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 桜は散り、若葉が枝を覆い始めた。

 中間試験も近づいてきて、クラス中は、試験の話題で持ちきりだ。しかし、ボカロ部のメンバーはそっちのけ。というのも、ボカロ部初の動画が、完成間近なのだ。

 わくわくしながら、パソコン実習室に入り、A─1のパソコン電源ON!

 昨日まで作成したデータの入った、USBメモリーを差しこんで、MMDを起動させる。

「結歌、早っ!」

「遅いよ、美琴に鈴」

「おまえが早すぎるんだよ」

「MMDerのあたしより先にスタンバって、なにをする」

「いよいよ完成間近じゃん。いても立ってもいられなくって」

 結歌が鈴に席を譲る。

「結歌はこんなことより、試験勉強をした方が、いいんじゃないか?」

「こんなこととはなんだ! 神聖な初音ミクのMMDを侮辱するか!」

「はいはい、神聖ね。あたしはあなたの試験結果が心配だわ」

「それはだいじょうぶ! お鈴先生に、山をはっていただきましたから」

「あれは山をはったんじゃない。先生が試験に出すぞ、と言ったところをまとめただけだ」

「なおさら、案ずることはない」

「まあ、赤点だけはとらないように」

「ラジャー!」

 脳天気な結歌を、一笑して、鈴がMMDを起動させる。

 昨日まで創りかけた、モーションの途中で、動画は止まっている。

「どうしよう? このまま先を続ける?」

「いや、最初から見ていたい」

「じゃあ、結歌のリクエストにお応えして」

 『ドッグ・ラバー』の曲に合わせ、初音ミクがステップを踏み、手を振って、体を捻る。カメラは動かず、正面から映した固定のまま。背景は、笛子の踊りが流れている。

「笛子先輩の踊りは、やっぱり良いなあ」

 結歌が思わず、ため息を漏らす。

「やっぱり、振り付けを笛子先輩にお願いして、良かったね」

 美琴が、賛同する。

「美琴の歌声も、なかなかだよ」

 鈴が、パソコンのサウンド・ボリュームをマウスで上げる。パソコンのスピーカーから、美琴の歌声が響いてくる。

「ちょ、ちょっと止めてよ!」

 あわてて、マウスを押さえる。一瞬、パソコン研究部のメンバー数人が、こっちを見る。

「でも、このやり方は正解だったんじゃない?」

「そ、それは認めるけど…」

「最初、めちゃくちゃ、反対してたけどね」

 美琴はうっすら、頬を紅く染める。



 パソコン研究部の部室を間借りして、モーションを創るのは無理だとわかった、あの日。四人は笛子先輩の家に行った。ダンスをするなら、ダンスができる場所。ダンスを創るのなら、ダンスを知っている人。至極、当然の結果で、笛子先輩も、快く協力してくれた。

 モーションは、初音ミクの曲『ドッグ・ラバー』に合わせる形で進められた。

 最初に、曲に合わせて笛子が踊り、ボカロ部メンバーの意見を聞きながら、微調整していく。特に、そのモーションを、後でトレースする、鈴の意見は多く取り入れられた。所作が細かいと、さすがにトレースしにくい部分が出てくる。ほとんどの振り付けは、笛子と鈴によって作成されていったが、時々、突拍子のないことを言うのが結歌だ。

「そこは、もっと、ばーんと、派手にジャンプした方が良いと思う」

「なんで?」

「着地の時、縞パンが見える」

 キリっと言い切った、清々しいまでの顔に、美琴がチョップ!

「痛いなあ」

「踊りはパンツ見せるためのものじゃない」

「でも、スマイル動画で求められているのは、パンチラだ」

「そこは否定しないけど、創っているのは、私たち、女子なんだから」

 鈴が冷静に割って入る。

「見る人にとって、作り手のジェンダーなど関係ない。見えるか見えないかわからない。そのじれったさの末、ほんのちょっとだけ見えた時に流れる『見えた』のコメ。これこそスマイル動画の真骨頂」

 良いこと言った、あたし(キリ)By鈴

「だそうです。どうしますか? 笛子先輩」

「曲自体が、ジャンプを多用するようなテンポじゃないから、そこはカメラワークで見せればいいと思う」

「笛子先輩。そこ乗るんですか?」

「ですよねー。さすが、笛子先輩はわかってらっしゃる」

「でも、歌声がミクだと、パンチラは踊りづらい」

「別のボカロにしますか?」

「そうじゃなくて、人の肉声がいい」

「とはいっても、この曲に『歌ってみた』はアップされてないし」

 笛子が、物欲しそうな目線で、美琴を見つめる。

「ちょ、ちょっと待ってください」

「このあいだのカラオケ。上手かった」

「そうそう! あれ良かった」

 今度は肘打ちが結歌の脇腹に命中する。

「ぐほ」

「そんな上手くないですよ」

「歌って欲しい」

「いや、いくら笛子先輩のお願いとはいえ…」

「美琴の歌声なら、もっと良いダンスが踊れそう」

 マジマジと美琴を見つめる、笛子。

「わ、わかりました。歌います。歌いますよ」

「ありがとう」

 早速、美琴の歌う『ドッグ・ラバー』が録音された。

 いくらカラオケ慣れしているとはいえ、一曲を間違えず、通して歌うのは難しい。間違えたところや、音程が微妙なところを中心に再録音して、美琴の『歌ってみた』が完成した。

「これだけ先に、スマイル動画アップしちゃおう」

「それだけは止めてくれ」

「いいじゃん。この曲の宣伝にもなるよ」

「私の『歌ってみた』が宣伝になるとは、到底思えないけど」

「なるよ」

 鈴が、ぼそっと言った。

「スマイル厨のあたしが保証する」

「じゃあ、MMDと同時進行で、これに絵を付けますか」

「ちょっと結歌。なに、勝手に進行してんのよ」

「いいじゃん。あたしのアカウントでアップしといてあげるから。絵は適当なのを、ペクシブからダウンロードして、それを継ぎ接ぎして…」

 結歌のこめかみをグーで挟んで、ぐりぐりする。

「痛い痛い痛い痛い」

「動画を編集できるなら、最初からあんたがMMDを創ればよかったでしょ」

「静止画を継ぎ接ぎにして動画にするのと、MMDで動画を創るのは、別の行程や作業と才能が必要なんだって。ねえ、鈴ちゃん」

「そうね」

「『歌ってみた』をアップするかどうかは、一旦、おいといて、今はMMDの振り付けに使おう」

 笛子の提案で、美琴の歌ってみたに合わせ、振りを付け、それをビデオに撮る。今度はそれを、学校のパソコンに取りこんで、MMDでトレースするという作業が続いた。



 そして今日。トレース作業の最終段階までやってきた。

 じゃあ、音はヘッドホンで聴きながら。

 曲の最後は、散歩している犬。リードを握っているのは、あたしなのに、勝手に走り回って、振り回される。まったく、しょうがない犬ね。

 実は、リードをつないでいるのは犬ではなく、手をつないでいる彼であって、散歩しているようで、実は逆にあしらわれていたのが自分だったというのが、この曲のオチだ。

 オチは、曲がフェイドアウトする訳でもなく、突然、終わる。

 曲のサビで、相手に振り回される自分自身を、ハンマー投げの選手が、投げるハンマーの様に、逆に振り回されている様をダンスっぽくアレンジ。曲の終了と同時に、尻餅をつき、彼に振り回された結果を現す。

 笛子のダンスを、丁寧にトレースしていく鈴。非常に地味な作業で、この場に結歌や美琴がいても、実はあまり意味がない。

 しかし、結歌と美琴は、スマフォを使って、この動画の背景やエフェクトを検索していた。

「やっぱ、塔じゃない? レア様、踊ってたし」

「塔じゃ散歩にならんでしょう。ゲキド街なら、散歩向きだし」

「ゲキド街はありきたりだあ。インパクトに欠ける」

「結歌はインパクトありすぎなんだよ」

「なにを言う! 過去のMMDは、みなインパクトのあるステージからデビューしてるんだよ」

「あまり気をてらっても、引かれるだけだって。そもそもこの曲は、片思いの彼を犬に例えて、散歩につれまわす。テーマは彼との散歩なんだから、バックステージは日常の方がしっくりくるって」

「いっそ、SFっぽく、ピアノの鍵盤で彼を散歩して、水銀のように反射する噴水で水遊び。風船の飛ぶ、ヨーロッパの街並みを駆け抜けて、七色のヒカリが点滅する、不思議な部屋に迷い込んで、飛び出したら、学校の校庭だった」

「歌詞とまったく関係ないな」

「MMDのPVって、だいたいこんなもんでしょ?」

「まあ、そうだけど」

 そこに笛子が、やってくる。

「笛子先輩は、ステージ、何が良いと思います?」

 結歌がスマホをタップして、今、美琴と選んだ、いくつかの候補を見せる。

「どれもみな、素敵なステージ」

「そうじゃなくて、自分のダンスに合うステージって、どれだと思います?」

 しばらく、ステージを見比べて、笛子は言った。

「みんな、良い」

「カメラワークに、何かご意見、ありませんか? ダンサーならではの視点で」

 うーんと、しばらく考え込んで。

「ダンスにカメラワークは無いから、みんなに任せる」

「そうですか」

 そこに、鈴木裕二が入ってくる。

「嫌な奴が来たな」

 美琴がぼそりと言った。

 彼こそ、前に、結歌たちの活動に難癖付けてきた奴だ。C─4のパソコンに集まっていた、部活の仲間と合流する。

 結歌がスマフォをタップする。

「あっちはあっち。こっちはこっちで、やりましょう」

 と言ってみたものの、彼のことを一番、気にしているのは、結歌だ。

 曲をちらっと聴いただけで、曲名を当て、その曲がスマイル動画で十万再生を越えていない、つまり、殿堂入りしていないことを言い当てた。これは、ボカロの曲を、よっぽど知っていないとできない。

 彼は、初音ミクとか、MMDとか、ボカロとかを知っている。かといって、問いただしたとしても、正直に答えるとは思えない。問いただしたい気持ちは、今にもあふれでそうだが、止めておこう。今は、自分たちが創っているMMDを完成させることが先決。

「ふー!」

 深いため息をついて、鈴がイスにのけぞった。

「終わったあ」

「えっ! 終わったの?」

「とりあえず、最後までできた。つっかれたあ!」

「早速、見てみたい!」

「ちょ、ちょっと待った。まだ、動作の微調整が済んでいないから」

「いいじゃん」

 美琴や笛子も、身を乗り出す。

「見たい! 見たい!」

「モーション提供者として、一番に見る権利を要求する」

 笛子以外の三人が、ギョッとする。

「見せて」

「はい。わかりました」

「「「笛子先輩って、こんな一面があるんだ」」」



 四人で、今、できたばかりの、MMDを見終える。

 固唾を飲み、食い入る様に見入っていた三人。あまりにも静かな様に、不安を覚える鈴。

「ど、どうだった?」

 恐る恐る、訊いてみる。

「「「ふー」」」

 三人、一斉にため息を漏らす。

 突然、ガッと結歌は鈴の手をつかみ、にぎりしめた。

「良かったよ!]

「あ、ありがとう」

「よくやった、鈴。あなたのモーションは、栄光と共、永遠に語り継がれるであろう!」

 一気に、肩の荷が卸りた鈴は、ほっとして、うっすらと涙を浮かべた。

「ごくろうさまです。そして、ありがとう」

 結歌が鈴の肩を揉む。

「次は背景に、カメラワーク、エフェクト処理だね」

 一仕事終えた鈴に、美琴が追い打ちをかける。

「ちょっとは、いたわってよ~」

「ごめん、ごめん。でも、良くできてると思うよ。ただ、最終的には完成してみないと、なんとも言えないけど」

「美琴は鬼だ。重労働を終えたあたしに、労いの言葉、ひとつかけてくれない。あまつさえ、『やっとネームが終わりましたね。じゃあ、すぐ下書きに入ってください』と、漫画家に言い放つ編集者のようだ」

「うん。だいたいあってる」

「あってるって言うなー!」

「これからどうしようか、鈴。モーションの微調整を続ける? それとも、背景やカメラワークに取りかかる?」

「背景やカメラワークによって、手を加えたくなるモーションも出てくるだろうから、先にそっちを決めようか」

「じゃあ、みんな鈴の家に行こうか」

「ちょ、ちょっと待って。なんで、あたしん家?」

「だって、MMDを創る環境は、全てそろってるでしょ」

「そりゃまあ、そうだけど」

「今日はまだ、時間あるし。善は急げ」

 結歌と笛子は、目をキラキラさせている。

「わかりました。じゃあ、行きましょう」

 ぞろぞろと、パソコン実習室を出て行くボカロ部のメンバーを、鈴木裕二は怪訝に見送った。

「俺、帰るわ」

 そう言って、裕二はバッグを持って、席を立った。

「ちょっと待てよ、鈴木。おまえの持ち分が完成してないぞ」

「明日やるよ」

「最初の締め切りから、もう一週間以上、過ぎてるじゃないか」

 裕二は無言のまま、パソコン実習室から出て行った。

「なんだ、あいつ」

「まえから、愛想の無い奴だと思ってたけど」

「やる気、ないんじゃねーの」

 部員達は、口々に、裕二の悪口を言った。

 裕二は、部室から出て行った、ボカロ部のメンバーを追うこともなく、徒歩五分の自宅に帰った。

 ドアの鍵を開け、玄関で靴を脱ぎ、階段を上がって、最初の部屋の前で立ち止まる。家のドアと同じような、頑丈な鍵を開け、ドアを開ける。薄暗い部屋に入り、ドアを閉める。

 部屋の灯りを点ける。

 すると、部屋には、所狭しとパソコンやキーボード、ギター、アンプが並べられている。

 バッグを、二段ベッドの上に放り投げ、その下にセッティングされている、パソコンや外付け機器の電源を入れる。キーボードが青く光り、ワイドモニターが、起動画面を映し出す。画面はやがて、青い髪をツインテールにまとめた、見覚えのあるキャラクターの壁紙を映す。

 初音ミクだ。

 手慣れたキーボード操作で、ひとつのフォルダを開く。『doglover』というファイルを、ダブルクリックする。すると、モニターには、ボカロ部のメンバーが、一所懸命、動画を創っていた元となる『ドッグ・ラバー』が再生された。



 中島鈴の家に集まった、ボカロ部メンバー。藤田結歌。下田美琴。浅川笛子が、パソコンのモニターを覗きこみながら、喧々囂々、侃々諤々、話しながら、どつき合っている。

「だから、ここのモーションには、ヨーロッパの街並みが合うんだって」

「イヤイヤ、そこはゲキド街でしょう」

「あたしは、SFちっくに、空に浮かぶ鍵盤が良いと思う」

 曲の出だし、主人公と犬(に見立てた彼)が散歩に出るシーンから、背景について揉めに揉めている。

「歌詞は、公園へ散歩ってあるんだから、ゲキド街の公園でしょ」

「美琴は何もわかってない。歌詞のとおり、背景を描かなきゃいけないなんて決まりはない。

PVは、曲調と歌詞の雰囲気が合っていれば、なんでもいい」

「笛子先輩のほうがわかってないと思います。いくらなんでも、空中鍵盤じゃ違いすぎる」

「だから、ヨーロッパの街並みをですね、おふたりさん」

「結歌の言う、その街並み、VPVPWikiにアップされてないじゃん」

「そんなことないよ。MMD杯でいろんな人が使ってる。どっかにアップされてるはず」

「じゃあ、鈴。見つけて」

「言われなくても、捜してるって」

 そんな様子を、ふたりの男の子が見ている。金太郎と銀次郎だ。

「ねーちゃんたち、こえぇ」

「見つけた! あった!」

 鈴が大声をあげる。

「「「おおー」」」

 鈴が背景を、モニター展開する。

「どう思う?」

 目を輝かせている結歌に対し、いまいち納得しがたい表情の美琴と笛子。

「うーん。良いっちゃ、良いけど」

「やっぱり、見比べたい」

「はいはい」

 鈴は指示どおり、ゲキド街や空中鍵盤、ヨーロッパの街並みの他、アップされている背景を、手当たり次第、モーションに合わせてみた。

「こうして見比べると、ヨーロッパ街が一番、合ってる気がする」

「私もそんな気がしてきた」

「ね、ね、あたしの言ったとおりでしょ」

「まあ、スタートはこれで良いんじゃない?」

「同意する」

「やった! じゃあ、鈴。背景はこれで」

「いや、ちょっと待て。スタートはこれで良いとして、その次はどうするの? カメラワークは?」

「そういえばだいぶ前、結歌が言ってたよね。非現実的な感じ」

「ピアノの鍵盤で彼を散歩して、水銀のように反射する噴水で水遊び。風船の飛ぶ、ヨーロッパの街並みを駆け抜けて、七色のヒカリが点滅する、不思議な部屋に迷い込んで、飛び出したら、学校の校庭だった。だっけ?」

「よく覚えてたね」

「結歌ちゃん。尊敬する」

「いやあ、それほどでも」

「カメラワークは?」

「そうだな…。スタートは街の小路地。カメラはミク中心にして、リードを握っている手は、常にフレームから見切れていて、握っているのが本当に犬のリードなのか、彼氏の手なのか、わからないようにする。ミクを中心にカメラが周りを回って、視点もメリーゴーランドで上下する馬みたいに。でも、絶対に、手の先は見せない」

「ほうほう」

 鈴が言われたとおり、カメラを動かす。実際のモーションで、ミクの右手は何も握っていない。右手から先が写りそうになった時は、カメラを空か地面に向け、あくまでも右手で何を握っているかは、フレームに入れない。

「ちょっと待った!」

「なに?」

「今、ミクの足下、写したよね」

「うん。それが?」

「足下に映った影。右手の先まで入ってる」

「あ、ホントだ。よく気がついたね」

「あたしからも言いたい」

「ど、どうぞ笛子先輩」

「正面から撮影した映像をトレースしたせいかも知れないけど、前後のモーションがおざなり」

「すいません。その辺は想像でやりました」

「それと、スカートの物理演算は、もっと軽い設定で良い」

「でも、軽くすると、足がスカート、突き抜けちゃうんですよ」

「スカートにもっと、ボーンを入れて、当たり判定を厳しくすれば良いと思う」

「でも、なんで軽い方が良いんですか?」

「ダンスでは、スカートとか、フリルとか、大きく動いていた方が、見栄えが良い」

「なるほど」

 熱く語りあう三人の外で、美琴がひとり冷めていた。

「じゃあ、後の動画作りは、みんなに任せるわ」

「え? なんで?」

「だって私は、鈴みたいにMMDを使えないし、笛子先輩みたいにモーションにアドバイスできないし、結歌みたいに、動画の演出? っていうの? そんなことできないし」

「そんなこと無い。美琴の歌声は、私のダンスにイメージをくれた」

「それもモーションになっちゃえば、もう出番、無いしね」

「「「…」」」

 そこに、金太郎と銀次郎がやってくる。

「ねーちゃん。お腹減った。飯まだ?」

 鈴はハッとなって、時計を見た。

「いっけない。もうこんな時間。すぐに支度するね」

 鈴がみんなを見る。

「ごめん、みんな」

「いや、うちらの方こそ、遅くまでごめん」

 鈴以外の三人が、アパートを後にした。

 帰りがてら、なにを話すでもなく、ただ、歩いていた。

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