ねえ、ホントにこれ、神様のご褒美なの?

 誰かが、何かを自分に告げた。


 ルキノは目が覚めた。


 目覚める前の最後の記憶。濁流の中、少年を連れ、川岸近くまで移動したが。そこで水位、水量ともさらに増し、進退窮まった事。


 子供達が他の大人を引き連れて、戻ってきた事。


 大人が数人掛かりで支えあい、手を繋いで川に入り。川岸から何とか自分達を救い出そうとしてくれた事。


 少年を無事、大人達に託せた事。


 自分も必死に手を伸ばし、大人の手を掴んだ事。


 直後、濁流で流された杭と鉄線が絡みつき、押し流される。必死に抵抗したが、掴んだ手が滑り、沈んだ事。


 意識が遠のくまで、思い。願った事。


 ルキノは周囲を見渡した。ここが病院で無い事は想像がつく、夢にしては感覚?がリアル過ぎる。だとすれば死後の世界、、、、、天国か?はたまた地獄か。


 綺麗な場所だと思った。太陽は見えないが、上は雲一つ無い青空。足元は水面だろうか?自分の姿が映り込んでいた。歩くと波紋が広がる。沈む事や、冷たいと感じる事は無かった。遠くには水平線だろうか、天と地の境目が見える。天国だろうか?


 「地獄では無いよ。」


 ぼんやりと考えた事に返事を返され、ルキノは驚き振り向いた。


 ソコに「白衣の男」が立っていた、色白で白髪。碧眼が印象的だった。日本人に見えないが、聴こえて来たのは流暢な日本語だった。「後光」では無いが、その男性が少し光って見えるのは間違いない。


 「意外と落ち着いているんだね」。


 男がルキノに言った。


 「今、心臓が飛び出すかと思うくらい驚いたは、、、、心臓があればだけど。」


 ルキノが返した言葉に、男はまぶたを閉じ、軽く鼻で笑った。ルキノは相手の態度に軽く苛立ちを覚える。


 再び目を開いた男は、ルキノに対し威圧気味な視線を向け、朗々と語り始めた。


 「自己紹介しよう、私は案内人。神様から君の為に派遣されたと考えてくれれば良い。」


 「簡潔に説明しよう。君は死んだ、これから死後の世界に旅立つ事になる。本来これは意識する事無く。死後「自動的」に行われる流れの様なものだが、時に幾つか例外がある。」


 男は一気にソコまで喋ると、間を置きルキノの反応を覗った。対してルキノは黙って次の言葉を待っていた。


 現状の置かれた状況を知りうる情報は、目の前の男の言葉だけだと解っている。白衣の男「案内人」は、対象者の聡明さを見た。過去に取り乱し、選択を誤る対象者を数多く見た。状況を考えれば無理も無い事だが。


 案内人はルキノに告げる。


 「神様は君の思いを耳にされ、私を遣わされた。悦び給え、これは滅多に無い事だ。私はこれから君の願い、思い、望みを一つ叶える為のルールを説明し。それが叶うようサポートする。」


 「先んじて言っておこう。生き返ることは出来ない。いや、しない方が良いだろう。過去に上手くいった試がない。たいていは試練に失敗して、もっと悲惨な末路になる。忠告はしたよ」


 「ただ、遣り残した事、叶えたかった望みがあれば、それを実現、又は可能な限り実現させる事が出来る。」


 「死んでるのにどうやって?」


 ルキノは始めて口を挟んだ。


 「簡単な事だ、君の遺志を継ぐものが現れ、事業や物事が継続され達成される。既にそういった後継者、継承者ががいるなら、彼等、彼女達の手によって目的が確実に完遂されるという事だ。」


 「あまり、今の私にメリットは無い話ね。」


 「そうか?道半ばで倒れ、失意と無念で旅立つよりも。掛けた情熱が達成されるのであれば、それが一番のはずでは?今まで生きて来た事には意味があった。そう確信、確認して旅立てる事は幸福だと思うがね。」


 案内人の言葉はもっともかもしれないと思った。


 「それと、今、突然思いついた事も止めた方が良い。生き返る程じゃ無いけど、試練の難易度が上がって失敗しやすくなる。」


 「ねえ、ホントにこれ、神様のご褒美なの?」

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