見つけるしかないね}20xx/05/13 2:02

猫年{限界に挑戦しろ! って感じですか?}20xx/05/13 2:05

jy{かっこよく言うとそんな感じ}20xx/05/13 2:09


「ふおぉー! マジ、リアルタイムでつぶやいてる。jyさんって、ボカロ曲をスマイル動画にアップして、その曲がミリオン越えして、メジャーデビューして、今じゃ、アイドルに楽曲提供しているボカロP。リアル、ネ申じゃないか! そんな人とツイッターしてるって、いったい何者なの? この猫年Pって」


猫年{最近、俺の知り合いが、俺の曲にMMDでPVを創ってるんですよ}20xx/05/13 2:13

jy{ほう。嬉しい?}20xx/05/13 2:15

猫年{おまえらに出来るのかよって感じっス}20xx/05/13 2:17

jy{それなら、なおさら応援してあげないとな}20xx/05/13 2:21

猫年{応援っていっても、二、三回、顔を合わせた程度の仲だし}20xx/05/13 2:29

jy{だったら、もっと顔を合わせればいい}20xx/05/13 2:33

猫年{それはマジ、かんべん}20xx/05/13 2:36

jy{もったいないなあ}20xx/05/13 2:38

猫年{もったいないですか?}20xx/05/13 2:40

jy{君の曲を、MMDでPVを創ってくれている人が、そばにいる}20xx/05/13 2:47

猫年{話すべきですかね?}20xx/05/13 2:51

jy{絶対、話すべきだね}20xx/05/13 2:55

猫年{そうですか}20xx/05/13 2:58


「なんか、話に割り込みたい。でも、そんな事できない。そうだ!」

 美琴がLineでみんなに知らせようとした。

 スマフォに指をタッチして、そして、文字を打つのを止めた。

 さっき、味わった屈辱。ボカロ部の部員として、参加していたつもりが、実は単なる、仮歌しか歌っていなかったことを思い出した。

 あの部に、私の居場所は、あるのだろうか…。



 咲音芽依先生に呼ばれ、所員室に整列した、結歌、美琴、笛子、鈴の四人。

「で、活動報告は?」

「なんですか、それ?」

「部活動の報告です! 藤田さん。いや、藤田部長」

「え? あたしって部長だったんだっけ?」

「なにを今更」

「Lineで連絡くれた」

「そういえば、成り行きで部長になったような…」

「部活開始から二ヶ月。なんの報告も無しって、どういうこと?」

「どういうこと? 結歌部長」

「どういうことですか? 結歌部長」

「どーなってんの? 結歌部長」

「ちょ、ちょっと待ってよ。そんな話、聞いてないし」

「藤田さん、部活説明会に、出ていないでしょ」

「それ、なんですか?」

「部活申請書と引き替えに、部活動の規律と報告、連絡についての書類を、渡したでしょ?」

「存じ上げません」

「存じ上げませんじゃないの! そこに、部活動に関するルール全般が記載してあります。月に一度、部活動を顧問に報告することと、記載されてるでしょう。部、設立から一度も無いんだけど、どうなっているのかな? 藤田さん」

 めいちゃん先生の目尻が、ピクピクと痙攣する。

「す、すいません。忘れてました」

「あまり長い間、報告がないと、廃部にされちゃうわよ」

「イエッサー! それでは早速、部室へご案内します」

 全員、職員室を出て、パソコン実習室へ向かう。

「歩きながらでいいけど、成果は出たの? 藤田部長」

「現在、初音ミクの『ドッグ・ラバー』という曲に、モーションを付け、近々、PVとして完成させ、スマイル動画にアップするところです」

「PV? ボカロ部っていうから、てっきり、ボカロ曲を創っていたのかと思ったんだけど」

「いずれはボカロ部から、スマイル動画で、ミリオン入りするボカロ曲を創ります。まずは、その、小手調べに」

「そう。じゃあ、今から見せてもらえる?」

「「「えっ!」」」

「なによ、なんかまずい事でもあるの?」

「いいえ」

 パソコン実習室のドアを開ける。

「こちらへどうぞ」

 A─1のパソコンの前に座り、電源を入れる。

「結歌、動きがロボットみたいになってるよ」

 美琴が耳打ちする。

「ここらの操作は、我が部員切ってのMMDer」

「MMDer?」

「中島鈴が実演いたします」

 結歌は鈴に席を譲る。

 パソコンが起動すると、早速『ドッグ・ラバー』のMMDを再生する。

 ヨーロッパの街並みを、カメラからフレームアウトした誰かと手をとり、音楽に合わせてステップ、回って、瞳を潤す、Lat式初音ミク。背景は、噴水で水遊びする相手、飛び散る水滴、水面に反射して、鏡のように写るミク。蹴った水が虹を描いて、虹の橋を渡るミクと誰か。虹の橋を踏み外し、落ちたところは、草も木も、虫もキノコも七色に輝く、ワンダーランド。相手に引っ張られ、ワンダーランドのトンネルを抜けると、そこは自宅の前だった。手にしていたのは、犬のリード? それとも…。

 と、思わせぶりなところで映像は終わる。

「へえ、良くできてるじゃない」

「ありがとうございます。これも全て、お鈴様のおかげです」

「お鈴様って、やめてよ」

「これだけできていれば、部活動内容として問題ないわ。それで、これはどこの動画サイトにアップしたの? ヨウツベ? スマイル動画?」

「それがまだ…」

「どうして?」

 三人の目線が、結歌に集まる。

「えっと、その、まだ、水のエフェクトが全然、できてませんし、曲とダンスが微妙に合っていない部分もありますし、スカート跳ね過ぎて、パンツ見えすぎで物理演算の調整もしてですね」

「「「いい加減にしろ!」」」

 三人の突っこみが入る。

「ようするに、部長の完璧主義が原因で、なかなか完成に至らないと」

「「「そのとおりです」」」

「どこで切り上げるか? どんな物を創る時にも当てはまることだけど、結局は、納得するまでやってみるしかないんだよね」

「そうですよね! めいちゃん先生」

「でも、時間は無限にあるわけじゃないし、ましてや、藤田さんのめざしている完成型が、今、このパソコン環境でできるのか? いずれにしろ、限界はやってくるものよ」

「限界ですか」

 結歌は肩を落とした。

 ドアが開き、風雅先生が実習室に入ってくる。

 無意識のうち、咲音先生は瞬時に、風雅先生の方を見た。

「どうだ? できたか?」

 風雅先生は、咲音先生に気がつかず、自分の担当する部員達に歩み寄った。

 その足取りを、頬を紅く染め、ぼんやりと目で追うめいちゃん先生。

 ピーン! と、きたのは、結歌だけではなかった。四人が目線を合わせ、ニヤリとほくそ笑んだ。

 その時、風雅先生が、咲音先生に気がついた。

「咲音先生、いらっしゃったんですか」

「はい。ボカロ部の指導に」

 指導? 今までそんなことされたか? と、四人は首をかしげた。

「風雅先生には、部室の一角を貸していただき、ありがとうございます」

「別に、授業以外では、部活でも使っていないパソコンですから。ご自由にお使いください」

「ありがとうございます」

「ボカロ部、というからには、ボカロ曲を創る部活ですよね」

「いえ、それがその、曲を創らず、MMDを創っていまして…」

「へえ」

 風雅先生が、こっちのパソコンにやって来る。

 モニターを覗きこみ、MMDを見る。

「良くできてるじゃないですか」

「そうですか?」

「これは四人で創ったの?」

 風雅先生が四人を振り返る。

「はい!」

 元気な声で結歌は言う。

 一瞬、視線を落とす美琴。

「MMD杯に出しても、いいぐらいの出来だ。自信を持て」

「ありがとうございます!」

 結歌は鼻が高かった。

「うちにもボカロで曲を創っている生徒がいたな。おい! 鈴木!」

「はい」

 覇気の無い返事が返ってきた。

「ちょっとこっち来て、これ見てみろ」

 鈴木はパソコンの前から動こうとしなかった。

「おい! 鈴木!」

 あわてて、結歌がフォローする。

「鈴木君には前に、見てもらいました」

「そうか。なんて言ってた」

「そりゃもう、筆舌にしがたい、辛辣な言葉を頂戴しました」

「そっか。まあ、鈴木も根は悪い奴じゃない。あまり気にしないで、自分の納得できる完成型をめざして、がんばれ」

「はい。ありがとうございます」

 風雅先生は、結歌の肩を、軽くぽんと叩いて、鈴木たちの方へ帰って行った。

 結歌がため息をつくように言う。

「やっぱり、ボカロ経験者だったんだね。彼」

「前回、文句の付け方が、経験者ぽかった」

「笛子先輩も気がついていたんですか?」

「もちろん」

「鈴は?」

「あれだけ言われて、気がつかない方がおかしいよ」

「そっか、みんなそう感じてたんだ。そういえば、美琴は?」

「え? 私? 私は、気がつかなかった、かな」

「そう」

 美琴は、さっき風雅先生の言った『四人で創ったのか?』の問いに、「はい」と言えなかった自分に、後ろめたさを感じていた。話題を変えよう。

「めいちゃん先生。訊いてもいいですか?」

「なに? 下田さん」

 なるべく小さな声で。それでいて、透る声質で。

「先生って、風雅先生のことが好きなんですか?」

 染めた頬を、さらに上気させる。

「ちょ、ちょっとなに言ってんの!」

「紅くなっちゃって、先生、バレバレ」

「「「「あはははは!」」」」



jy{曲は完成しそう?}20xx/05/17 0:04

猫年{はい。なんとか。六月中にアップするつもりです}20xx/05/17 0:10

jy{公約どおり、毎月、一曲だ}20xx/05/17 0:17

猫年{そうです}20xx/05/17 0:20

jy{そういえば、訊いてなかったけど、どうして毎月一曲にこだわるの?}20xx/05/17 0:27

猫年{なんとなく。です}20xx/05/17 0:30

jy{なんとなく、ね}20xx/0517 0:33

猫年{はい}20xx/05/17 0:35

jy{野暮かも知れないけど、最初からあまり、突っ走りすぎないように}20xx/05/17 0:44

猫年{ガンガン行きます!}20xx/05/17 0:48

jy{そりゃ楽しみだ}20xx/05/17 0:50

猫年{アップしたらメールします}20xx/05/17 0:55

jy{ところで、君の曲にMMDでPVを創ってる方は?}20xx/05/17 1:09

猫年{一応、出来たっぽいです}20xx/05/17 1:14

jy{見た?}20xx/05/17 1:17

猫年{いえ}20xx/05/17 1:19

jy{もったいないなあ。たった一言、見せてって言えばいいだけなのに}20xx/05/17 1:26

猫年{それだけは言えません}20xx/05/17 1:28

jy{なんで?}20xx/05/17 1:30

猫年{恥ずかしいっス}20xx/05/17 1:32

jy{失礼だけど、猫年君っていくつ?}20xx/05/17 1:35

猫年{十五です}20xx/05/17 1:37

jy{相手は、同級生か}20xx/05/17 1:39

猫年{そうです}20xx/05/17 1:41

jy{だったら、なおさらだな}20xx/05/17 1:43

猫年{どうしてですか}20xx/05/17 1:46

jy{それは曲を聴いてもらえばわかるよ}20xx/05/17 1:49

猫年{それが嫌だって言ってるんです}20xx/05/17 1:50

jy{君はもっと上手くなりたいんだろう?}20xx/05/17 1:56

猫年{もちろんです}20xx/05/17 1:59

jy{じゃあ、聴いてもらうしかないな}20xx/05/17 2:06

猫年{意味がわかりません}20xx/05/17 2:09

jy{さて、学生は明日が早いぞ。とっと寝ろ! お休み}20xx/05/17 2:14

猫年{お休みなさい}20xx/05/17 2:24


「猫年Pは、十五歳なのか。すると、中学三年か、高校一年。私たちとそんな変わらないんだ。十五歳で作詞、作曲ができて、毎月、一曲のペースでスマイル動画にアップしてる。私にそんな才能があったらなあ。せめて…」

 その時、美琴はひらめいた。

 今までの会話に出てきた、MMDでPVを創っているメンバーが、自分たちのことではないか? ということ。

 同じ年代の同級生で、彼の曲を、MMDでPVにしている。

 たんなる偶然かも知れない。しかし、殿堂入りさえしていないマイナーな曲のPVを、MMDで創っているなんて、多いとは思えない。しかもそれが、彼の同級生。

 猫年Pが、自分の同級生。そう考えるだけで、心の奥から、彼に対する好奇心が湧きあがってきた。



「さて諸君、今日の議題は、めいちゃん先生とカイト先生をくっつけちゃおう大作戦!」

 パチ、パチ、乾いた拍手がささやかに響く。

「どうしたみんな、ノリが悪いぞ!」

「部長、質問があります」

「はい! なんでしょうか、御鈴」

「おすずって、あたしのことですか?」

「鈴と付く人が他に誰かいますか?」

「いません」

「それで御鈴、質問はなにかな?」

 いつからあたしの呼び名に『御』が付いたんだろうと、疑問に思ったが、ここは流すのが吉。

「今日は、完成したPVを、スマイル動画にアップするため、集まったんじゃないんですか?」

「なにを言うか! アップするだけならあたしひとりで出来る。そこをあえて、みんなに集まってもらったのは、先に発表した作戦を立てるためである」

 なんか、部活の趣旨、変わってない?

「みんな、既にお気づきのように、めいちゃん先生はカイト先生が好きなようである」

 お気づきなのに、ようであるって、文脈の前後で意味が合ってないよ。

「めいちゃん先生は、その気持ちを、カイト先生に伝えていないようだ」

 でしょうね。

「そこであたしたちボカロ部が、全力をあげて、ふたりの仲をとりもってあげたい!」

 イヤ、そこ、カイト先生の気持ちは?

「なんか、さっきから、あたしの意見ばかり空回りしてる気がするけど、気のせい?」

 気のせいじゃないと思う。

 おもむろに、笛子が手をあげる。

「私にも質問がある」

「はい。笛子先輩」

「めいちゃん先生の気持ちはわかったけど、カイト先生の気持ちは?」

 雷に打たれたような衝撃が、結歌の全身を駆け抜ける。

「そ、そうか。そっちの気持ちを確かめていなかった」

「くっつけるうんぬんの前に、カイト先生の気持ちを確かめるのが先決」

「さすが笛子先輩。伊達にあたしたちより長生きしていませんね」

「でも、くっつける作戦には賛成」

「賛同、ありがとうございます。御鈴はどう思う?」

「どうって、カイト先生の気持ちを確認するのが先でしょう。もし、彼女がいたら、めいちゃん先生に道化を演じさせるだけだし」

「そうか。して、どうやって確かめる?」

 一同、沈黙する。

 沈黙の中から、スースーと、かすかに寝息が聞こえる。三人が同時に、寝息の立つ方を見る。美琴が結歌のベッドにもたれかかって、寝ているのだ。

 結歌が美琴の前に立つ。なにをするのかと、鈴と笛子が見まもる。

 おもむろに、両脇の下に手を入れ、ゴニョゴニョとまさぐる。

「ひゃあ」

 と、悲鳴にも似た声をあげて、美琴は目を覚ました。

「なに?」

「なに? とは、こっちの言葉だ」

「あ、ごめん。寝てた?」

「とても気持ち良く、寝息をたてて」

「最近、夜遅くて。それで、動画のアップは終わった?」

 自分のパソコンの前に戻り、結歌は仕切り直す。

「第一回。めいちゃん先生とカイト先生をくっつけちゃうぞ作戦会議」

「アップ、終わってないの?」

「寝ていた美琴のために、改めて、作戦の戦略と戦術を練よう」

「なんの話?」

「我がボカロ部は、全力をあげて、めいちゃん先生とカイト先生の仲をとりもつことに決定した」

 なんのこと? と、鈴と笛子先輩に目線を送った。返ってきたのは、私たちにもよくわからんという、アイコンタクトだった。

「まず、カイト先生をよく知る者はいないか?」

 手をあげる人が、いるはずもない。

「じゃあ、カイト先生に接点を持っている者はいないか?」

 一瞬、猫年Pのことが頭に浮かんだ。

「はい」

「おお! 美琴に接点がある」

「接点ていうか、ボカロを知っているところから切り込めば、先生を知ることが出来るかな? と」

「なるほど。良いアイデアです。では、美琴を、カイト先生調査員に任命します!」

「任命って大げさな。で、具体的になにをすればいいの?」

「カイト先生の後をつけて、彼女の有無を確かめる」

「それじゃ、ストーカーじゃん」

「カイト先生の家の前で待ち伏せして、女が来ないか…」

「ちょっとまった。それもストーカーだし。そもそも、社会人の生活時間帯を盗み見るなんて、高校生の私たちに無理でしょう」

「確かに」

「カイト先生が顧問してる、パソコン研究部をあたってみる」

「なるほど。その手があったか」

「今度、パソコン研究部に行ってみる。話せるようなら、部員からカイト先生について訊いてみるよ」

 笛子が尊敬のまなざしで、美琴を見つめる。

「男ばかりにあの部に飛び込むなんて、勇者」

 鈴は冷静だ。

「骨は拾ってやる」

「いや、なにも死地に赴くわけじゃないし」

「行ってこい! 吉報を待っている!」

 大げさな、と思いつつ、美琴はパソコン研究部で、確かめたいことがあった。

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